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8 ある国からの招待状

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「王位継承権の問題を持ち出してくるなんて、アレンに痛いとこつかれたな」
「あれ言われると、オレらも何も言えなくなるからな」

 私の隣に座るユウヤくんと、向かい側に座るユウマくんが同時にため息を吐く。

「というか、当たり前のように私の執務室に来るのはやめてもらえませんか」

 会議の次の日の昼過ぎ、私達は待ち合わせをした訳でもないのに、ラス様の執務室にいた。

 リアは私の件で多少スッキリしたけど、自分の事ではまだモヤモヤするから、と王族直属の騎士団の練習にまじりに行ったので、今はこの場にはおらず、この部屋の主であるラス様、ユウヤくんとユウマくん、私の4人で集まっている。
 まあ、ある意味、ラス様は強制的に参加させられているといった方が正しいけど。

 あ、駄目だ。
 気を抜くと昨日の事を思い出して、頬がゆるみそうになるから、しっかりしよう。
 平常心、平常心。

 結局、昨日は私がラス様を選んだ事により、他の公爵家からアレンくんへ反対意見が出て、しばらく保留にされる事になったらしい。
 ある意味、アレンくんは権力争いに阻まれたような形になる。
 殿下の妃のもう一人の旦那様にラス様が選ばれると、イッシュバルド家の権力が強くなりすぎるから、そりゃ他の公爵家は反対するだろう。
 まあ、それはそれでいいんだけど、結局は解決にはいたっていないから悩み続けなければいけないのは確かだ。

「そういえば、アレンの奴、ちゃんと謝りに来たか?」
「ええ。来ましたよ。次はないと言っておきました」
「そりゃそうだろ」

 ユウヤくんがため息を吐く。
 あんな所でなぜあんな話をしようとしたのか意味がわからないもんね。
 ラス様に喜んでもらうため?
 でも、そんな事で喜ぶ人じゃないのはわかってるはずなのに。
 若気の至りなのかなあ?
 あ、そういえば。

「ねえ、ユウヤくん」
「どうした?」
「ラス様のお家って、色々とあったりする?」

 私はラス様に聞こえないよう小声で話す。
 ここでする話ではないんだけど、思い出したときに言わないと、いつも忘れてしまうから。

「まあ、色々とあるな。気になるならラスに聞けば教えてくれるだろ」

 ユウヤくんはそう言って、自分の口からは話しにくい内容である事を暗に教えてくれた。
 そうなると、逆に私なんぞが聞いていいのかな?
 教えてくれるだろうか。
 
 ラス様のお父さんは、あの次男に何か負い目でもあるのかな。
 そうじゃないと、あんなバカをあそこに連れてきたりしないと思うんだけど。

 と、そこまで考えてから、この件は今は忘れることにした。
 今、大事なのは。

「アレンくんに撤回させるようにするには、撤回したくなる何かがないと駄目なんだよね?」
「好きな女が他にできたらいいんだけどな」

 私の言葉にユウマくんはそう言ったあと、頭を抱えて続ける。

「でもリアより、いい女なんてそう簡単に見つからねぇだろ」
「それは思う!」

 ユウマくんの意見に、テーブルに身を乗り出して完全同意する。
 もちろん、顔が可愛いとか、そんなのは好みが分かれるだろうけど、私の中ではリアが世の中で1番可愛いと思うし、性格だって、アネゴ肌で気の強いとこはあるけど、時折見せる弱さが庇護欲をそそるはず!
 そんな彼女を好きなユウマくんやアレンくんがリア以上の女性を見つけられないという理由は気持ち的によくわかる。

「リアさんが魅力的な女性である事は認めますが、そんな事を言っていたら、いつまでたっても結婚なんてできませんよ」
「結婚に関しては急いでるわけじゃねぇからいいんだけどよ。なんか、リア宛に求婚依頼がきてると思うと、なんかこうイライラして」
「わかる」

 ラス様の発言のあとのユウマくんの言葉に、ユウヤくんが大きく頷いた。

 今回の話は箝口令がしかれたはずなのに、次の日の今日には、パーティの招待状や求婚の手紙などが、朝からたくさん届いていて、侍女さん総出で振り分けをしてくれていた。

「求婚の手紙がもう届いてるんですか」
「あ、はい。私はまだましですけど、リアの方はすごかったです」

 ラス様が仕事の手を止めて、私に聞いてきたので頷くと、

「そのうち出回るとは思ってましたが、噂が回るのが早すぎる」 

 そう呟く。
 
「どうせ、オマエんとこの次男が母親に話して、母親がいいふらしたんだろ」
「そうだったら本当に迷惑ですよ。当主の座って、当主が死なないとまわってこないんでしたっけ」

