嘘ばかりの婚約者様、どうぞ愛する人とお幸せに

風見ゆうみ

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33  何も知らない婚約者 ②

 ティファリーが大きなため息を吐くと、副店長の中年の男性が彼女に話しかけた。

「ティファリー様、もうすぐ殿下がいらっしゃるお時間です。ゲッティ様は私が応対してきましょうか」
「ありがとうございます。お願いしたいところですが、彼は私が出ていかないと納得しないでしょう」

 ティファリーは帳簿を閉じて立ち上がる。

「私が対応いたします。殿下がお見えになったら連絡をください」

 今日はポッポたちも連れてきてくれるとのことだったので、店内には入れないが、外で戯れることにしていた。
 そのため、白のブラウスに黒のロングスカートというラフな服装で、ケインの許可も得ているし、彼もラフな格好で来ると聞いている。
 ティファリーが扉を開けると、彼女の姿を見たゲッティは鼻で笑った。
 
 ゲッティには、宝石店の営業をするには安っぽい服装に見えたのだ。

「君は僕と出かけなくなってから、服装に気を遣わなくなったのか?」
「今日のお客様に合わせただけですが?」
「平民でも来るのかな? 貴族が来てくれないんなら、僕が経営している宝石店には敵わないんじゃないかな?」

 ゲッティは満面の笑みを浮かべて言った。

 パス伯爵領は隣接している。ゲッティは公爵領との境界に近い伯爵領内の繁華街に宝石店を開店させている。

「ティファリー、僕と勝負をしないか」
「嫌です」
「そんなに難しく……って、は?」

『は?』という、聞き返し方がノーリーと同じことに似た者同士だったのだろうと感じながら、ティファリーは答える。

「嫌だと言いました。これからお客様がお見えになるので大人しくお帰りください」
「客といってもそんな服装なんだ。大した客じゃないんだろう?」
「今回はお客様のご希望の服装なのです」

 ティファリーが呆れ顔で答えた時、馬車が店の前に停まり、中からケインが降りてきた。
 ティファリーからは兵士がいるせいでケインの姿は見えないが、馬車が停まったことはわかった。

 騒ぎに気がついたケインは、ポッポとポポーポを抱きかかえ、ゲッティを取り囲んでいる兵士の後ろに立った。兵士はそのことに気が付き、一礼して場を退く。
 ティファリーがケインと目を合わせると、彼は口に人差し指を当て黙っているように指示した。

(殿下のご厚意に甘えましょうか)
 
 ティファリーがにこりと微笑むと「「ホッホロー!」」とポッポたちは嬉しそうに鳴いた。

 その声に気づかないゲッティに、ティファリーは話しかける。

「ゲッティ、あなたは先程、これから来るお客様のことをなんとおっしゃっていましたっけ?」
「は? 大した客じゃない、だよ。それがどうしたと言うんだい?」

 ゲッティが肩をすくめて答えた時、背後に立つケインが口を開いた。

「大した客じゃなくて悪かったな」
「……は? 君が客かい?」

 笑いながらゲッティは振り返ったが、相手の顔を見た瞬間、金縛りにあったかのように目を見開いたまま動きを止めた。
 
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