【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ

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「ユウヤ殿下! やっぱり私、お約束していましたのね!」
「は?」

 私にしてみれば、今からパーティーにでも出かけるの? と言いたくなるくらい派手なドレスに身を包んだマーガレット様は、キツそうには見えるけれど綺麗な顔立ちをふにゃりと崩して、ユウヤくんへとすり寄っていく。
 
 香水だろうか、えらく甘ったるい匂いがキツすぎて、ユウヤくんから離れ、ラス様の方に逃げてしまうと、ユウヤくんにすごく悲しそうな顔をされてしまった。

「どうしたら良いですかね」
「とりあえず、私には気付いていないようですし去ります」

 ラス様が何もなかったかのように立ち去ろうとする。

 それはそうか。
 私がラス様と一緒にいるのを見られると、彼女が攻撃する理由を与えてしまう事になるし良くないんだ。
 
 ラス様に目を合わせると、私の意思が伝わったのか、静かに他の人達に紛れていった。

 どうするんだろう?
 先に帰ったりはしないだろうから、ミランダ様達と合流するのかな?
 と、そんな事を考えてる場合じゃなかった。

「やっぱり運命ですのね。婚約者がいるだなんて、周りの嘘に惑わされませんでしたわ。本当の婚約者は私ですもの」

 いや、それなら婚約者がいる、は間違ってなくない?

 マーガレット様はユウヤくんが何も言わないのをいい事に、何やら一人で会話を続けている。
 侍女さんやメイドさん達は、いつものことで慣れているのか、マーガレット嬢の近くに立ち、黙って下を向いていた。

「ユーニ」
「え? あ、はい!」

 ユウヤくんに名を呼ばれ、予想外のタイミングだったので動揺していると、

「行くぞ」

 彼は私の手を取って歩き始めた。

「え? マーガレット様は?」
「会話したらまた、違うようにとられて面倒な事になりそうだから無視するに限る」
「お待ちになって!」

 マーガレット様はユウヤくんの様子などおかまいなしに付いてくる。
 というか、私の姿は一切見えていないらしい。
 まぁ、それはそれで楽でいいけれども。
 結局、最終的にはマーガレット様が私とは反対側のユウヤくんの腕をつかみ、なぜか一緒に庭園をまわる事になってしまった。

 ここまで来ると、ヤキモチを妬くとかいう問題ではない。
 面倒くさい。
 関わりたくない。
 の方が先にきてしまう。
 もちろん、ユウヤくんは気の毒だけど。

 彼の方をちらりと見てみると、もう何も考えたくなさそうな顔をしていた。
 やっぱり、ちょっとユウヤくんが可哀想になってきたかも・・・。
 助けてあげるべきかな。

「あの、ウッグス伯爵令嬢」

 勇気を出して話しかけてみたけど無視されたので続ける。

「申し訳ないんですけど、ユウヤ殿下とは私がお約束していたんです」
「何かおっしゃって? ああ、ユウヤ殿下、あちらを見てください! あちらには」

 と、私の言葉は聞こえないふりをして、ユウヤくんに話し始めてしまった。
 こんなに返事が返ってこないのに、よくめげずに話しかけられるものだな。

「ごめん」
「え?」

 ユウヤくんがそっと耳元で囁くので聞き返す。

「このままだとミランダ嬢とジン達にも迷惑かかるよな」
「そこは、ラス様がうまくやってくれるんじゃないかな」
「というか、ラスはどこ行ったんだよ」

 気候がいいからか、色とりどりの花が咲き誇っていて、それを見るためか人も多い。
 人混みの中にラス様の姿を探すけど、やはり中々見つからなかった。

「聞いてらっしゃいます?」
「というか、オレが君の話を聞かないといけない理由があるか?」
「そういうつれない所も素敵です」

 マーガレット様は俯いて頬を赤く染めた。

 うわあ。
 すごいな。
 これは中々手強いわ。

「そういえば、ユウヤ殿下」
「・・・・・」

 ユウヤくんが返事を返さずにいると、彼女は勝手に話し始める。

「婚約のお披露目はいつになさいますの」
「勝手にするよ」
「私、もうそろそろ皆さんにお伝えしたいですわ。そうでないと、そちらの女性のような悪い虫が」

 そこまで言ったところで、ユウヤくんがマーガレット様の手を振り払った。

「悪いが、気分を害したんで外してくれ」
「え、ユウヤ殿下?」
「わかるだろ」

 ユウヤくんはマーガレット様に言うのではなく、彼女の周りの人間に向かって言った。
 すると、執事らしき男の人がすっと現れて、ユウヤくんに一礼したあと、マーガレット様の腕をやさしく取った。

