40 / 59
36 姉の叫び ①
しおりを挟む
「終わりってどういうこと? 一体何があったの?」
動揺しているお姉様の声が聞こえてきました。ただ、小さな声は私たちの耳には届きませんので、扉に近づくと、お姉様からの聴取を担当している女性が、静かに扉を少しだけ開けてくれました。
「ありがとうございます」
「いえ。室内で何かあれば、担当の私の責任になりますので」
お礼を言うと、女性は苦笑しました。私のためではなく自分の意思でやったと言ってくれる気遣いに感謝して無言で頷きました。
ほんの少しの隙間ですので、お姉様たちの様子は見えませんが、おかげで中の声がはっきりと聞こえるようになりました。扉が開いたことについて、興奮して話をしている二人は、一切気づいていないようです。
「シアリン様は君からジェリク様を奪ってなんていなかった」
「そんなことないわ! それよりもど、どうしてシアリンの肩を持つの? あなたはシアリンのことを嫌っていたじゃない! それなのに!」
「やめてくれ!」
私たちが部屋の外にいると知っているテータ男爵令息は、大きな声で否定します。
「僕はシアリン様のことを嫌ってなんていない! 悪口を言っていたのは君に騙されたからだ!」
サブル殿下と同じようなことを言っていますね。事実を調べずにお姉様の言うことを鵜呑みにしていたのですから、今回の件について、私は彼に同情はできません。
老人や子供が相手ならまだしも、テータ男爵令息には嘘か本当かを調べる判断能力はあるはずです。
「あいつはやる気があるのか」
呟いたジェリク様を見て、部屋の前に立っている見張りたちがびくりと体を震わせました。私には表情が見えないようにか、ジェリク様は顔を背けていたため、どんな顔をしたのかわかりませんでした。
私以外の人は怯えていますし、よっぽど怖い顔をしていたのでしょうか。
「あの、ジェリク様」
小声で話しかけると、ジェリク様は満面の笑みを浮かべて振り向きます。
「シアリン、どうかしたか?」
「いえ、呼んでみただけです」
「そうか」
嬉しそうに笑うジェリク様に微笑み返すと「別人?」「怖かったぁ」など、囁く声が聞こえてきました。
私もそうですが、ジェリク様が苛ついているのは確かなようです。
テータ男爵令息には、聞いただけではなく、できれば本人の口から言っているところを第三者の耳にも聞かせたいと伝えています。
お姉様の口から、私や予知夢の話を吐いてもらってから踏み込みたいのです。
そう思った時、ジェリク様の圧が伝わったのか、テータ男爵令息が叫びます。
「シアリン様と仲良くしてくれ!」
「……何を言っているの?」
「君はシアリン様にいじめられているんだよな!?」
「……そうよ! だから仲良くなんてできない!」
「そこを何とかしてもらってくれ! 昔は仲が良かったんだろう!? 床に額を付けて謝れば許してくれるかもしれない!」
「嫌よ! どうして私がシアリンなんかにそんなことをしなければならないの!」
「……そんなだから、ジェリク様に相手にされないんだ」
この言葉はお姉様にとって、どうしても言われたくない言葉だったようです。お姉様は弱々しいふりをやめて、テータ男爵令息を罵倒し始めます。
「あなたみたいな低位貴族の息子に何がわかるって言うの! 伯爵家に生まれ、長女として生まれた私は選ばれし者! ジェリク様のような素敵な人に選ばれるべき存在なのよ!」
「なら、どうして、あんなことを言ったんだ?」
「……あんなこと?」
「さっき言ったことだよ」
やっと、お姉様の口から待っていた言葉が聞けそうです。テータ男爵には、お姉様の私への敵意を焚き付けるような発言をしてほしいとも伝えています。
お姉様、あなたは感情をコントロールすることなんて、私以上にできませんよね?
「シアリンを誘惑しろという話?」
「そうだよ。君が選ばれし者なら、そんなことをしなくてもジェリク様は君のものになるだろう! シアリン様のほうが君よりも優れているからジェリク様に選ばれたんだ!」
「そんなわけないでしょう! シアリンが誰かに選ばれるわけない! だから、あなたに誘惑しろと言っているのよ!」
誰かに頼まなければ、私にちょっかいをかける人なんていないと言いたいようです。
まあ、間違っていませんけどね。だからこそ、予知夢ではないとわかるわけです。
「どうして誘惑しないといけないんだ?」
「予知夢が見れると証明ができたら、シアリンは私の言いなりになるからよ!」
「……予知夢を見たなら何もしなくてもいいじゃないか」
「言ったでしょう! シアリンが誰かに選ばれるわけないって!」
「予知夢じゃないのか?」
「……扉が開いてない?」
お姉様は警戒しているようで、テータ男爵令息に扉を確認するように指示しました。男爵令息は無言でこちらに近づいてくると、扉を閉めるふりをして戻っていきます。
「これでいいか? 教えてくれ。君は予知夢が見れないのか?」
「……そうなの。本当は予知夢なんて見ることができない。でも、そんな嘘をつくようにシアリンに命令されたの! きっと、私を死刑にしたいんだわ!」
呼吸をするかのように嘘をつくお姉様に、私もとうとう我慢できなくなりました。扉を勢いよく開けて、お姉様に話しかけます。
「お姉様を死刑にしたって、なんのメリットもないのですが?」
現れた私を見たお姉様は、まるで化け物でも見たかのような驚愕の表情を浮かべていたのでした。
動揺しているお姉様の声が聞こえてきました。ただ、小さな声は私たちの耳には届きませんので、扉に近づくと、お姉様からの聴取を担当している女性が、静かに扉を少しだけ開けてくれました。
「ありがとうございます」
「いえ。室内で何かあれば、担当の私の責任になりますので」
