33 / 40
33 何も知らない婚約者 ②
ティファリーが大きなため息を吐くと、副店長の中年の男性が彼女に話しかけた。
「ティファリー様、もうすぐ殿下がいらっしゃるお時間です。ゲッティ様は私が応対してきましょうか」
「ありがとうございます。お願いしたいところですが、彼は私が出ていかないと納得しないでしょう」
ティファリーは帳簿を閉じて立ち上がる。
「私が対応いたします。殿下がお見えになったら連絡をください」
今日はポッポたちも連れてきてくれるとのことだったので、店内には入れないが、外で戯れることにしていた。
そのため、白のブラウスに黒のロングスカートというラフな服装で、ケインの許可も得ているし、彼もラフな格好で来ると聞いている。
ティファリーが扉を開けると、彼女の姿を見たゲッティは鼻で笑った。
ゲッティには、宝石店の営業をするには安っぽい服装に見えたのだ。
「君は僕と出かけなくなってから、服装に気を遣わなくなったのか?」
「今日のお客様に合わせただけですが?」
「平民でも来るのかな? 貴族が来てくれないんなら、僕が経営している宝石店には敵わないんじゃないかな?」
ゲッティは満面の笑みを浮かべて言った。
パス伯爵領は隣接している。ゲッティは公爵領との境界に近い伯爵領内の繁華街に宝石店を開店させている。
「ティファリー、僕と勝負をしないか」
「嫌です」
「そんなに難しく……って、は?」
『は?』という、聞き返し方がノーリーと同じことに似た者同士だったのだろうと感じながら、ティファリーは答える。
「嫌だと言いました。これからお客様がお見えになるので大人しくお帰りください」
「客といってもそんな服装なんだ。大した客じゃないんだろう?」
「今回はお客様のご希望の服装なのです」
ティファリーが呆れ顔で答えた時、馬車が店の前に停まり、中からケインが降りてきた。
ティファリーからは兵士がいるせいでケインの姿は見えないが、馬車が停まったことはわかった。
騒ぎに気がついたケインは、ポッポとポポーポを抱きかかえ、ゲッティを取り囲んでいる兵士の後ろに立った。兵士はそのことに気が付き、一礼して場を退く。
ティファリーがケインと目を合わせると、彼は口に人差し指を当て黙っているように指示した。
(殿下のご厚意に甘えましょうか)
ティファリーがにこりと微笑むと「「ホッホロー!」」とポッポたちは嬉しそうに鳴いた。
その声に気づかないゲッティに、ティファリーは話しかける。
「ゲッティ、あなたは先程、これから来るお客様のことをなんとおっしゃっていましたっけ?」
「は? 大した客じゃない、だよ。それがどうしたと言うんだい?」
ゲッティが肩をすくめて答えた時、背後に立つケインが口を開いた。
「大した客じゃなくて悪かったな」
「……は? 君が客かい?」
笑いながらゲッティは振り返ったが、相手の顔を見た瞬間、金縛りにあったかのように目を見開いたまま動きを止めた。
「ティファリー様、もうすぐ殿下がいらっしゃるお時間です。ゲッティ様は私が応対してきましょうか」
「ありがとうございます。お願いしたいところですが、彼は私が出ていかないと納得しないでしょう」
ティファリーは帳簿を閉じて立ち上がる。
「私が対応いたします。殿下がお見えになったら連絡をください」
今日はポッポたちも連れてきてくれるとのことだったので、店内には入れないが、外で戯れることにしていた。
そのため、白のブラウスに黒のロングスカートというラフな服装で、ケインの許可も得ているし、彼もラフな格好で来ると聞いている。
ティファリーが扉を開けると、彼女の姿を見たゲッティは鼻で笑った。
ゲッティには、宝石店の営業をするには安っぽい服装に見えたのだ。
「君は僕と出かけなくなってから、服装に気を遣わなくなったのか?」
「今日のお客様に合わせただけですが?」
「平民でも来るのかな? 貴族が来てくれないんなら、僕が経営している宝石店には敵わないんじゃないかな?」
ゲッティは満面の笑みを浮かべて言った。
パス伯爵領は隣接している。ゲッティは公爵領との境界に近い伯爵領内の繁華街に宝石店を開店させている。
「ティファリー、僕と勝負をしないか」
「嫌です」
「そんなに難しく……って、は?」
『は?』という、聞き返し方がノーリーと同じことに似た者同士だったのだろうと感じながら、ティファリーは答える。
「嫌だと言いました。これからお客様がお見えになるので大人しくお帰りください」
「客といってもそんな服装なんだ。大した客じゃないんだろう?」
「今回はお客様のご希望の服装なのです」
ティファリーが呆れ顔で答えた時、馬車が店の前に停まり、中からケインが降りてきた。
ティファリーからは兵士がいるせいでケインの姿は見えないが、馬車が停まったことはわかった。
騒ぎに気がついたケインは、ポッポとポポーポを抱きかかえ、ゲッティを取り囲んでいる兵士の後ろに立った。兵士はそのことに気が付き、一礼して場を退く。
ティファリーがケインと目を合わせると、彼は口に人差し指を当て黙っているように指示した。
(殿下のご厚意に甘えましょうか)
ティファリーがにこりと微笑むと「「ホッホロー!」」とポッポたちは嬉しそうに鳴いた。
その声に気づかないゲッティに、ティファリーは話しかける。
「ゲッティ、あなたは先程、これから来るお客様のことをなんとおっしゃっていましたっけ?」
「は? 大した客じゃない、だよ。それがどうしたと言うんだい?」
ゲッティが肩をすくめて答えた時、背後に立つケインが口を開いた。
「大した客じゃなくて悪かったな」
「……は? 君が客かい?」
笑いながらゲッティは振り返ったが、相手の顔を見た瞬間、金縛りにあったかのように目を見開いたまま動きを止めた。
あなたにおすすめの小説
婚約者の母に疎まれ続けたので、結婚直前ですが先に別の公爵家へ嫁ぎます~今さら惜しまれてももう戻りません~
なつめ
恋愛
侯爵令嬢ネフェリナ・ヴァルケインは、幼い頃から決められていた婚約を守るため、十年近くローディアス・フェルゼンの母に耐え続けてきた。
作法を否定され、贈り物を笑われ、亡き母の思い出まで踏みにじられても、婚約者がいつか自分を守ってくれると信じていたからだ。
けれど結婚式を目前にしても、ローディアスは一度として母を止めなかった。
そのうえ最後には、ネフェリナの我慢を当然のように求める。
もう十分です。
そうして彼女は婚約を解消し、以前から打診のあった北方の名門公爵家へ嫁ぐことを選ぶ。
冷徹と噂される若き公爵セヴェリオ・アルスレイン。
だが彼は、誰よりも静かで、誰よりも確実にネフェリナの尊厳を守る男だった。
去られて初めて焦る元婚約者一家。
けれどその頃にはもう、ネフェリナには新しい居場所ができていた。
これは、長く耐えた令嬢が自分で自分を救い、静かな溺愛の中で本当の幸福を選び直す物語。
姉は不要と判断された~奪うことしか知らない妹は、最後に何も残らなかった~
ゆめ@マンドラゴラ
恋愛
妹にすべてを奪われ続けてきた姉。
ついには婚約者まで狙われ、「不要とされた」。
それは、誰にとっての「不要」だったのか。
「不要とされた」シリーズ第二弾。
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
白い結婚十年目、ようやく離縁できると思ったのに 〜冷酷公爵は今さら私を手放さない〜
なつめ
恋愛
十年前、家のために嫁いだ公爵家で、イゼルディナは結婚初夜に告げられた。
「この結婚は白い結婚だ。十年後、お前を離縁する」
愛されない妻として、公爵家のためだけに尽くした十年。
社交、屋敷、領地経営、赤字整理、人脈づくり。夫の隣には立てなくても、公爵家を支えたのは間違いなく彼女だった。
だからこそ、約束通りの離縁状に署名した時、彼女はようやく自由になれると思った。
けれど、冷酷なはずの夫セヴェリオンは、その離縁を認めない。
しかも今さら執着するように、優しく、激しく、取り戻すように迫ってくる。
遅すぎる。
そう突き放すイゼルディナだったが、やがて公爵家に巣食っていた悪意と、セヴェリオンが十年間ひた隠しにしていた真実が明らかになる。
これは、失った十年を「なかったこと」にはせず、
それでも自分の尊厳を取り戻した女が、最後は自分の意志で幸福を選び直す物語。
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
幼なじみで私の友達だと主張してお茶会やパーティーに紛れ込む令嬢に困っていたら、他にも私を利用する気満々な方々がいたようです
珠宮さくら
恋愛
アンリエット・ノアイユは、母親同士が仲良くしていたからという理由で、初めて会った時に友達であり、幼なじみだと言い張るようになったただの顔なじみの侯爵令嬢に困り果てていた。
だが、そんな令嬢だけでなく、アンリエットの周りには厄介な人が他にもいたようで……。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。