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20 効果のない脅し ②
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1日目に公爵邸内を案内してもらったファリアーナだったが、この部屋については教えてもらえなかった。
書斎の奥に隠されていて、まるで秘密基地のようだと、ファリアーナは子供のようにワクワクしていた。
アシュに促されて中に入ると、部屋の中には動物のぬいぐるみが所狭しと置かれていた。大きさや種類は様々でファリアーナよりも大きなぬいぐるみもある。
「すごいです!」
ファリアーナは、アシュに許可を取るのも忘れて、気になったぬいぐるみの所に駆け寄る。触れはせずに眺めてみると、背が高いうさぎのぬいぐるみは、顔と胴体は丸く、後ろ足がかなり長い。
「私の部屋にある抱き枕みたいですね」
そこまで言ったところで、慌ててファリアーナは頭を下げる。
「勝手に部屋の中を歩き回ってしまい申し訳ございません」
「見せるために入れたんだから気にしなくていいよ。好きなだけ見ればいい」
「ありがとうございます!」
ファリアーナは童心に返ったように、目を輝かせて部屋の中を歩き出す。使い古されたようものや汚れ一つない綺麗なものなど、動物の種類によって棚に分けて置かれている。窓際には小さな丸テーブルが置かれており、そこには作りかけのぬいぐるみが転がっていた。
「これは……」
ファリアーナが持っている花嫁姿の白い熊のぬいぐるみと、同じ大きさの白い熊だった。ファリアーナはテーブルに近寄りながら、アシュに尋ねる。
「もしかして、私にくれたぬいぐるみは、アシュ様が作ったものなんですか!?」
「……ああ。子供の頃は病弱でほとんど外に出られなかったから、お祖母様が教えてくれたんだ」
「すごいです! 私は刺しゅうさえも上手くできません」
ファリアーナはハッとなって、アシュに尋ねる。
「もしかして、秘密というのはこのことてすか?」
「それもあるんだが、このことについては大したことじゃない」
「そうですよね。ぬいぐるみが販売されているのは、それを作っている人がいるということですからね。秘密にしなければならないことではありません」
「ああ」
アシュはやはり話しにくいようで、苦しそうな顔をしている。そんな彼にファリアーナは優しく話しかける。
「アシュ様、感じ方は人によってそれぞれです。バカにする人もいるかもしれませんが、そうでない人も必ずいます。受け入れることはできなくても干渉しないという選択肢もありますから、どんなことかお聞かせ願えませんか」
「……ありがとう」
アシュは大きく息を吸うと、小さな声で話す。
「眠れないんだ」
「……はい」
「……ぬいぐるみと一緒に寝ないと眠れないんだ」
背を向けてしまったアシュを見つめて、ファリアーナは思う。
(私としては可愛らしいものだと思うけど、公爵令息という立場でアシュ様の年齢を考えると、情けないと思ったり、バカにしたりする人もいるのでしょうね)
苦笑したあと、ファリアーナはアシュの前に回り込んで口を開く。
「良いのではないでしょうか」
「……良い?」
「はい。私も今は一緒に寝ていますし。ああ、抱き枕サイズを作ってくださったのは、もしかして、アシュ様も使っているからですか?」
「え、あ、はい」
思った反応と違ったのか、拍子抜けした顔でアシュは頷いた。
「可愛くて癒されています。ただ、寝相が悪いので、朝にはベッドから落としてしまっていますが……」
「気持ち悪いと思わないのか?」
「はい? 私も一緒に寝ていますから、特に気になりませんが……」
「……本当に?」
アシュが警戒しているように見えて、ファリアーナは悲しげに微笑む。
(昔の婚約者に気持ち悪いと言われたのね。個人の感覚だし、そう思うことは悪いことではないけど、もう少しオブラートに包めなかったのかしら。いや、でも、はっきり言えたから婚約が解消できたのよね)