お礼を言うと、女性は苦笑しました。私のためではなく自分の意思でやったと言ってくれる気遣いに感謝して無言で頷きました。
ほんの少しの隙間ですので、お姉様たちの様子は見えませんが、おかげで中の声がはっきりと聞こえるようになりました。扉が開いたことについて、興奮して話をしている二人は、一切気づいていないようです。
「シアリン様は君からジェリク様を奪ってなんていなかった」
「そんなことないわ! それよりもど、どうしてシアリンの肩を持つの? あなたはシアリンのことを嫌っていたじゃない! それなのに!」
「やめてくれ!」
私たちが部屋の外にいると知っているテータ男爵令息は、大きな声で否定します。
「僕はシアリン様のことを嫌ってなんていない! 悪口を言っていたのは君に騙されたからだ!」
サブル殿下と同じようなことを言っていますね。事実を調べずにお姉様の言うことを鵜呑みにしていたのですから、今回の件について、私は彼に同情はできません。
老人や子供が相手ならまだしも、テータ男爵令息には嘘か本当かを調べる判断能力はあるはずです。
「あいつはやる気があるのか」
呟いたジェリク様を見て、部屋の前に立っている見張りたちがびくりと体を震わせました。私には表情が見えないようにか、ジェリク様は顔を背けていたため、どんな顔をしたのかわかりませんでした。
私以外の人は怯えていますし、よっぽど怖い顔をしていたのでしょうか。
「あの、ジェリク様」
小声で話しかけると、ジェリク様は満面の笑みを浮かべて振り向きます。
「シアリン、どうかしたか?」
「いえ、呼んでみただけです」
「そうか」
嬉しそうに笑うジェリク様に微笑み返すと「別人?」「怖かったぁ」など、囁く声が聞こえてきました。
私もそうですが、ジェリク様が苛ついているのは確かなようです。
テータ男爵令息には、聞いただけではなく、できれば本人の口から言っているところを第三者の耳にも聞かせたいと伝えています。
お姉様の口から、私や予知夢の話を吐いてもらってから踏み込みたいのです。
そう思った時、ジェリク様の圧が伝わったのか、テータ男爵令息が叫びます。
「シアリン様と仲良くしてくれ!」
「……何を言っているの?」
「君はシアリン様にいじめられているんだよな!?」
「……そうよ! だから仲良くなんてできない!」
「そこを何とかしてもらってくれ! 昔は仲が良かったんだろう!? 床に額を付けて謝れば許してくれるかもしれない!」
「嫌よ! どうして私がシアリンなんかにそんなことをしなければならないの!」
「……そんなだから、ジェリク様に相手にされないんだ」
この言葉はお姉様にとって、どうしても言われたくない言葉だったようです。お姉様は弱々しいふりをやめて、テータ男爵令息を罵倒し始めます。
「あなたみたいな低位貴族の息子に何がわかるって言うの! 伯爵家に生まれ、長女として生まれた私は選ばれし者! ジェリク様のような素敵な人に選ばれるべき存在なのよ!」
「なら、どうして、あんなことを言ったんだ?」
「……あんなこと?」
「さっき言ったことだよ」
やっと、お姉様の口から待っていた言葉が聞けそうです。テータ男爵には、お姉様の私への敵意を焚き付けるような発言をしてほしいとも伝えています。
お姉様、あなたは感情をコントロールすることなんて、私以上にできませんよね?
「シアリンを誘惑しろという話?」
「そうだよ。君が選ばれし者なら、そんなことをしなくてもジェリク様は君のものになるだろう! シアリン様のほうが君よりも優れているからジェリク様に選ばれたんだ!」
「そんなわけないでしょう! シアリンが誰かに選ばれるわけない! だから、あなたに誘惑しろと言っているのよ!」
誰かに頼まなければ、私にちょっかいをかける人なんていないと言いたいようです。
まあ、間違っていませんけどね。だからこそ、予知夢ではないとわかるわけです。
「どうして誘惑しないといけないんだ?」
「予知夢が見れると証明ができたら、シアリンは私の言いなりになるからよ!」
「……予知夢を見たなら何もしなくてもいいじゃないか」
「言ったでしょう! シアリンが誰かに選ばれるわけないって!」
「予知夢じゃないのか?」
「……扉が開いてない?」
お姉様は警戒しているようで、テータ男爵令息に扉を確認するように指示しました。男爵令息は無言でこちらに近づいてくると、扉を閉めるふりをして戻っていきます。
「これでいいか? 教えてくれ。君は予知夢が見れないのか?」
「……そうなの。本当は予知夢なんて見ることができない。でも、そんな嘘をつくようにシアリンに命令されたの! きっと、私を死刑にしたいんだわ!」
呼吸をするかのように嘘をつくお姉様に、私もとうとう我慢できなくなりました。扉を勢いよく開けて、お姉様に話しかけます。
「お姉様を死刑にしたって、なんのメリットもないのですが?」
現れた私を見たお姉様は、まるで化け物でも見たかのような驚愕の表情を浮かべていたのでした。
3,163
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
妹の嘘を信じて婚約破棄するのなら、私は家から出ていきます
天宮有
恋愛
平民のシャイナは妹ザロアのために働き、ザロアは家族から溺愛されていた。
ザロアの学費をシャイナが稼ぎ、その時に伯爵令息のランドから告白される。
それから数ヶ月が経ち、ザロアの嘘を信じたランドからシャイナは婚約破棄を言い渡されてしまう。
ランドはザロアと結婚するようで、そのショックによりシャイナは前世の記憶を思い出す。
今まで家族に利用されていたシャイナは、家から出ていくことを決意した。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる