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7 昔のわたしのような人
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ラギリ様はファニのことでどうしてもわたしと話がしたいから、都合の良い日を教えてくれれば家に訪ねてきてくれるとのことだった。
オズック様は傘を取り返しに5日後にくると書いていた。
手紙の日付は2日前だったから、3日後にはやって来るということになる。
それなら、ラギリ様に会うのも3日後にしようと考えた。
急だから、都合が合わないかもしれないとも思ったけれど、使いの人が待っていてくれたので、すぐにその旨の返事を書いて渡した。
そして、それから数時間後、違う人がやって来て、ラギリ様からの手紙を渡してくれた。
手紙には、わたしが希望した日時に訪ねてくると書かれていた。
*****
当日、久しぶりにお会いしたラギリ様はどこか気落ちした様子だった。
黒髪の短髪のラギリ様はオズック様とは真逆の顔立ちで、ファニも最初はつまみ食いのつもりだったのかもしれない。
ファニから聞いた話では、ラギリ様は騎士ではあるけれど、ファニに少しでも会いたいがために国境警備隊の警務部に入ったらしい。
ということは、ファニとオズック様の浮気に薄々勘づいていてもおかしくない。
でも、そんなに簡単にバレてしまうような関係性なら、直接、本人に確認を入れているはずよね。
ファニはわたしの目の前に座っている大柄な男性を、自分の忠犬のようだと言っていたけれど、果たして彼はそれを認識しているのかしら。
「本日はお忙しい中お時間をとっていただき、誠にありがとうございます」
ソファに座ったラギリ様は深々を頭を下げた。
「わたしもお話したいことがありましたから、ちょうど良かったですわ」
「……私に話したいことですか?」
「ええ。でもまずは、ラギリ様のお話からお聞かせ願えますか」
「よろしいのですか」
「もちろんです。ファニについてのどんなお話なのか知りたいものですから」
微笑むと、ラギリ様は燃えるような赤い瞳をわたしに向けて話し始める。
「実はファニは職場でいじめを受けているんです」
「……いじめ?」
こんな話をされるなんて予想もしていなかった。
驚いて聞き返すと、ラギリ様は目を下に向けて話す。
「彼女の職場の机にはいつも仕事がいっぱいなんです」
「置いてあるものは、ファニのする仕事ではないんですか?」
「ファニは書類整理をするために雇われたわけでありません!」
ファニの浮気に気が付いて協力を求めてきたのかと思ったけれど、全くの見当違いだった。
彼は昔のわたしのように純粋なだけかしら。
目を覚ましてくれないかと思って、今度はわたしのほうからファニの話をしてみる。
「ファニなんだけれど、わたしの婚約者のオズック様と仲が良いみたいなんだけれど、あなたはご存知かしら」
「あなたもですか!」
ラギリ様はそう叫んで立ち上がり、悲しそうな顔をしてわたしを見下ろす。
「職場でもファニはそう言われていじめられているんです! ファニは浮気なんてしない! まして、親友のあなたの婚約者と浮気なんてするはずがない!」
「浮気現場を見たと言っても信じませんか?」
「信じられません! 口だけならなんとでも言えますからね! あなたならその浮気話も誤解だと言ってくれると思っていたのに! そんな状態なら、ファニのいじめのことだって知らんぷりなんでしょうね!」
ラギリ様はよっぽど悔しいのか、目に涙を浮かべてそう叫ぶと部屋を出て行ってしまった。
こう言ってはなんだけれど、彼の態度は格上の令嬢に対するものではない。
今の態度をお父様に話せば、ラギリ様の首が飛んでしまうわね。
詳しくは話さないにしても、今のような態度を他の人にやれば大変なことになるだろうから、彼には反省してもらったほうが良いかもしれないと思った時、扉がノックされた。
「誰?」
「申し訳ございません! ラギリです!」
一瞬で冷静に戻ったらしい。
部屋の中に入ることを許すと、ラギリ様は扉の前で額をカーペットに付けて謝ってくる。
「先程は大変失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした!」
「あなた、それでよく騎士が務まりますわね」
「実はファニには彼女のために仕事を辞めたと言っていたんですが、すぐ頭に血がのぼるせいでクビになったんです」
「そうだったんですね」
呆れてしまいため息を吐くと、恐る恐るといった感じでラギリ様が顔を上げる。
「あの、発言を許してもらえるでしょうか」
「どうぞ」
「実は国境警備隊の事務員を探しているんです」
「検問所ではなく?」
「はい。でも、事務所はすぐ近くにあります」
「そうなのね。で、それが何か?」
「アルミラ様が信頼できる誰かに勤めていただき、ファニが浮気していないということを証明してもらえたらと思うんです」
「そういうことね」
少し考えてから頷く。
この人はファニの言うことを本当に信じているのね。
どうして、そんな風に無条件に信じられるのか呆れてしまうけれど、昔のわたしもこんな感じだったから、両親は無理に止めなかったのかもしれない。
止められれば止められるほど、自分のほうが正しいのだと頑固になる可能性がある。
「わかったわ。この後、オズック様とお話がありますから、そのお話が終わったあとに、そのことについてはお返事をさせてもらいます」
ラギリ様は納得したようなそうでないような複雑そうな顔をしていたけれど、約束があるのであればしょうがないと思ったのか素直に帰ってくれた。
