【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

文字の大きさ
6 / 59

4  素直で純粋なわたし

しおりを挟む
「その反応を見ると、浮気しているということは間違いないようですわね」

 微笑んだあと、わたしは玄関の扉を自分で開けて、ポーチに立っていた騎士に傘を手渡す。

「この傘、大事に持っていてくれないかしら。オズック様からのわたしへのなのよ」
「承知いたしました」
「ま、待ってくれ、アルミラ! 君は何か誤解している! オレのことをそんな風な目で見るなんて酷いよ」

 オズック様は眉尻を下げて訴えてきた。
 今は傘よりも、わたしの疑いを晴らすことに決めたらしい。

 それにしても酷いのはどちらのほうよ。
 わたしのほうは二度と恋なんてしたくないくらいのダメージを受けているのに、この人は少なくとも浮気相手が二人いる。
 わたしともう一人の女性が、彼にとって都合のいい女ということでしょうね。
 もしくは、ファニがそうだったりするのかしら。

 大きく深呼吸して気持ちを落ち着けてから尋ねる。

「誤解とはどのようなことでしょうか」
「それよりもまずは、アルミラに聞きたい。君はどんなことを聞いたと言うんだよ」
「わたしの口から言えとおっしゃるのですか。冷たい御方ですわね」

 失笑すると、オズック様は眉根を寄せて否定する。

「オレにはアルミラしかいないんだ。冷たいことを言っているのは君だよ。オレを信じるって約束しただろ」
「残念ながら、この目と耳で確認したのです」
「何を聞いたんだ」

 オズック様は笑顔を作っているつもりのようだけれど、目は一切笑えていなかった。

「そうですわね。オズック様がファニに今の恋人と別れるようにお願いしていましたわね。そして、ファニもそれを受け入れるようでしたわ」
「え、それは、そんなわけないじゃない!」

 ファニは焦った表情で言った。

 彼女にしてみれば仲良くしているところを見られても良いけれど、恋人についての話は聞かれたくなかったみたいだった。

 焦るなら、あんな所で話をすべきではないわ。

 ファニの恋人については、2、3度会ったくらいで詳しくは知らない。
 騎士だということや、2歳年上だということは知っている。
 彼についても詳しく調べてみなくちゃいけないわ。

 ファニの浮気について知っているのかいないのか。
 知らないのなら、こちらの味方になってくれる可能性もある。

「そうよね。あなたは恋人と上手くいっていると言っていたものね。恋人のことを手紙に書いてくれていたもの」

 笑顔で頷いてから、オズック様を見て話を続ける。

「その恋人というのが誰のことを言っているのかはわかりません。わたしはファニと上手くいっているほうの恋人がオズック様だと思っております」
「何を言っているんだよ! アルミラ、いい加減にしないと本気で怒るぞ」
「良いですわ。怒ってくださいませ。そして、嫌いになって婚約を破棄していただけますと有り難いですわ」
「婚約破棄なんてしない。それに、誤解だと言っているだろ! 君が聞いたのは演技なんだ」
「演技、ですか」
  
 言った言っていないでは堂々巡りになることに気が付いたのか、オズック様は言ったことを認めることにしたようだった。

「ああ、そうだよ。君がどんな反応をするか見たかっただけだ。本気で言ったわけじゃない。そうだろ、ファニ」
「え、ええ。そうよ。あなたなら私たちを信じてくれると思っていたのよ。そんなことを言われたらショックだわ」

 彼女たちは嘘をつきなれている。
 そんな風に感じた。

 いつから、こんな関係になったのかはわからない。

 お父様にお願いして調べてもらいましょう。
 あまりに踏み込んで証拠を消されても困る。
 だから、今日はここで引いておくことにする。

「ごめんなさい。久しぶりに会えたのに、二人の仲がとても親密に見えて何だか不安になってしまったんです」

 今までのわたしのように素直に謝ると、オズック様は微笑んで、わたしに手を差し出してくる。

「わかってくれたのなら良いよ。だけど、本当に今日の君は君らしくない。いつもの素直で純粋な君のことをオレは選んだんだよ。それを忘れないでほしい」

 どうして、あなたはそんな上から目線でものを言うんでしょうね。
 今までは、そんなあなたが大人だからだと思っていた。
 でも、大人だからこそ、そんな言い方はしないはずなのだと、社会に出てわかった。
 
「そうですか。オズック様の好きなわたしは、素直で純粋なわたしなのですね」
「そうだよ。わかってくれてありがとう」

 オズック様は安堵したのか小さく息を吐いてから頷いた。

 では、これからのわたしは、あなたの好みではない女性になることを誓うわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人
恋愛
 お爺様は何時も私に言っていた。 「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」  そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。  祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。  シラキス公爵家の三男カール。  外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。  シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。  そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。  でも、私に愛を語る彼は私を知らない。  でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。  だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。  なのに気が付けば、婚約を??  婚約者なのだからと屋敷に入り込み。  婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。  そして……私を脅した。  私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!

私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人
恋愛
竜と言う偉大な血が民に流れる国アクロマティリ。 偉大で狂暴で凶悪で、その身に膨大なマナを持つ民。 そんな彼等は世界の礎である世界樹を枯らした。 私は、世界樹を復活させるために……愛の無い夫婦の間に生まれた子。 それでも、家族は、母が父を呪いで縛り奪ったにも拘らず愛してくれた。 父     ジェフリー 義母    ニーヴィ 腹違いの姉 ヴィヴィアン 婚約者   ヨハン 恨むことなく愛を与えてくれた大切な家族。 家族の愛を信じていた。 家族の愛を疑った事は無かった。 そして国を裏切るか? 家族を裏切るか? 選択が求められる。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

処理中です...