【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

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31 元親友と元婚約者たちの現在①

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 時の人である私とフィリップ様の婚約は、瞬く間に社交界に広がった。
 噂を流すのに、セルロッテ様も一役買ってくださったようだ。

 セルロッテ様はアフック様の婚約者にわたしがなれば、それはそれで良いと思っていたようだけれど、わたしに婚約者が決まったのであれば、しょうがないと思ってくれたらしい。

 孫が可愛いのは確かだけれど、そのために誰かを犠牲にすることは良しとしない性格は変わらないようで有り難い。

 フィリップ様とわたしの婚約は社交界では好意的に受け止められた。
 浮気をされて婚約を破棄した令嬢と浮気疑惑のある令嬢に婚約を破棄された令息の突然の婚約は、退屈していた社交界のマダムたちを喜ばせた。

 今回はセルロッテ様がこちら側に付いてくれたため、余計に好意的に受け止められたということもある。

 逆にアフック様の評判とフィリップ様の元婚約者であるエミカ様とエミカ様の現在の婚約者の評判は良くないものに変わった。
 でも、それは南の辺境伯領以外でだ。
 南の辺境伯の領地ではフィリップ様を悪く言う噂が流れているため、どちらが真実なのか迷う人も多くいるみたいだった。

 婚約を決めてから2日後、わたしの両親とリアド辺境伯、そして、わたしとフィリップ様は顔合わせのために、レイドック侯爵家の応接室に集まった。
 契約が締結されたあとは、大人だけで話すからと部屋から追い出されてしまい、わたしとフィリップ様は中庭を二人で歩きながら話をすることにした。

「俺のせいで噂になっているのか、それとも」
「わたしのせいでもあると思いますわ。フィリップ様のお話は1年以上前のことですから」
「それもそうかもしれないが、もうすぐ彼女たちは式を挙げるんだ」
「タイミングが悪いということですか?」
「そうだな。おめでたいムードに水を差すだろう」

 フィリップ様はわたしの歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら言った。

「言わせたい人には言わせておけば良いような気もします。フィリップ様は悪くありませんから放っておけば良いのです」
「それはそうかもしれないが」
「フィリップ様、素で話していただいてもかまいませんよ」
「……それは助かる。それなら、アルミラ嬢も敬語はいらない」
「アルミラで結構ですわ」
「じゃあ、俺はフィルでいい」
「フィル様ですわね」

 笑顔で頷くと、フィル様はそうじゃないと言わんばかりに眉根を寄せる。

「フィルだって言ってんだろ」
「……フィルですか」

 乱暴な言葉遣いと男性を愛称で呼ぶなんて初めてなので、少しだけドキドキした。
 そんなわたしの動揺に気がつく様子もなく、フィルは言う。

「それから敬語はいらない。爵位はアルミラのほうが上だから」
「婚約者なのですし対等で良いでしょう」
「なら、敬語は無しだな」

 フィルが口元に笑みを浮かべて言った。
 対等な立場というならそうなるわよね。

「では、遠慮なく話をさせてもらってもいい?」
「どうぞ」
「エミカ様の式が近いと聞いたけれど、延期になるかもしれないわ」
「……どういうことだ?」
「南の辺境伯領ということは、オズック様とファニが向かったところよね」
「……まさか」

 フィルが呆れたような表情でわたしを見た。

「そのまさかよ。ファニがエミカ様の婚約者を誘惑して、婚約者はエミカ様に内緒でファニと逢瀬を重ねているみたいよ」
「無茶苦茶だな」
「でしょう? でも、まだあるのよ」

 ゆっくり話をするために、わたしたちは中庭にある白いガゼボの中で座って話をすることにした。



 
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