【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

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30 新しい婚約者

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 店の中に戻ると、わたしとフィリップ様はテーブルを挟んで向かい合って座り、話を始めた。

 わたしが婚約者を探していることは、シャーロット様から聞いていたということや、先程のアフック様の件もあり、フィリップ様はわたしが婚約者を探している理由についてもすぐに理解してくれた。

 ただ、自分なんかで良いのかと、かなり気にしているようなので聞いてみる。

「何がネックなのです?」
「話し合いで解決できたかもしれないのに、力を使うような奴ですよ」
「婚約者が危ない時に話し合いよりも先に手が出てしまってもおかしくはないと思います。向こうが戦意を喪失したあとなら別ですが」
「さすがに無抵抗の相手に暴力をふるう人間ではないです」

 苦笑するフィリップ様に尋ねる。

「渋っておられるのは、わたしが嫌だからですか?」
「そういうわけではありません。つまらない男だとか言われるのは、もう嫌なだけです」
「そんなことは言いませんわ。誰に言われたのかはわかりませんが、その方とわたしが同じことを言うだなんて思わないでくださいませ」

 フィリップ様の元婚約者は南の辺境伯の令嬢で、彼を領地に何度も呼び寄せていたと聞いている。

 フィリップ様は北の辺境伯の三男ということで、地位は彼女よりも下に見られていた。

 南の辺境伯家はわたしと同じように子供が一人しかおらず、南の辺境伯令嬢が継ぐ、もしくはその婚約者であるフィリップ様が継ぐと考えられていた。

 あの一件で婚約を破棄したあとすぐに、彼女は他の男性と婚約している。
 もしかすると、暴漢の事件はフィリップ様を亡き者にすることが目的だったのかもしれない。

 フィリップ様が相手を返り討ちにしてしまったので、彼女は婚約破棄という手段を取ったんじゃないかしら。

 わたしとしては、フィリップ様がそこまで傷つく必要はないと思う。
 そこまで嫌われていたと思えばショックな気持ちはわかる。
 でも、わたしの仮説が間違っていたとしても、乱暴者だからという理由で命の恩人との婚約を破棄するのは違う気がする。

 フィリップ様やリアド辺境伯だって、相手方にすぐに婚約者が決まった時点でおかしいと思ったはず。

 何も言わずにいるのは、南の辺境伯令嬢に対して未練がないことや、何か遭った時に南の領民は助けても、彼女たちを助けるつもりがないのかもしれない。

「全ての人がそうじゃないことはわかってます。でも、俺のことはやめておいたほうが」
「では、お聞きしますが、わたしに合うような立場で年が近くて婚約者のいない、どなたかが頭に浮かびますか?」
「それは……、すぐには思い浮かびませんが」
「エルモード家は伯爵の地位ではありますが」
「バックには公爵家がいると言いたいんですよね。好き放題やれているのは公爵夫人に可愛がられているから」

 フィリップ様の言ったことは間違っていないので、無言で頷く。

 オズックのこともあり、セルロッテ様はわたしのことを気にかけてくださっている。
 それでも、自分の利益を優先することも忘れる様子はなかった。

「ヨレドロール公爵夫人はあなたとエルモード卿が結婚することを願っているかもしれないんですね」
「だから止めないのではないかと思っています」
「ドリル子爵令嬢と結婚するよりも、あなたと結婚するほうがエルモード卿にとって良いからですか」
「だと思っています」

 セルロッテ様に話をしようかと思ったけれど、彼をすすめられても困るので躊躇していた。

 でも、婚約者がいればまた違ってくる。

「……わかりました」

 フィリップ様は頷いてから話を続ける。

「やっぱり嫌になったとしても、リアド辺境伯家を責めるのはやめてください」
「それはもちろんです」

 こうして、無理矢理に近い感じではあるけれど、わたしとフィリップ様は婚約関係を結ぶことになった。



次の話はアフック視点になります。
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