ファリアーナは自分が嫌なことを言われ続けてきただけに、アシュが怯える気持ちもわかった。
「嘘なんてつきません」
「……良かった」
アシュは大きく息を吐いて続ける。
「そんな風に言ってもらえるとは思ってなかった。結婚したのに、一緒の部屋で眠らないなんて失礼なことをしてごめん」
自分と寝室を共にできなかった理由がこれだったのかとわかると、ファリアーナの心は軽くなった。
「いいえ。ところでこの件について、シルフィーナさんにはアシュ様から打ち明けたのですか?」
「初夜はちゃんと迎えようとしていた。でも、真実を伝えようにも彼女に拒否されたから伝えてない。どこかから仕入れた話だと思う」
「どこかから……ですか」
過去の婚約者が話したのだとしても、公爵家以上にしか話さないだろうと考えたファリアーナは、キッファンの顔を思い浮かべた。
(アシュ様のことを王弟殿下に調べさせたのね)
「とにかく問題は片付きましたし、シルフィーナさんのことは忘れましょう!」
「だ、だけど」
「アシュ様は動揺しておられるのでお忘れのようですが、私はシルフィーナさんとは会う気がないのです。私に話そうにも話しようがないのですよ?」
ファリアーナが微笑むと、アシュが急にしゃがみ込んだ。
「ど、どうされました!?」
「そうだった。本当に僕は馬鹿だったなと思って」
「いつかは伝えないと思ってくださっていたのでしょう? だから、頭から抜け落ちてしまったのですよ! シルフィーナさんは近い内にまたやって来るでしょうけれど追い返してあげましょう。それから、他の人に言いふらした場合は名誉毀損などで訴えましょう! 私は何があってもアシュ様の味方ですよ!」
「……ありがとう。その件については、こっちも手を打つよ」
アシュは笑顔のファリアーナを見上げ、嬉しそうに目を細めたのだった。
それから数時間後、シルフィーナがアシュを訪ねてやって来たが門前払いされた。それならとファリアーナを呼んだシルフィーナだったが、同じく門前払いされた。結果、ヒステリーを起こして暴れ出した彼女は騎士隊に通報され捕まることになったのだった。
書斎の奥に隠されていて、まるで秘密基地のようだと、ファリアーナは子供のようにワクワクしていた。
アシュに促されて中に入ると、部屋の中には動物のぬいぐるみが所狭しと置かれていた。大きさや種類は様々でファリアーナよりも大きなぬいぐるみもある。
「すごいです!」
ファリアーナは、アシュに許可を取るのも忘れて、気になったぬいぐるみの所に駆け寄る。触れはせずに眺めてみると、背が高いうさぎのぬいぐるみは、顔と胴体は丸く、後ろ足がかなり長い。
「私の部屋にある抱き枕みたいですね」
そこまで言ったところで、慌ててファリアーナは頭を下げる。
「勝手に部屋の中を歩き回ってしまい申し訳ございません」
「見せるために入れたんだから気にしなくていいよ。好きなだけ見ればいい」
「ありがとうございます!」
ファリアーナは童心に返ったように、目を輝かせて部屋の中を歩き出す。使い古されたようものや汚れ一つない綺麗なものなど、動物の種類によって棚に分けて置かれている。窓際には小さな丸テーブルが置かれており、そこには作りかけのぬいぐるみが転がっていた。
「これは……」
ファリアーナが持っている花嫁姿の白い熊のぬいぐるみと、同じ大きさの白い熊だった。ファリアーナはテーブルに近寄りながら、アシュに尋ねる。
「もしかして、私にくれたぬいぐるみは、アシュ様が作ったものなんですか!?」
「……ああ。子供の頃は病弱でほとんど外に出られなかったから、お祖母様が教えてくれたんだ」
「すごいです! 私は刺しゅうさえも上手くできません」
ファリアーナはハッとなって、アシュに尋ねる。
「もしかして、秘密というのはこのことてすか?」
「それもあるんだが、このことについては大したことじゃない」
「そうですよね。ぬいぐるみが販売されているのは、それを作っている人がいるということですからね。秘密にしなければならないことではありません」
