【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ

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53 妃になるにはまだまだ先が見えません!

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 イッシュバルド家のテラスで、客である私とリアは、まるで自分の家のように、出してもらったお茶を飲みながらくつろいでいた。
 なぜ、ここにいるのかというと、ユウヤくんとユウマくんがラス様のお家に行く用事があるというから、私達も好奇心でついてきてしまったから。
 ユウヤくん達が用事をしている間、時間的にちょうどおやつ時の時間だったので、暑さがこれからマシになるだろうと、綺麗な庭園を見ながらお茶をさせていただき、そうやって時間をつぶす事を提案されて今に至る。
 それにしても、お城の庭園まではいかないけど、イッシュバルド家の庭園も広い。

 お金持ちってすごいなぁ。
 お屋敷もとっても大きいし。
 でも、それだけ後を継ぐというプレッシャーも大きいんだろうな。

 あのキス事件から、ラス様との仲がかなり縮まった、というか、ラス様の私に対する距離が近くなった。
 もちろん、手を出してくるとかそういうわけじゃない。
 明らかに反応する私を見て楽しんでいるいるだけだとわかってるんだけど、妙に意識してしまう。

「ユーニ、聞いてる?」
「ん?」
「聞いてなかったでしょ」
「あ、ごめん」

 リアに額を小突かれたので素直に謝る。

「まあいいけど、それにしても、今日はなんの用事なんだろうね? ラス様のお家に遊びに来れたのは良かったけど」
「本人不在で勝手にお茶させてもらってるけどね」

 二人で苦笑していると、噂をしていたからか、ラス様達がそろってテラスに現れたんだけど、ラス様を見て、私とリアは動きを止めた。

「え?」
「うそ」

 私、リアの順番で呟いて、二度見する。

「「えええ!」」

 そして、声をそろえて叫んだ。

 ラス様、髪切ってる?

 たまに顔の方に流れてきていた横髪の長さが耳辺りくらいしかなくて、後ろの髪ををくくっている感じもない。

「ユーニ、もうだめだわ。ラス様やばい! もう直視できない」
「ほんとやばい」

 二人で顔を覆う。
 指の隙間から、もう一度ラス様の方を見ると、短髪になったラス様が呆れ顔で、私達を見下ろしていた。

「何か問題でもありましたか?」
「「大ありですよ!!」」

 顔を覆っていた手をはずして、二人で一斉にラス様に向かって叫ぶ。

「に、似合いませんか?」

 困ったような顔をするラス様に、リアが手を挙げて叫んだ。

「髪長かった時のラス様も素敵でしたけど、今も素敵です。カッコ良すぎです」
「ほんと、そう思います」

 リアの言葉に私は言葉少ないながらも肯定だけはする。

 だって、やばいもん。
 私、長髪の男の人はタイプじゃなかったけど、ラス様は許せていた。
 その段階でも私好みの顔だったのに、髪を短くしたら、もう駄目なやつ!!
 いや、顔で好きになるわけじゃないけど。

 もう一度、ちらりとラス様を見てみると、目線が合ってしまった。

 ああ、やばいかも。

「やっぱりもだえてるな」
「思った通りだったな」

 ユウマくんとユウヤくんがラス様の後ろから、興奮気味の私達を冷めた目で見てくる。
 
 いや、ユウヤくんとユウマくんももちろんカッコ良いんですよ。
 ただ、ほら。
 今までと違う姿を見て、どきんとするやつです。

「いつぶりくらいだ、髪の毛短くしたの」
「祖母が亡くなってからですから、4,5年くらいぶりですかね」

 ユウヤくんの問いに、昔を思い出したのか、ラス様が懐かしそうな表情で答えた。
 
「そういえば、お祖母様のリボンは?」
「それなんですが」

 ラス様は軽く息を吐いてから、シャツの胸ポケットの中から、綺麗にたたまれたリボンを取り出した。

「どうしようか迷ってまして」
「そういえば、リアは前に借りてたよね、リボン」
「うん。なんか安心感があったなぁ」

 テーブルに頬杖をつきながら言うと、リアがその時の事を思い出したのか、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 なんか、ちょっとうらやましい。

「よろしければ差し上げますので、お二人がお使いになりますか?」

 ラス様がふんわり優しい笑みを浮かべて、私達にリボンを差し出した。

「えええ! 駄目ですよ!」
「そうです! それに、もしもらうんならユーニ、だよね?」

 リアが私の方を見てくるから、ぶんぶんと首と手を横に振る。

「そんな大事なものいただけません!」
「私ももう20になりましたし、いつまでも祖母の加護に護られているわけにもいかないので」

 ん?
 え、もしかして?

「もしかして、ラス様、今日、誕生日だったんですか?」

 私が聞くと、ラス様はしまった、という顔をする。

「あれ、言ってなかったんか?」
「だから、わざわざラスの家まで来たんだぞ? まあ、他に話す用事もあったけどよ」

 ユウマくんとユウヤくんは、不思議そうにしている。
 そう言われてみれば、用事があるだけなら、いつもの執務室で良かった。
 しかも、一緒にきたユウヤくんとユウマくんがそれぞれ何か箱を持ってたから、ラス様のお家にお邪魔するお土産かとも思ってたら、プレゼントだったんだ!