 ユウヤくんが言った言葉に、ラス様が目を据わらせて物騒な事を言う。
 なんか、よっぽど仲悪そうだな。

「求婚依頼については、オマエはラスがいるから、その点は安全圏だろうが。つーか、ラスならオレも許せそうだし、今から変えねぇ? 最後、どうなっても辛くはねぇだろ」
「駄目!」
「駄目に決まってんだろ」

 話を戻したユウマくんの提案に、私とユウヤくんが二人で却下する。

「私の意思ってないもんなんですか」
「「ない!」」
「ないです!」

 ラス様の言葉には三人で却下した。

「ご自由にして下さいよ」
「わーい」
「ユーニさん」
「ご自由にって言ったのはラス様ですー」
 
 べー、と舌を出すと、ラス様は表情を歪めたあと、また書類に目を戻した。

 本当はラス様を見るのもドキドキしてしまう。
 ちゃんと普通にできてるかな。
 昨日の事は夢ではないよね?

「仲いいな、やっぱり」
「そ、そうかな」
「そうだろ」

 そんな思いが顔に出てたのか、ユウヤくんに顔を近づけられて聞かれたので、手で押しやりながら答える。

「人前ではやめて!」
「はいはい」

 ユウヤくんが私を抱き寄せたと同時くらいに、激しく扉が叩かれる音が聞こえて、彼は私を抱きしめる腕をはなした。
 ラス様が立ち上がり扉を開けると、練習着姿のままのリアがラス様にすがりついた。

「どうしよう! サナトラって、前にラス様達が停戦を求めに行った国ですよね?!」

 くしゃくしゃになった紙と封筒をにぎりしめながら、リアがラス様に問う。

「落ち着いて下さい、リアさん。どうされました?」
「こ、これ!」

 ラス様がリアの顔をのぞき込むと、リアは持っていた紙を彼に差し出した。

「拝見します」
「どうしたんだよ」

 ラス様が受け取り、手紙らしきものの内容を確認している間、ユウマくんがリアに聞くと、

「やばそうな手紙がきてて! たぶん、ユーニのとこにも来てると思う」

 手紙の内容はわからないけど、リアが言うには侍女さんが鍛錬場まで慌てて持ってきてくれたらしい。

 ラス様を見ると、どんどん眉間のシワが深くなっていく。
 なんだか心配になってきたので、ユウヤくんの服をつかんで聞いた。

「だ、大丈夫かな」
「さあな。内容がわからない事には」

 リアに聞いてしまいたいけど、ユウマくんと話をしてるから聞きづらいし。

「リアさん、大丈夫です。あなたが恐れているような事にはなりません、が」
「が?」

 ラス様の言葉をリアの代わりにユウマくんが聞き返す。

「面倒な事になってるのは確かです」
「どういう事ですか?」

 尋ねると、ラス様は私とユウヤくんに手紙を渡してくれた。
 私は先にユウヤくんに手紙を渡して、ラス様の口から述べられる説明を聞く。

「サナトラはわかりますね」
「隣国で、訳のわからない王太子がいるとこですよね?」

 アレンくんと揉める事になった元々の元凶を作った国でもあり、人でもあるから、よく覚えている。
 
「例の王太子が噂、ではなく、婚約の話を聞きつけたようで、ぜひ、殿下の婚約者であるお二人にお会いしたいと」
「二人って・・・・・」
「リアさんとあなたです」
「えええ」

 私は今、心底嫌そうな顔になってると思う。

「断るわけにはいかないやつですよね?」

 リアがユウマくんの隣に腰をおろしてから、ラス様に聞くと、考えるように首を傾げてから答える。

「断ってもマヌグリラのような事にはならないと思います」
「断ってもいいんか?」

 ユウマくんが聞くと、ラス様は近くの壁にもたれかかって言った。

「断る理由がありません」
「どういう事ですか?」

 私の質問に答えるように、ユウヤくんが読み終えたのか手紙を渡してくれた。
 手が自由になったからか、ユウヤくんが抱きしめてきたので、私は読みにくいながらもそのままの状態で手紙の内容に目を通し、読み終えると口を開く。

「ラス様、私、ダンス苦手なんですよ!」
「「そっちかよ」」
 
 私の訴えにユウヤくんとユウマくんが口をそろえてツッコんだ。

 手紙に書かれていた事を要約すると。

 近いうちに私達の婚約祝いのパーティを開いてあげるから、主役として出席しろ、だった。

 なぜ、他国でお祝いしてもらわないと駄目なの???

「それを理由にしてお二人がどんな人物か確認したいのでしょう。心配なのは、彼が女性なら誰にでも手を出そうとする所です」

 ラス様の言葉を聞いて、ユウヤくんの私を抱きしめる腕の力が強くなった気がした。
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