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17 婚約破棄に向けて①
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指定されたレストランはリアド辺境伯御用達の店で、この日は貸し切りにしてもらうことになった。
協力してくれる多くの人が集まる上に公爵夫人やわたしのお父様、それからリアド辺境伯もいらっしゃるので余計にだ。
オズックは本当にシャーロット様のことに気付いていないらしく、シャーロット様はそれはそれで複雑な気分のようだった。
かといってオズックに対する気持ちは今までのようなものにはならず、手紙を読んでいるとシャーロット様は他の人に好意を持っているように感じた。
それはイボンヌさんも同じのようで、打ち合わせのために会った時にこう言っていた。
『新しい恋もすぐには背中を押せないけど、オズックよりかは話を聞いていたら真面目な良い男だわ。あたしはああいうタイプは面倒だと感じそうだから、あの男に恋することはないですけど』
全ての人が同じ人を好きになるわけじゃない。
だから、多くの恋人たちや夫婦がいる。
わたしもこの件が終わったら、新しい一歩を踏み出さなくちゃ。
そう思っていた矢先、わたしに近づいてくる人物がいた。
「オズックには君はもったいない」
お父様の仕事の御使いで街に出た時、偶然、お会いしたアフック様は、社交辞令の挨拶を交わしたあと、そう話しかけてきた。
金色の少しくせのある短髪に緑色の綺麗な瞳を持つ中肉中背のアフック様は柔らかな物腰で顔も整っているため、女性には人気がある。
だから、店内で話をしていると、周りの女性客がチラチラと彼を見ている。
「ありがとうございます。もったいないかどうかは別としまして、わたしは浮気をするような人は好きではありません。ですから婚約は破棄させていただくつもりでおります」
「中々、難しそうだけど大丈夫かな」
「ええ。お気遣いいただきありがとうございます」
まさか、彼からこちらに接触してくるとは思っていなかったので少し焦った。
でも、この場はなんとか乗り切ることができた。
どうしてアフック様が接触してきたのかはわからない。
たまたまなのか、それとも……。
調べるかどうか迷っているうちに、決戦の日はやって来たのだった。
*****
まずはオズックを油断させるためシャーロット様たちには普通のデートっぽいものをしてもらうことになった。
買い物に出かけた二人は、ずっと寄り添っている状態だった。
シャーロット様が寝返るのではないかという不安も出てきたけれど、二人で出かけている時点で、わたしが婚約破棄をする理由はセルロッテ様に理解してもらえると思っている。
シャーロット様とは友人になったから、できれば彼女との関係を続けたい。
オズックと楽しそうにしているシャーロット様が仲の良い演技をしてくれていることを祈った。
レストランには関係者を招待し、オズック様の背後になる位置に、わたしやセルロッテ様たちが座ることになった。
夕食の時間帯にシャーロット様たちはレストランに入り、まずは食前にオズックにはワインを飲ませた。
彼はお酒に強いタイプではないので、酔いが回ってすぐに饒舌になった。
オズックが自分の話をシャーロット様にしている間、関係者がレストランに入り、オズックと面識のない人たちと入り混じりながら近くの席に座った。
有り難いことにシャーロット様はわたしたちに話が聞こえるように、オズックの声が聞き取りにくいというふりをしてくれた。
そのため、オズックは声を大きく話さなければならず、オズックの話は耳を澄まさなくても耳にはっきりと届いた。
「アルミラと会えなくて寂しいからといって、君と会ってしまうオレを君はどう思うかな」
「アルミラ様とはどうされるおつもりなんですか」
「実は別れようか迷っているんだ」
「どうしてですか」
「オレ、君に惹かれているんだよ」
オズックがそう言った時、オズックの真後ろに座っていたセルロッテ様が、机の上に置いていた扇を持って立ち上がった。
そして、後ろに体を向けて声を掛ける。
「オズック」
「は? 何で呼び捨てにされないといけないんだ……って、お祖母様!?」
一瞬にして酔いが冷めたのか、オズックの赤かった頬が白くなった。
その瞬間、セルロッテ様が扇でオズックの頬を強く叩いた。
「信じていたのに」
「え……、あ、そんな」
オズック様は殴られた左頬を押さえながら、セルロッテ様を見たあと、同じく立ち上がったわたしに視線を移した。
