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27 婚約者候補①
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「ドリル子爵令嬢でしたっけ? こちらに座ったらどうです?」
床に座り込んで泣いていたドリル子爵令嬢にイボンヌさんが話しかけた。
でも、まったく動こうとしないので、今度はわたしが声を掛ける。
「ドリル子爵令嬢、イボンヌさんの言う通り、床に座るのは良くないわ」
近くにいた騎士に目を向けると、わたしの意図に気がついて、わたしたちのテーブルの空いている椅子を引いた。
「も……、申し訳ございませんっ!」
引かれた椅子には座らずに、ドリル子爵令嬢は立ち上がって頭を下げた。
「気にしなくて良いと言いたいところだけれど、多少は痛い目に遭ってもらわないと駄目ね。わたしに対しての発言についてはなかったことにするけれど、その他のことについては責任は取ってほしいわ」
わたしが話し終えると、ドリル子爵令嬢は下げたままだった頭をゆっくりと上げた。
「何をすれば良いのでしょうか」
「店にいた人への迷惑料をリアド辺境伯家が出してくださっているから、そのお金の返却と支払われていない代金を店に支払ってください。店への迷惑料はレイドック候爵家で支払います」
わたしに一つも非がないとは言い切れないので、急遽、貸し切りにさせてもらったお金はこちらで支払おうと思った。
でも、ドリル子爵令嬢はその分も自分の家から支払うと言った。
「わかったわ。そのことは改めてまた話しましょう。だから、あなたはここに座って」
そこまで言ったところで、泣いていたからかドリル子爵令嬢の顔の化粧が落ちてしまっていることに気がついた。
「イボンヌさん、お願いできる?」
「もちろんです。今日はアルミラ様のお見合いのつもりだったので、メイク道具も持参してますんで!」
「わたしのお見合い? どういうこと?」
聞き返すと、シャーロット様が頭を下げて謝ってくる。
「申し訳ございません。アルミラ様が婚約者を探しているとお聞きして、年頃で婚約者のいない男性が身近にいたので連れてきたんです」
「……まさか、フィリップ様がここにいらっしゃったのは」
「そうです。兄にはまだ伝えていないのですが
」
「お見合いだと聞いて会ったりしたら、二人共に本音を出せないでしょう」
肩を落とすシャーロット様の代わりにイボンヌ様が言った。
風の噂でしか知らないけれど、フィリップ様が婚約破棄されたというお話は聞いたことがある。
しかも、破棄された理由は多くの人にとっては理不尽なものだったと記憶している。
どんな理由だったか思い出そうとしていると、シャーロット様が言う。
「兄がやりすぎたのではないかという意見もありますが、正当防衛だと思うんです」
「話を聞きましたけど、婚約者がどうしても街に出たいって言って、しょうがなく付き添ったら変な奴に絡まれたんでしょう? それで助けたら乱暴者だとか言われるなんて最悪じゃないですか。普通はお礼でしょう」
イボンヌさんが怒りながら、近くにいたリアド家のメイドからメイクボックスを受け取り、ドリル子爵令嬢のメイク直しを開始した。
「フィリップ兄様は言葉遣いは悪いですが、喧嘩も剣も強いですし、根は優しい人です。私のこともいつだって守ろうとしてくれています」
「それってシスコンとは違うのよね?」
「シスコンと言われるほどではないと思います」
イボンヌさんの問いにシャーロット様が迷うことなく答えた。
「なら、良いんじゃないですか。フィリップ様、オズックに比べたら劣るかもしれませんけど、見た目は良いですもの。あ、目の充血をとるのは無理だから、メイクしていたら失敗して酷いことになったから笑い転げて泣いたってことにしません?」
イボンヌさんは途中から話題を変えてきた。
彼女の明るい性格は、この場では本当に助かる。
「そうね。楽しく談笑していたことにしましよう」
フィリップ様にいつまでもお任せしているわけにはいかないので、わたしが立候補して扉に近寄っていく。
騎士に扉を開けてもらおうとした時、アフック様の声が聞こえた。
「女性の気持ちがわからないあなたに、中で何が起きているかなんて把握できるはずがない」
あなただってわかっていないじゃないの。
騎士が扉を開けてくれたので外へ出る。
「アルミラ嬢!」
アフック様は安堵したような表情でわたしの名を呼んだ。
どうして、わたしがアフック様に有利なほうに立つと思えるのかよくわからないわ。
だから、フィリップ様の横に立って口を開く。
