【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

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3  二人の女性の影

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 赤い屋根に白い木造建築の可愛らしい一軒家は、平民の家族が幸せに暮らすために建てられたような温かさのある家だった。

「アルミラ、会いたかったわ!」

 家の中に足を踏み入れると、笑顔で駆け寄ってきたのはファニだった。
 長い髪をさらりとなびかせて、以前よりも濃い化粧になり、大人っぽくなったファニは躊躇うことなく、わたしに抱きついてきた。

 どんな思いでそんなことをするのかしら。

 そう思いつつも笑顔で抱きしめ返す。

「久しぶりね、ファニ。会えて嬉しいわ。でも、どうしてここにいるの? わたしはオズック様にサプライズをしたいと言っていたわよね。言ってしまったら意味がないじゃないの」
「えっ、ええ。そのつもりだったんだけど」
「ファニが色々と聞いてくるから怪しんで聞いたんだ」

 オズック様が焦った様子のファニに助け舟を出した。
 ファニはわたしから身を離して、何度も頷いてから手を合わせて謝ってくる。

「そうよ。嘘がつけなくてごめんね。協力するって言っていたのに」
「気にしなくていいけれど、嘘をついていることがわかるくらいに、二人が親しい間柄だったなんて知らなかったわ」

 笑顔を作って言うと、ファニは苦笑する。

「オズック様とはシフトの時間が一緒になることが多いのよ。仕事に連携は必要でしょう。それにあなたの婚約者なんだもの。話しかけやすくて」
「そうなんだよ。で、いつもなら聞いてこないことを聞かれたりすると、何かおかしいなと思うだろう」
「ふふ。こんなんじゃ駄目ですよね」

 ファニは熱っぽい視線をオズック様に送る。
 
 これは、わざとなのでしょうね。

 わたしが気が付かないと思っているか、もしくは挑発かしら。
 オズック様は結婚までは私に知られたら困るので隠し通そうとしているけれど、ファニはオズック様と自分の関係をわたしに伝えたくてしょうがないみたい。

 口約束だけなら不安なんでしょうね。
 それなら、友人だったよしみで、さっきの話をしてあげましょう。

「オズック様、確認したいことがあるのですが、お話してもよろしいでしょうか」
「もちろんだよ。あ、立ち話もなんだから、中に入って。使用人がいないから買ってきたジュースや水とかしかないんだけど、それでもいいかな。用意ができていなくてごめんね」
「長居をするつもりはないので結構ですわ」

 本題に入る前に玄関に置かれていた傘に目を向ける。
 端がフリルのように見える可愛らしいデザインのピンク色の花がらの傘だ。
 
「可愛い傘ね。これはファニのもの? 昔のあなたはこんな可愛らしい物を好まなかったけれど、あなたの趣味は変わったのね」

 ファニに尋ねたけれど、答えたのはオズック様だった。 

「あ、いや、これは違うんだ。これはアルミラへのプレゼントなんだよ」
「わたしへのプレゼント、ですか」
「ああ。急遽、聞いたものだから安物の傘を買っちゃったんだ。やっぱり買い直すよ。一緒に買い物に行こうか」
「いいえ。この傘で十分ですわ」

 傘を手に取ると、先が傷んでいて何度か使われている形跡が見られた。
 内緒で会っている場合は、馬車でここまで来れないから、傘が必要なのかもしれない。
 もしくは、二人で出かけるためかしら。

 ファニのものかとも一瞬思ったけれど、今日は良い天気だし日傘ならまだしも雨傘は必要ない。
 ファニと一緒に住んでいる可能性も思い浮かんだ。
 でも、彼女は驚いた顔を隠せていないので、やはり、これはファニのものではないらしい。

 ということは、オズック様はファニ以外にも女性をこの家に連れ込んでいて、その女性が他の女性に自分の存在を匂わせようとして置いていった可能性が高い。

 オズック様は私が来ることをさっき知ったようだし、片付けていなかったのかもしれない。

 オズック様の浮気相手は一体何人なのかしら。
 そして、その相手はわたしという婚約者がいることを知っているのかも気になるわ。

「いや、アルミラ。それはやっぱり君には似合わないような気がしてきた」

 このまま持っていかれては困ると思ったのか、オズック様が止めてくる。

「いいえ。オズック様がわたしのために買ってくれたものですもの。何でも嬉しいですわ」

 これは証拠品に持ち帰らせていただくわ。
 だって、私へのプレゼントと聞いたんだもの。
 泥棒にはならないはず。

 珍しい柄の傘だから、持ち主が誰かわかるかもしれない。
 平民がよく使うような傘なら無理だけれど、オーダーメイドの傘であれば、店が相手の名を控えている、もしくは記憶している可能性が高い。

 素直に答えてくれるかはわからない。
 でも、浮気調査だということと、お父様の権力とわたしのお小遣いから出したお金があれば何とかなるでしょう。

 今のところ、慰謝料請求についてのお相手は、オズック様も合わせて3人ね。
 
「いや。駄目だよ。アルミラ、返してくれ。納得いかないんだ」
「いいじゃないですか。元々、プレゼントしてくださる予定だったんでしょう」
「そ、それはそうだけど」
「アルミラ以外に渡すつもりだったわけじゃないですよね?」

 ファニのほうは自分が本命だと思っているから、他の女性のマウント品が気に食わないようで、オズック様を軽く睨みながら問いかけた。

「え、あ、アルミラ、ちょっと待っててくれ。それからファニ、君はこっちに来てくれ」

 オズック様はわたしの返事は待たずにファニを連れて、近くの部屋に入っていく。
 わたしは足音を忍ばせて、その部屋の扉の前で行って耳を澄ます。

「おい! よけいなことを話すなよ!」
「どうしてよ! しょうがないじゃないの! 私がいるのに他の女を家にいれるからよ! 私だけだったんじゃないの!? やっぱり他に女がいたのね!」
「ファニ、いい加減にしてくれ! さっきも言っただろ! オレはアルミラに興味はないんだよ! あいつはオレの金蔓、オレが楽に生きていくための踏み台なんだ! そして、もし女の影がチラついていたとしても、それはお前と結婚するためなんだ!」

 オズック様は小声のつもりらしいけれど、興奮しているからか話がはっきり聞き取れて助かった。

「ねえ、オズック」
「何だよ」
「私のこと、愛してる?」
「ああ。愛してるよ。お前だけだよ、ファニ」

 ため息をつきたくなるのをこらえ、二人が部屋から出てくる前に待っていろと言われた場所に戻った。
 
 そろそろ疲れてきたし帰りたいわ。

 だから、二人が笑顔で出てくると単刀直入に聞いてみた。

「さっき、お庭で不愉快な話をしていらっしゃいましたが、オズック様、あなたはファニと浮気していますわね?」

 ファニとオズック様は面白いくらいに正直に動揺して動きを止めた。

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