【完結】お姉様ごめんなさい。幸せになったのは私でした

風見ゆうみ

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1   妹よりも幸せになりたい姉

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 正直に言って、ファリアーナは姉を相手にしたくはなかった。だが、付いてきてくれた夫やメイドの手前、無碍に扱うこともできない。

「離婚だなんて、一体何があったんです?」
「どうもこうもないわ。アシュ様は私が嫌いなのよ!」

 夫婦喧嘩をして実家に帰るという話は聞いたことがあるが、結婚した当日の妹夫婦の家に訪ねてくるというパターンは聞いたことがなかった。困惑したファリアーナだったが、ロヴァンスは優しく微笑んで促す。

「夫婦喧嘩でもしたんだろう。話を聞いてあげたらどうだ?」
「で、ですが」

 今日は初夜で夫婦にとっては大事な日だ。仲の良くない姉に邪魔されることは不本意だった。

(お姉様って昔から私のものを欲しがる人だったけど、まさかね……)

「ありがとう、ロヴァンス様。妹の夫があなたで本当に良かったわ!」

 シルフィーナはファリアーナの腕を掴み、にこりと微笑む。

「ねえ。私たち、最近はあまり話ができていないでしょう? ゆっくり話をしましょうよ」
「む、無理です。今日は初夜なんですよ?」
「俺のことは気にしなくていい。ファリアーナからお義姉ねえさんの話をあまり聞いたことがなかったが、二人はそんなに仲が良かったのか」
「違います!」

 素早く否定したファリアーナだったが、シルフィーナがロヴァンスに微笑みながら頷く。

「とっても仲良しなんです。私は姉としてファリアーナの望むことは、全て叶えてあげてきたくらいですから」
「お姉様、何を言っているんです!?」
「ああ、ファリアーナ! そうよね。新婚初夜に押しかけてきたら、それは怒るわよね。本当にごめんなさい!」

 ペコペコと頭を下げる姉の姿を見て、ファリアーナの不安な気持ちはどんどん強くなっていく。

「ファリアーナ、そこまでさせる必要はないだろう」
「ロヴァンス様、姉が申し訳ございません。もういいです。お姉様。とにかく場所を移動しましょう」
「客室の用意を頼む」

 ロヴァンスの指示に一人のメイドが頷き、もう一人のメイドは、部屋の用意ができるまでシルフィーナを応接室に案内すると言った。
 
「夜も遅い時間に本当にごめんなさい! 夫は私が飛び出しても知らんぷり。きっと二度と帰ってくるなと思っているわ」 
 
 シルフィーナはロヴァンスに擦り寄り、上目遣いで彼を見つめる。

「迷惑だとはわかっています。何日かだけ、ここに置いてくれませんか? 実家に心配をかけたくないんです」
「気が済むまでいればいい」

 ロヴァンスはポンポンとシルフィーナの背中を撫で、優しい笑みを見せた。

「ロヴァンス様は本当にお優しいわ。ファリアーナ、あなたは本当に良い旦那様を持ったのね」

 ロヴァンスの胸に頬を寄せ、妖艶な笑みを浮かべるシルフィーナを見て、ファリアーナは涙が出そうになった。

 あんな表情をする時の姉は、自分から何かを奪うと決めた時の表情だったからだ。


******


 その日の夜は、ファリアーナはロヴァンスと一緒に眠ることはできなかった。シルフィーナが一人では眠れないと言って、ファリアーナと眠ることを希望し、ロヴァンスもそれを勧めてきたからだ。

 一晩中姉から愚痴を聞かされ、眠りについたのは朝方。起きた時には朝の9時近くになっていた。まだ眠っている姉をそのままに、ファリアーナは慌てて自分の部屋に戻り、身支度を整えた。部屋を出る前に、ロヴァンスがやって来て「朝食をとったら、母の部屋に行ってくれ」と言われた時には、食事をする気分など吹っ飛んだ。

 食事をとらずに義母の部屋に向かうと、眠っていたはずのシルフィーナが、義母と談笑していた。

「舅と姑は意地悪をしてくるし、夫は私に興味なんてないんです。ああ、大奥様もお優しいし、自分の夫がロヴァンス様だったら良かったのにって思います!」
「まあ! 嬉しいことを言ってくれるわね」

 ダークブラウンの髪をシニヨンにした細身の義母は満足そうに微笑んだが、ファリアーナには冷たい目を向ける。

「いくら家族とはいえ、お客様よりも遅く起きるなんてどうにかしているわ」
「も、申し訳ございません」
「謝れば良いってものじゃないのよ。あなたに用事があったんだけど、もういいわ!」

 シッシッと犬を追い払うような仕草をすると、義母はファリアーナに背を向けた。
 シルフィーナはファリアーナが自分よりよ幸せになることが許せなかった。だから、嘘をついてでも奪う。
 ファリアーナの居場所は、視察に出て、家にいなかったシルフィーナの夫であるアシュが、妻を迎えに来るまで、どこにもなくなってしまったのだった。


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