「ああ」
アシュはやはり話しにくいようで、苦しそうな顔をしている。そんな彼にファリアーナは優しく話しかける。
「アシュ様、感じ方は人によってそれぞれです。バカにする人もいるかもしれませんが、そうでない人も必ずいます。受け入れることはできなくても干渉しないという選択肢もありますから、どんなことかお聞かせ願えませんか」
「……ありがとう」
アシュは大きく息を吸うと、小さな声で話す。
「眠れないんだ」
「……はい」
「……ぬいぐるみと一緒に寝ないと眠れないんだ」
背を向けてしまったアシュを見つめて、ファリアーナは思う。
(私としては可愛らしいものだと思うけど、公爵令息という立場でアシュ様の年齢を考えると、情けないと思ったり、バカにしたりする人もいるのでしょうね)
苦笑したあと、ファリアーナはアシュの前に回り込んで口を開く。
「良いのではないでしょうか」
「……良い?」
「はい。私も今は一緒に寝ていますし。ああ、抱き枕サイズを作ってくださったのは、もしかして、アシュ様も使っているからですか?」
「え、あ、はい」
思った反応と違ったのか、拍子抜けした顔でアシュは頷いた。
「可愛くて癒されています。ただ、寝相が悪いので、朝にはベッドから落としてしまっていますが……」
「気持ち悪いと思わないのか?」
「はい? 私も一緒に寝ていますから、特に気になりませんが……」
「……本当に?」
アシュが警戒しているように見えて、ファリアーナは悲しげに微笑む。
(昔の婚約者に気持ち悪いと言われたのね。個人の感覚だし、そう思うことは悪いことではないけど、もう少しオブラートに包めなかったのかしら。いや、でも、はっきり言えたから婚約が解消できたのよね)
ファリアーナは自分が嫌なことを言われ続けてきただけに、アシュが怯える気持ちもわかった。
「嘘なんてつきません」
「……良かった」
アシュは大きく息を吐いて続ける。
「そんな風に言ってもらえるとは思ってなかった。結婚したのに、一緒の部屋で眠らないなんて失礼なことをしてごめん」
自分と寝室を共にできなかった理由がこれだったのかとわかると、ファリアーナの心は軽くなった。
「いいえ。ところでこの件について、シルフィーナさんにはアシュ様から打ち明けたのですか?」
「初夜はちゃんと迎えようとしていた。でも、真実を伝えようにも彼女に拒否されたから伝えてない。どこかから仕入れた話だと思う」
「どこかから……ですか」
過去の婚約者が話したのだとしても、公爵家以上にしか話さないだろうと考えたファリアーナは、キッファンの顔を思い浮かべた。
(アシュ様のことを王弟殿下に調べさせたのね)
「とにかく問題は片付きましたし、シルフィーナさんのことは忘れましょう!」
「だ、だけど」
「アシュ様は動揺しておられるのでお忘れのようですが、私はシルフィーナさんとは会う気がないのです。私に話そうにも話しようがないのですよ?」
ファリアーナが微笑むと、アシュが急にしゃがみ込んだ。
「ど、どうされました!?」
「そうだった。本当に僕は馬鹿だったなと思って」
「いつかは伝えないと思ってくださっていたのでしょう? だから、頭から抜け落ちてしまったのですよ! シルフィーナさんは近い内にまたやって来るでしょうけれど追い返してあげましょう。それから、他の人に言いふらした場合は名誉毀損などで訴えましょう! 私は何があってもアシュ様の味方ですよ!」
「……ありがとう。その件については、こっちも手を打つよ」
アシュは笑顔のファリアーナを見上げ、嬉しそうに目を細めたのだった。
それから数時間後、シルフィーナがアシュを訪ねてやって来たが門前払いされた。それならとファリアーナを呼んだシルフィーナだったが、同じく門前払いされた。結果、ヒステリーを起こして暴れ出した彼女は騎士隊に通報され捕まることになったのだった。
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