「な、なんで言ってくれなかったんですか! だから髪も?!」

 リアが立ち上がって言う。

「私だってリアさんの誕生日をお祝いできてませんから、言う必要ないでしょう」
「3ヶ月後なんで祝ってください。私、あとでお祝いしますから」
「しょ、承知しました。でしたら、これ、受け取ってください」

 リアにぐいぐい迫られて、ラス様はこくこくと首を縦に振りながら、リボンをリアに手渡した。

「ありがたく受け取っておきますが、ユーニと使わせていただきます」
「受け取るんかよ」

リア達のやり取りにユウマくんが入っていったので、ユウヤくんの方に振り返る。

「用事ってなんだったの?」
「あ、ああ」

 聞くと、なぜか視線を宙にさまよわせた。
 
 怪しい。

「何かあったの?」
「え、あ、いや、その、ユーニはまだオレと結婚する気にはならねぇ?」
「は?」

 予想もしていなかった事を聞かれ、思わず聞き返す。

「なんつーか、ユーニはオレと結婚してくれる気はあるんだよな?」
「そ、それはもちろん」

 恥ずかしいので、リア達に聞かれていないか横を見ると、それどころじゃない感じで、3人で何やら騒いでいる。

「だから、それを早められねぇかなって思って」
「え?! でも、なんで? しかもこんな時に言うの?」

 普通は二人っきりの時にそういう話をするんじゃないの?
 なんだかおかしい。

「早くしたいんだよ」
「だから何で?!」
「オマエが好きだから」
「それだけじゃないでしょ、絶対!」

 好きの言葉に、心臓がどくどくと早鐘を打つけど、ユウヤくんが何かを誤魔化そうとしているのがわかるので、詰め寄ってみる。

「あー、ユウマ、ラス、無理だった」

 突然、ユウヤくんが膝から崩れ落ちて、しゃがみこんだ。

「おいー、何やってんだよ、つーか、なんでこんなとこで言うんだよ。普通は城に帰ってからだろ。いきなり話しはじめたから、ラスも焦ってたぞ」
「頭悪すぎだろ」

 ユウマくんとラス様が容赦なくユウヤくんに言う。

「どうかしたの?」

 ユウマくんとラス様は会話を聞いていたみたいだけど、リアは聞いていなかったようで小首をかしげると、

「いや、実は陛下から打診があってな」

 ユウマくんがユウヤくんを見下ろしながら言葉を続ける。

「今回のことで、アレンに王位を譲るわけにはいかないって話が出て」

 な、なんか嫌な予感。
 
「ユウヤに後を継いでくれって」
「え!」

 リアが驚いた声を上げて私の方を見た。

「ユーニちゃんとユウヤが結婚したら、この感じだとユーニちゃんはラスとも、だろ? ラスを次期宰相に推したいって今の宰相も言ってるから、そうなると、ユーニちゃんは王様と宰相の嫁になるから、いいんじゃないかって」
「俺は関係ないだろ」
 
 ラス様がユウマくんの足を蹴って、言葉を止めさせたけど、頭が回らない。
 
 ちょ、ちょっと待って。

「お、王妃?」
「そうなるな」
「そうなりますね」
「そうなるね」

 ユウマくん、ラス様、リアの順番で丁寧に頷かれた。

「無理! 無理です! っていうか絶対に嫌!!」
「ユーニ、愛のために頑張って!」
「リア、他人事だと思ってひどい!! 無理だってば! そんな事言うなら、ユウマくんに王様になってもらって、リアが王妃になればいいじゃない!」
「オレは愛人の子だから無理無理」

 ユウマくんが面白そうに笑いながら手を横に振る。
 何を面白いことがあるのよ?!

「まだ確定事項じゃありませんし、ユウヤは断るつもりですから」
 
 慰めるようにラス様が言ってくれる。
 だけど、そうなったら、アレンくんが王様でしょ。
 冷静に考えたら、あまり良くない気もするし。
 
「やっぱ、駄目か?」

 ユウヤくんにしゃがんだまま見上げられて、言葉に詰まる。

 うう。
 ユウヤくんの事は好きだけど。
 王妃だなんて。
 そんなの小さい頃から教育されてきたならまだしも平民根性が抜けていない、この私には絶対無理。
 王位を継がない第一王子妃でも大丈夫かなって不安だったのに、王妃ってなると全然、立場が違う気がする!

「ちょ、ちょっと考えさせて」

 あまりのショックで足がふらつく。
 すると、誰かに後ろから抱きすくめられた。

「前から言ってるけど、絶対にはなさねぇから」

 耳元で囁かれた声はユウヤくんのもの。

 もちろん、はなれるつもりはない。
 そして、さっきの台詞にときめくところではあるんだろうけど!!

 やっぱり王妃は嫌!

「王妃回避までは結婚しません!」

 私の絶叫がイッシュバルド家の敷地内に響き渡った。
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