「オズック様、今回は、わたしのサプライズは成功したみたいですね」
微笑んだわたしに対して、オズックの表情は恐怖の色をにじませていた。
協力してくれる多くの人が集まる上に公爵夫人やわたしのお父様、それからリアド辺境伯もいらっしゃるので余計にだ。
オズックは本当にシャーロット様のことに気付いていないらしく、シャーロット様はそれはそれで複雑な気分のようだった。
かといってオズックに対する気持ちは今までのようなものにはならず、手紙を読んでいるとシャーロット様は他の人に好意を持っているように感じた。
それはイボンヌさんも同じのようで、打ち合わせのために会った時にこう言っていた。
『新しい恋もすぐには背中を押せないけど、オズックよりかは話を聞いていたら真面目な良い男だわ。あたしはああいうタイプは面倒だと感じそうだから、あの男に恋することはないですけど』
全ての人が同じ人を好きになるわけじゃない。
だから、多くの恋人たちや夫婦がいる。
わたしもこの件が終わったら、新しい一歩を踏み出さなくちゃ。
そう思っていた矢先、わたしに近づいてくる人物がいた。
「オズックには君はもったいない」
お父様の仕事の御使いで街に出た時、偶然、お会いしたアフック様は、社交辞令の挨拶を交わしたあと、そう話しかけてきた。
金色の少しくせのある短髪に緑色の綺麗な瞳を持つ中肉中背のアフック様は柔らかな物腰で顔も整っているため、女性には人気がある。
だから、店内で話をしていると、周りの女性客がチラチラと彼を見ている。
「ありがとうございます。もったいないかどうかは別としまして、わたしは浮気をするような人は好きではありません。ですから婚約は破棄させていただくつもりでおります」
「中々、難しそうだけど大丈夫かな」
「ええ。お気遣いいただきありがとうございます」
まさか、彼からこちらに接触してくるとは思っていなかったので少し焦った。
でも、この場はなんとか乗り切ることができた。
どうしてアフック様が接触してきたのかはわからない。
たまたまなのか、それとも……。
調べるかどうか迷っているうちに、決戦の日はやって来たのだった。
*****
まずはオズックを油断させるためシャーロット様たちには普通のデートっぽいものをしてもらうことになった。
買い物に出かけた二人は、ずっと寄り添っている状態だった。
シャーロット様が寝返るのではないかという不安も出てきたけれど、二人で出かけている時点で、わたしが婚約破棄をする理由はセルロッテ様に理解してもらえると思っている。
シャーロット様とは友人になったから、できれば彼女との関係を続けたい。
オズックと楽しそうにしているシャーロット様が仲の良い演技をしてくれていることを祈った。
レストランには関係者を招待し、オズック様の背後になる位置に、わたしやセルロッテ様たちが座ることになった。
夕食の時間帯にシャーロット様たちはレストランに入り、まずは食前にオズックにはワインを飲ませた。
彼はお酒に強いタイプではないので、酔いが回ってすぐに饒舌になった。
オズックが自分の話をシャーロット様にしている間、関係者がレストランに入り、オズックと面識のない人たちと入り混じりながら近くの席に座った。
有り難いことにシャーロット様はわたしたちに話が聞こえるように、オズックの声が聞き取りにくいというふりをしてくれた。
そのため、オズックは声を大きく話さなければならず、オズックの話は耳を澄まさなくても耳にはっきりと届いた。
「アルミラと会えなくて寂しいからといって、君と会ってしまうオレを君はどう思うかな」
「アルミラ様とはどうされるおつもりなんですか」
「実は別れようか迷っているんだ」
「どうしてですか」
「オレ、君に惹かれているんだよ」
オズックがそう言った時、オズックの真後ろに座っていたセルロッテ様が、机の上に置いていた扇を持って立ち上がった。
そして、後ろに体を向けて声を掛ける。
「オズック」
「は? 何で呼び捨てにされないといけないんだ……って、お祖母様!?」
一瞬にして酔いが冷めたのか、オズックの赤かった頬が白くなった。
その瞬間、セルロッテ様が扇でオズックの頬を強く叩いた。
「信じていたのに」
「え……、あ、そんな」
オズック様は殴られた左頬を押さえながら、セルロッテ様を見たあと、同じく立ち上がったわたしに視線を移した。
「オズック様、今回は、わたしのサプライズは成功したみたいですね」
微笑んだわたしに対して、オズックの表情は恐怖の色をにじませていた。
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