【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

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26.5(アフックside)

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 ドリル子爵令嬢との婚約を決めた理由は金銭的なものだ。
 彼女の家は子爵家にしてみれば莫大な富を持っている。
 だから彼女が嫁に来るまでに、彼女から金を引き出せるだけ引き出して、何かの理由をつけて婚約を解消するつもりだった。

 そして、オズックが色々と失敗したおかげで状況が変わり、オレにしてみれば有り難い状況になった。

 オレがアルミラと結婚して侯爵位を継ぎ、オレが継ぐはずだった伯爵の爵位をオズックが継げば、兄弟揃って良い結果になる。

「兄上、助けてください。このままじゃアルミラの思う通りになってしまう。オレは惨めな生き方はしたくないんです」

 南の検問所に旅立つ前に涙ながらに訴えてきたオズックを見て思った。

 オズックは馬鹿なところがあるが、そこがあいつの可愛いところでもある。
 オレは兄としてあいつの面倒をみてやらないといけない。
 他人なんかどうでも良い。
 性格が大事だとか言いながら、結局、容姿を気にする奴らなんてクソ食らえだ。
 オレは家族が大事だ。
 だから、弟がどんな人間であっても助けると決めた。

 女で男慣れしていない奴らは簡単にオレに騙される。

 恋人がいる相手でもオレが優しく声をかければ勘違いする。
 幼い頃からそれを繰り返しているうちに学んだ。
 引っかかる奴はすぐに引っかかるし、引っかからない奴は引っかからない。

 ある程度のところまで踏み込んで、脈がなければ次に行けば良い。
 婚約者ができてからは、後腐れない女性を選んで付き合った。

 オレみたいな男にはドリル子爵令嬢のような平凡な容姿の女性は似合わないし、彼女にはオレはもったいなさ過ぎる。
 そう思ったからだ。

 どうせ、この冴えない女性に一生を縛られるというのなら、それまでは遊んだってかまわないだろう。

 そんな時にオズックの失敗だ。

 アルミラはドリル子爵令嬢よりも顔は可愛いほうだ。
 オレの隣に立つにはまだまだの容姿だが、ドリル子爵令嬢よりもマシだ。

 アルミラはオズックに騙されていた。
 傷心の女性に取り入るのは簡単だ。
 優しくしてやれば、すぐに落ちる。

 そう思っていた。
 それなのに、彼女は一向になびかない。
 このオレが声を掛けているのにだ。

「婚約者の方が気の毒ですわ。わたしのことはもうかまわないでください」
「僕にできることはこれくらいしかないのです。いえ、僕はアルミラ嬢と一緒にいたいのです」
「あなたに付きまとわれることが一番迷惑です」

 アルミラは冷たい声でそう言った。

 オズックに夢中になっていた女がオレになびかないなんて絶対に許せない。
 今のアルミラのネックはオレの婚約者なのだろう。
 それなら婚約者がいなくなれば良い。

 オレが婚約破棄をしてもおかしくない理由をドリル子爵令嬢に作らせれば良いのだ。

 だから、オレは彼女に嘘の情報を言い続けた。
 
 アルミラたちがカフェに来るという情報は、リアド辺境伯令嬢が職場の人間と話をしているところを、オレの手先の人間が聞いて知った。

 ドリル子爵令嬢は調べもせずにオレの言うことだけを信じ、そして、オレの教えた情報通りにアルミラに絡みに行ってくれた。

 ドリル子爵令嬢は本当に馬鹿だ。
 そして、オレにとってなんて都合のいい女なんだろうか。

 面白くなっている頃だろうと思い、カフェに向かうと店が貸し切りになっていた。

 扉を叩いて聞いてみると、やはり貸し切りだと言うので、どうにかして中に入ろうとした。

 すると、中からリアド辺境伯家の三男、フィリップ様が出てきてオレに話しかけてきた。

「今は女子会中でな。男子禁制ってやつだ。騎士は別だけどな」
「そ、そんな! 何かあったらどうするんです!?」
「何かって何だよ」
「ドリル子爵令嬢はアルミラ嬢に対して悪い感情を抱いているんです。アルミラ嬢に何か遭ったら」
「騎士がいるんだから大丈夫だろ。何か遭ったらって言うが、何のために騎士がいるんだよ。それとも、ドリル子爵令嬢は騎士よりも強いってのか?」

 フィリップ様は以前、婚約者を暴漢から護ろうとして、数人相手を返り討ちにしたところ、婚約者から「乱暴な人は嫌いだ」と婚約破棄された惨めな男だ。

 それなのに、どうしてオレが偉そうに言われなければならないんだ。
 辺境伯令息といっても三男じゃないか。

「女性の気持ちがわからないあなたに、中で何が起きているかなんて把握できるはずがない」

 オレがそう言った時だった。
 騎士が扉を開け、中からアルミラが出てきた。

「アルミラ嬢!」

 オレが声を掛けると、アルミラはフィリップ様の横に立って口を開く。

「少なくともわたしの気持ちは、フィリップ様のほうがわかってくださっていますわ。ですから、アフック様はお帰りくださいませ」

 冷たい視線を送ってくるアルミラに、オレの中の何かに火が点いた気がした。



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