【本編完結】家族に裏切られた私が嫁いだ相手は、姉が長年片思いしていた公爵令息でした

風見ゆうみ

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49  父の嘘

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 まさか、両親を蹴り飛ばした馬は、私が乗っているキャビンを引いている馬なのでしょうか。公爵家の馬ですし、城下町を走ることは多々あるでしょうし、喧騒には慣れているかもしれませんが、お母様の叫び声は馬にとって珍しいものかもしれません。
 それにしても、お母様は私の忠告を聞く気はないのでしょうか。『馬に注意』と伝えているのに、私の助言は役に立たなかったようです。もしくは、目の前の馬を馬だと認識していないのでしょうか。お母様にとっての馬は、どんな動物なのでしょうね!

「シアリン! もういいでしょう! あの子は十分に罰を受けたわ! 家に帰らせてあげて!」

 お母様の訴えにため息を吐いてから、ジェリク様に話しかけます。

「申し訳ございませんがお願いしたいことがあるのです」
「何だ? 俺が相手をしてきたらいいのか?」
「いいえ。お母様の相手は私がしますので、ジェリク様にはジェフさんや護衛騎士に伝えてほしいことがあるのです」
「何をだ?」

 聞き返してきたジェリク様でしたが、言わなくても理解してくださったようで、大きく首を縦に振ります。

「ああ、そうか。わかった。だが、君にも護衛は必要だ」
「ありがとうございます。では、二人ほどお貸しいただけますか?」
「もちろんだ。君は俺の妻なんだから遠慮しなくていい」

 優しく微笑んで私の頬に触れてくるジェリク様にドキドキした私でしたが、すぐに現実に戻されます。

「シアリン! 私たちが死んでもいいって言うの!」
「おい! まだ私は死にたくないぞ! 死ぬなら一人で死ね!」
「何を言っているんです! ラーナのためじゃないですか! あなたはラーナの父親でしょう!」
「そうかもしれないが、シアリンは馬に気をつけろと言っていた! こいつが問題の馬なんじゃないのか!」

 私の位置からは見えませんが、お父様もいるようです。馬を知らないわけはないですから、問題の馬というのは、予知夢に出てきた馬だと言いたいのでしょう。

「ジェリク様、よろしくお願いいたします。私は悲しい思いをしてほしくないのです」
「わかっている。俺にとっても大事な人だからな」

 ジェリク様は私の頬から手を離し、扉を開けて先に外に出ると、私が降りるのを手伝ってくれました。
 私が両親の元に歩き出すと、ジェリク様はまず騎士たちに素早く指示をし、二人の騎士を私に、それ以外の騎士やジャフさんと話し始めました。

「シアリン! やっぱりお前は優しい娘だ。なあ、私たちを助けてくれないか」

 近寄ってきたお父様でしたが、私の間に騎士が入ると、罰が悪そうな顔をして後退します。お父様の代わりに、お母様が一歩前に出てくるのを見た私は、先に結論を伝えます。

「私はお姉様を助けません。そんな権限もありません。もし、助けられるとしたら、私ではなくお母様だと思います」
「ど、どうして? あなたはジェリク様の妻だし、王妃陛下にも好かれているんでしょう? 恩赦をお願いしてちょうだい!」
「お姉様の嘘のせいで、私は一時の間、嘘つきの令嬢だと言われ続けてきたのですよ? 恩赦なんてお願いするわけないでしょう。王族に嘘をつくなんて馬鹿なことをするからです。自業自得としか思えません!」
「じゃあ、どうすればいいのよ! あの子ばかり悲しい思いをしているわ! 報われてもいいはずよ!」

 お母様の一方的な言い分を聞いた私は、大きくため息を吐いて尋ねます。

「……お母様は自分の関与を否定しているのですよね?」
「そ、そうよ。私は何もしていないわ」
 
 お母様は私と目を合わせようとはしません。メモを盗み見ていたことを私が知らないと思っているはずですが、後ろめたいことに変わりはないのでしょう。

 私にしてみれば、二人とも同罪です。お姉様だけ裁くのでは意味がありません。

「それは嘘です」
「そ、そんなことないわよ! 私は本当に知らなかったの!」
「お母様はお姉様のことを本当に大事にしていると思っていましたが、そうではなかったのですね」
「どうしてそんなことを言うの!? あの子を愛しているから、私は危険を冒してまであなたに会いに来たのよ!」
「では、あなたがお姉様の罪をかぶったらいかがですか? 本当に愛しているのならできるでしょう?」
「……それは……っ」

 お母様は視線を彷徨わせるだけで、肯定する素振りを見せません。

 そうです。忘れないうちに聞いておきましょう。

「お母様はどうしてお姉様ばかり優先するのですか? 気づかないうちに、私はあなたに何か恨まれるようなことはしましたか?」
「したわ!」

 お母様は躊躇うことなく答えると、堰を切るように話し始めます。

「予知夢を見たと言っては、知らない誰かを助けるために出かけまわった旅費のせいで、我が家のお金はどんどんなくなっていった! それに、あなたは街に出るからと言って、綺麗なドレスを買ってもらっていた。ラーナは大して買ってもらえず、いつも悲しいと泣いていたのよ!」

 やっぱりそうでしたか。

 子供の時とはいえ、申し訳ないことをしました。ですが、恨まれなければいけないことはしていません。

「お父様、どういうことですか」

 静かにこの場から逃れようとしていたお父様に話しかけると、引きつった笑みを浮かべます。

「いや、ちょっと用を足しに」
「少しだけ我慢してください」

 睨みつけると、お父様は渋々といった様子で、その場にとどまりました。

「お父様にお聞きします。私の旅費などの経費は王家が負担してくださっていました。それに、お姉様にも王妃陛下からドレスやアクセサリーが贈られていたはずです。そのお金やドレスなどはどうされたのでしょうか」
「……なんですって?」

 私の問いかけを聞いたお母様は、目を見開いてお父様を見つめたのでした。

 
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