【本編完結】家族に裏切られた私が嫁いだ相手は、姉が長年片思いしていた公爵令息でした

風見ゆうみ

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36  姉の叫び ①

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「終わりってどういうこと? 一体何があったの?」

 動揺しているお姉様の声が聞こえてきました。ただ、小さな声は私たちの耳には届きませんので、扉に近づくと、お姉様からの聴取を担当している女性が、静かに扉を少しだけ開けてくれました。

「ありがとうございます」
「いえ。室内で何かあれば、担当の私の責任になりますので」

 お礼を言うと、女性は苦笑しました。私のためではなく自分の意思でやったと言ってくれる気遣いに感謝して無言で頷きました。

 ほんの少しの隙間ですので、お姉様たちの様子は見えませんが、おかげで中の声がはっきりと聞こえるようになりました。扉が開いたことについて、興奮して話をしている二人は、一切気づいていないようです。

「シアリン様は君からジェリク様を奪ってなんていなかった」
「そんなことないわ! それよりもど、どうしてシアリンの肩を持つの? あなたはシアリンのことを嫌っていたじゃない! それなのに!」
「やめてくれ!」

 私たちが部屋の外にいると知っているテータ男爵令息は、大きな声で否定します。

「僕はシアリン様のことを嫌ってなんていない! 悪口を言っていたのは君に騙されたからだ!」 
 
 サブル殿下と同じようなことを言っていますね。事実を調べずにお姉様の言うことを鵜呑みにしていたのですから、今回の件について、私は彼に同情はできません。

 老人や子供が相手ならまだしも、テータ男爵令息には嘘か本当かを調べる判断能力はあるはずです。

「あいつはやる気があるのか」

 呟いたジェリク様を見て、部屋の前に立っている見張りたちがびくりと体を震わせました。私には表情が見えないようにか、ジェリク様は顔を背けていたため、どんな顔をしたのかわかりませんでした。

 私以外の人は怯えていますし、よっぽど怖い顔をしていたのでしょうか。

「あの、ジェリク様」

 小声で話しかけると、ジェリク様は満面の笑みを浮かべて振り向きます。

「シアリン、どうかしたか?」
「いえ、呼んでみただけです」
「そうか」

 嬉しそうに笑うジェリク様に微笑み返すと「別人?」「怖かったぁ」など、囁く声が聞こえてきました。

 私もそうですが、ジェリク様が苛ついているのは確かなようです。
 
 テータ男爵令息には、聞いただけではなく、できれば本人の口から言っているところを第三者の耳にも聞かせたいと伝えています。
 お姉様の口から、私や予知夢の話を吐いてもらってから踏み込みたいのです。

 そう思った時、ジェリク様の圧が伝わったのか、テータ男爵令息が叫びます。

「シアリン様と仲良くしてくれ!」
「……何を言っているの?」
「君はシアリン様にいじめられているんだよな!?」
「……そうよ! だから仲良くなんてできない!」
「そこを何とかしてもらってくれ! 昔は仲が良かったんだろう!? 床に額を付けて謝れば許してくれるかもしれない!」
「嫌よ! どうして私がシアリンなんかにそんなことをしなければならないの!」
「……そんなだから、ジェリク様に相手にされないんだ」

 この言葉はお姉様にとって、どうしても言われたくない言葉だったようです。お姉様は弱々しいふりをやめて、テータ男爵令息を罵倒し始めます。

「あなたみたいな低位貴族の息子に何がわかるって言うの! 伯爵家に生まれ、長女として生まれた私は選ばれし者! ジェリク様のような素敵な人に選ばれるべき存在なのよ!」
「なら、どうして、あんなことを言ったんだ?」
「……あんなこと?」
「さっき言ったことだよ」

 やっと、お姉様の口から待っていた言葉が聞けそうです。テータ男爵には、お姉様の私への敵意を焚き付けるような発言をしてほしいとも伝えています。
 お姉様、あなたは感情をコントロールすることなんて、私以上にできませんよね?

「シアリンを誘惑しろという話?」
「そうだよ。君が選ばれし者なら、そんなことをしなくてもジェリク様は君のものになるだろう! シアリン様のほうが君よりも優れているからジェリク様に選ばれたんだ!」
「そんなわけないでしょう! シアリンが誰かに選ばれるわけない! だから、あなたに誘惑しろと言っているのよ!」

 誰かに頼まなければ、私にちょっかいをかける人なんていないと言いたいようです。
 まあ、間違っていませんけどね。だからこそ、予知夢ではないとわかるわけです。

「どうして誘惑しないといけないんだ?」
「予知夢が見れると証明ができたら、シアリンは私の言いなりになるからよ!」
「……予知夢を見たなら何もしなくてもいいじゃないか」
「言ったでしょう! シアリンが誰かに選ばれるわけないって!」
「予知夢じゃないのか?」
「……扉が開いてない?」

 お姉様は警戒しているようで、テータ男爵令息に扉を確認するように指示しました。男爵令息は無言でこちらに近づいてくると、扉を閉める戻っていきます。

「これでいいか? 教えてくれ。君は予知夢が見れないのか?」
「……そうなの。本当は予知夢なんて見ることができない。でも、そんな嘘をつくようにシアリンに命令されたの! きっと、私を死刑にしたいんだわ!」

 呼吸をするかのように嘘をつくお姉様に、私もとうとう我慢できなくなりました。扉を勢いよく開けて、お姉様に話しかけます。

「お姉様を死刑にしたって、なんのメリットもないのですが?」

 現れた私を見たお姉様は、まるで化け物でも見たかのような驚愕の表情を浮かべていたのでした。





 
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