「少なくともわたしの気持ちは、フィリップ様のほうがわかってくださっていますわ。ですから、アフック様はお帰りくださいませ」
睨みつけて言うと、アフック様は呆然とした表情でわたしを見つめた。
床に座り込んで泣いていたドリル子爵令嬢にイボンヌさんが話しかけた。
でも、まったく動こうとしないので、今度はわたしが声を掛ける。
「ドリル子爵令嬢、イボンヌさんの言う通り、床に座るのは良くないわ」
近くにいた騎士に目を向けると、わたしの意図に気がついて、わたしたちのテーブルの空いている椅子を引いた。
「も……、申し訳ございませんっ!」
引かれた椅子には座らずに、ドリル子爵令嬢は立ち上がって頭を下げた。
「気にしなくて良いと言いたいところだけれど、多少は痛い目に遭ってもらわないと駄目ね。わたしに対しての発言についてはなかったことにするけれど、その他のことについては責任は取ってほしいわ」
わたしが話し終えると、ドリル子爵令嬢は下げたままだった頭をゆっくりと上げた。
「何をすれば良いのでしょうか」
「店にいた人への迷惑料をリアド辺境伯家が出してくださっているから、そのお金の返却と支払われていない代金を店に支払ってください。店への迷惑料はレイドック候爵家で支払います」
わたしに一つも非がないとは言い切れないので、急遽、貸し切りにさせてもらったお金はこちらで支払おうと思った。
でも、ドリル子爵令嬢はその分も自分の家から支払うと言った。
「わかったわ。そのことは改めてまた話しましょう。だから、あなたはここに座って」
そこまで言ったところで、泣いていたからかドリル子爵令嬢の顔の化粧が落ちてしまっていることに気がついた。
「イボンヌさん、お願いできる?」
「もちろんです。今日はアルミラ様のお見合いのつもりだったので、メイク道具も持参してますんで!」
「わたしのお見合い? どういうこと?」
聞き返すと、シャーロット様が頭を下げて謝ってくる。
「申し訳ございません。アルミラ様が婚約者を探しているとお聞きして、年頃で婚約者のいない男性が身近にいたので連れてきたんです」
「……まさか、フィリップ様がここにいらっしゃったのは」
「そうです。兄にはまだ伝えていないのですが
」
「お見合いだと聞いて会ったりしたら、二人共に本音を出せないでしょう」
肩を落とすシャーロット様の代わりにイボンヌ様が言った。
風の噂でしか知らないけれど、フィリップ様が婚約破棄されたというお話は聞いたことがある。
しかも、破棄された理由は多くの人にとっては理不尽なものだったと記憶している。
どんな理由だったか思い出そうとしていると、シャーロット様が言う。
「兄がやりすぎたのではないかという意見もありますが、正当防衛だと思うんです」
「話を聞きましたけど、婚約者がどうしても街に出たいって言って、しょうがなく付き添ったら変な奴に絡まれたんでしょう? それで助けたら乱暴者だとか言われるなんて最悪じゃないですか。普通はお礼でしょう」
イボンヌさんが怒りながら、近くにいたリアド家のメイドからメイクボックスを受け取り、ドリル子爵令嬢のメイク直しを開始した。
「フィリップ兄様は言葉遣いは悪いですが、喧嘩も剣も強いですし、根は優しい人です。私のこともいつだって守ろうとしてくれています」
「それってシスコンとは違うのよね?」
「シスコンと言われるほどではないと思います」
イボンヌさんの問いにシャーロット様が迷うことなく答えた。
「なら、良いんじゃないですか。フィリップ様、オズックに比べたら劣るかもしれませんけど、見た目は良いですもの。あ、目の充血をとるのは無理だから、メイクしていたら失敗して酷いことになったから笑い転げて泣いたってことにしません?」
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「女性の気持ちがわからないあなたに、中で何が起きているかなんて把握できるはずがない」
あなただってわかっていないじゃないの。
騎士が扉を開けてくれたので外へ出る。
「アルミラ嬢!」
アフック様は安堵したような表情でわたしの名を呼んだ。
どうして、わたしがアフック様に有利なほうに立つと思えるのかよくわからないわ。
だから、フィリップ様の横に立って口を開く。
「少なくともわたしの気持ちは、フィリップ様のほうがわかってくださっていますわ。ですから、アフック様はお帰りくださいませ」
睨みつけて言うと、アフック様は呆然とした表情でわたしを見つめた。
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