そして、それから1時間後、オズック様が屋敷を訪ねてきたのだった。
オズック様は傘を取り返しに5日後にくると書いていた。
手紙の日付は2日前だったから、3日後にはやって来るということになる。
それなら、ラギリ様に会うのも3日後にしようと考えた。
急だから、都合が合わないかもしれないとも思ったけれど、使いの人が待っていてくれたので、すぐにその旨の返事を書いて渡した。
そして、それから数時間後、違う人がやって来て、ラギリ様からの手紙を渡してくれた。
手紙には、わたしが希望した日時に訪ねてくると書かれていた。
*****
当日、久しぶりにお会いしたラギリ様はどこか気落ちした様子だった。
黒髪の短髪のラギリ様はオズック様とは真逆の顔立ちで、ファニも最初はつまみ食いのつもりだったのかもしれない。
ファニから聞いた話では、ラギリ様は騎士ではあるけれど、ファニに少しでも会いたいがために国境警備隊の警務部に入ったらしい。
ということは、ファニとオズック様の浮気に薄々勘づいていてもおかしくない。
でも、そんなに簡単にバレてしまうような関係性なら、直接、本人に確認を入れているはずよね。
ファニはわたしの目の前に座っている大柄な男性を、自分の忠犬のようだと言っていたけれど、果たして彼はそれを認識しているのかしら。
「本日はお忙しい中お時間をとっていただき、誠にありがとうございます」
ソファに座ったラギリ様は深々を頭を下げた。
「わたしもお話したいことがありましたから、ちょうど良かったですわ」
「……私に話したいことですか?」
「ええ。でもまずは、ラギリ様のお話からお聞かせ願えますか」
「よろしいのですか」
「もちろんです。ファニについてのどんなお話なのか知りたいものですから」
微笑むと、ラギリ様は燃えるような赤い瞳をわたしに向けて話し始める。
「実はファニは職場でいじめを受けているんです」
「……いじめ?」
こんな話をされるなんて予想もしていなかった。
驚いて聞き返すと、ラギリ様は目を下に向けて話す。
「彼女の職場の机にはいつも仕事がいっぱいなんです」
「置いてあるものは、ファニのする仕事ではないんですか?」
「ファニは書類整理をするために雇われたわけでありません!」
ファニの浮気に気が付いて協力を求めてきたのかと思ったけれど、全くの見当違いだった。
彼は昔のわたしのように純粋なだけかしら。
目を覚ましてくれないかと思って、今度はわたしのほうからファニの話をしてみる。
「ファニなんだけれど、わたしの婚約者のオズック様と仲が良いみたいなんだけれど、あなたはご存知かしら」
「あなたもですか!」
ラギリ様はそう叫んで立ち上がり、悲しそうな顔をしてわたしを見下ろす。
「職場でもファニはそう言われていじめられているんです! ファニは浮気なんてしない! まして、親友のあなたの婚約者と浮気なんてするはずがない!」
「浮気現場を見たと言っても信じませんか?」
「信じられません! 口だけならなんとでも言えますからね! あなたならその浮気話も誤解だと言ってくれると思っていたのに! そんな状態なら、ファニのいじめのことだって知らんぷりなんでしょうね!」
ラギリ様はよっぽど悔しいのか、目に涙を浮かべてそう叫ぶと部屋を出て行ってしまった。
こう言ってはなんだけれど、彼の態度は格上の令嬢に対するものではない。
今の態度をお父様に話せば、ラギリ様の首が飛んでしまうわね。
詳しくは話さないにしても、今のような態度を他の人にやれば大変なことになるだろうから、彼には反省してもらったほうが良いかもしれないと思った時、扉がノックされた。
「誰?」
「申し訳ございません! ラギリです!」
一瞬で冷静に戻ったらしい。
部屋の中に入ることを許すと、ラギリ様は扉の前で額をカーペットに付けて謝ってくる。
「先程は大変失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした!」
「あなた、それでよく騎士が務まりますわね」
「実はファニには彼女のために仕事を辞めたと言っていたんですが、すぐ頭に血がのぼるせいでクビになったんです」
「そうだったんですね」
呆れてしまいため息を吐くと、恐る恐るといった感じでラギリ様が顔を上げる。
「あの、発言を許してもらえるでしょうか」
「どうぞ」
「実は国境警備隊の事務員を探しているんです」
「検問所ではなく?」
「はい。でも、事務所はすぐ近くにあります」
「そうなのね。で、それが何か?」
「アルミラ様が信頼できる誰かに勤めていただき、ファニが浮気していないということを証明してもらえたらと思うんです」
「そういうことね」
少し考えてから頷く。
この人はファニの言うことを本当に信じているのね。
どうして、そんな風に無条件に信じられるのか呆れてしまうけれど、昔のわたしもこんな感じだったから、両親は無理に止めなかったのかもしれない。
止められれば止められるほど、自分のほうが正しいのだと頑固になる可能性がある。
「わかったわ。この後、オズック様とお話がありますから、そのお話が終わったあとに、そのことについてはお返事をさせてもらいます」
ラギリ様は納得したようなそうでないような複雑そうな顔をしていたけれど、約束があるのであればしょうがないと思ったのか素直に帰ってくれた。
そして、それから1時間後、オズック様が屋敷を訪ねてきたのだった。
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