【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

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30.5(アフックside)

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 どう考えてもおかしい。
 ドリル子爵令嬢は絶対にアルミラに不敬な発言をしに行ったはずなのに、アルミラの感じだとそんな様子は一切見えなかった。

 あの後、しばらくしてからドリル子爵令嬢を迎えに行って尋ねると、引きつった笑みを浮かべて「楽しく話をしていただけです」と答えた。

 絶対に何かあったはずなので優しく尋ねる。

「君はアルミラ嬢に何も言わなかったのかい?」
「はい。言う前に話を逸らされてしまいました。ところで、どうしてアフック様はアルミラ様のことをアルミラ嬢と呼んでおられるのですか」

 彼女を家まで送っている途中の馬車の中で、そう尋ねられて、オレは眉根を寄せて聞き返す。

「……どういうことかな」
「私のことは下の名前では呼んでくださらないのに、アルミラ様のことは、下の名前で呼んでおられるので気になったんです」

 この話を聞いておく、彼女はアルミラたちから、オレのことについて何か話を聞いたのだろうとわかった。

「僕の義理の妹になるはずの人だったから、昔からそう呼んでいたんだよ。今更、変えるのも変かと思ってね」
「でも、もうアルミラ様はオズック様とは関係ありませんわ」

 ドリル子爵令嬢は今までこんな風にオレに対して何か言い返すようなことはしてこなかった。

 まったく、アルミラは余計なことをしてくれたものだ。
 アルミラは次期侯爵だというが、オズックに騙されるような馬鹿が当主としてやっていけると思っているのだろうか。
 今となっては、オレに落ちないアルミラに対してムキになっている感はあるが、やはり、貴族の爵位は男が継ぐべきだと思うし、侯爵という爵位はオレに相応しいと思っている。

 だからこそ絶対にアルミラはオレの女にしてやるんだ。
 アルミラはフィリップ様を婚約者に仕立て上げようとしているみたいだが、彼は女性不信になっているという噂だ。
 だから、アルミラの申し出だって断るはずだ。

 アルミラには将来の爵位以外、秀でたところなんてないのだから。

 あ、いや、あるか。
 このオレに簡単に落ちないところは称賛に値するかもしれない。

「アフック様、どうかされましたか」
「いや、ソーニャが僕のことを信じてくれていないみたいだからショックを受けていたんだ」
「申し訳ございません!」

 ドリル子爵令嬢は名前を呼んだだけで頬を赤らめて謝ってきた。

 この反応が普通なんだ。
 アルミラはやっぱりおかしい。
 いや、だからこそ落とすべきものだ。

 アルミラがオレに服従する姿を少しでも早く見たいが、焦ってはいけない。

 まずは、この女との婚約を破棄しなければ。

 そう心に決めると、ドリル子爵令嬢に話しかける。

「レイドック侯爵令嬢に何を言われたか話をしてくれないか」
「……はい」

 ドリル子爵令嬢は頷き、ぽつりぽつりと話を始めた。



*****


 アルミラが話をしていたことをドリル子爵令嬢は素直に話をしてくれた。
 オレを遠ざけるために、婚約者を探そうと必死らしい。

 見つかるわけがない。

 レベルを下げれば別だが、侯爵家に見合うような爵位を持つ家の若い男性には婚約者がいるのだから。
 いないとしたら、オズックとフィリップ様くらいだ。

 アルミラがそのどちらかと婚約だなんてありえない。

 ドリル子爵令嬢を送り終えて、屋敷に戻り自分の部屋に向かっていると、母上が血相を変えて走り寄ってきた。

「大変よ、アフック! アルミラ様とフィリップ様の婚約が決まったそうよ! お義母様から連絡があって、これ以上、アルミラ様に近づかないようにと言っておられたわ」
「なんですって?」

 オレは大きな声で聞き返したのだった。
 
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