「お嬢様。本日は帰りましょう」
「嫌よ。まだ、殿下とお話したりないわ」
「殿下は今日はもうお話されたくないようです」
「どうしてですの?!」

 話の内容が片方は子供のような感じ。
 駄々をこねる子供を大人があやしている。
 マーガレット様っていくつくらいなんだろ。
 まぁ、私よりも年下なんだろうけど。
 
 他人事のように思って見ていると、マーガレット様と視線がかち合ってしまい、怒りの矛先がこちらに向けられた。

「どうして邪魔をするの!!」
「どうして、と言われてましても」
「あなたのせいで私のユウヤ殿下が」

 マーガレット様はその先を言葉にできなかった。
 なぜなら、執事さん達に引きずられるように連れて行かれたから。
 
「覚えてなさいよ!」
「それ、前回も言ってましたよ」

 引きずられながら叫ぶマーガレット様に小さく言葉を返したあと、隣のユウヤくんを見る。
 明らかに表情は疲れ切っていて、慰めてあげたいけれど、今はマーガレット様のせいで他の人達から視線を浴びている状態なので、過度なスキンシップはできない。
 だから、そっと手を取る。

「とりあえず、デートの続きする? まずはラス様を探さないと」
「そうだな」

 そう言って、ユウヤくんが手を握り直してくれたところで、ラス様の声が聞こえる。

「ここにいますよ」
「お前、今までどこにいたんだ」
「どこにいたって、ジン達と野次馬にまぎれてました」
「じゃあ、今まで全部見てただけかよ」
「助けに行ったら面倒になるだけじゃないですか」

 半眼で言うラス様にユウヤくんが恨めしそうに言葉を返す。

「友達が困ってるときに助けるのが友達なんじゃねぇの?」
「どうしようもなくなったら助けに入るつもりでしたよ」
「ほんとかよ?!」

 二人が仲良く喧嘩しているのを見守っていると、ジンさん達も私達の様子を見ていたらしく、ミランダ様が駆け寄ってきてくれた。

「見ていることしかできず、申し訳ございませんでした」
「全然です! それよりも、せっかくの二人のデートに余計な思い出を作ってしまってごめんなさい」
「え、あ、二人のデートだなんて!!」

 きゃー、とミランダ様が両頬をおさえて照れる。
 
 ミランダ様は可愛く思えるのに、同じようなことをしてたマーガレット様が可愛く思えなかったのはなんでだろう。

「その先にテラスのあるカフェがありました。奢りますんで機嫌をなおしてくださいよ」
「オレが食いもんで騙されるわけねぇだろ」
「ユーニさんは、ケーキはお好きですよね?」
「お肉が一番ですが、ケーキも好きです!」
「ユーニさんは喜んでくれてますが? それでもカフェに行かないんですか?」

 ラス様は笑顔でユウヤくんに言った。

 うーん、ラス様にはやっぱりユウヤくんも勝てそうにないね。

「わかったよ」
「了承していただき、ありがとうございます。ジン達はどうする?」

 ラス様に尋ねられ、ジンさんとミランダ様は顔を見合わせる。

「どうされますか?」
「えと、もう少しだけ庭園をみてまわっても?」
「僕は良いですよ。ゆっくり見て回れませんでしたしね」

 ジンさんはミランダ様にそう言うと、ラス様の方に振り返る。

「先に行っていてください。あとから向かいます」
「ゆっくり見て回ってこい」
「はい」

 私はミランダ様達に手を振り、姿が見えなくなったところで大きく息を吐く。

「なんかもう疲れました」
「ですから休憩しましょうとお誘いしたんです」

 ラス様は私の頭を優しく撫でてくれた。

「じゃあ行くか」
「席は確保してあります」
「予約してたんか?」
「いいえ。かねの力、とだけ言っておきましょう」

 ラス様のしれっとした答えに、やはり住む世界が違うな、と思ってしまう私がいた。
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