【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ

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34 自分のことばかり考えている

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 急いで手紙を書いて鳩を飛ばしたけれど、本人にとって意味がなかったことがわかったのは、それから2日後のことだった。

 わたしの元にファニが襲われたという連絡が入った。
 見ず知らずの女性からすれ違い様に薬品を顔にかけられ、今はかなりひどい状態らしい。

 彼女に警告は伝わっていたけれど、相手にせずに警戒を一切しなかった。
 人の話に耳を傾けるような人間なら、最初から他の人の婚約者を奪いに行こうとはしない。

 わかっていたけれど、自分の中で犯罪を許してしまったような気がして、罪悪感が生まれるのは嫌だった。
 ファニが死んでしまった場合、恨まれてしまうのではないかと思って自分を守ろうとした。
 それに言わなかったことが社交界にバレて、冷たい女性だと言われるのも嫌だった。

 結局、わたしは自分のことしか考えていない。

 それは、ファニと同類なのではないかと嫌な気分になった。



*****


 ファニが襲われた数日後、フィルとシャーロット様とイボンヌさんがレイドック候爵家に来てくれたので、応接室で話をすることになった。

「わたしは自分のことしか考えていないなんて最低ですよね」

 自分が嫌な人間だと言われるのが嫌で警告をしたという自分が嫌でしょうがなくて、小さく息を吐いた。

「何もしなければ冷たい人間だと言う人間もいるだろうけど、警告したのなら気に病む必要はないだろ」

 フィル様はそう言って慰めてくれた。

「そうですよ。相手も警告してもらったのに警戒しなかったんですから、自分の責任ですよ。逆にアルミラ様の株は上がっていると思いますよ」
「そうですわ。あんな目に遭ったのに危険を教えたということで、アルミラ様は慈悲深い方だと思っていらっしゃる方が多いようですよ」
「結局、わたしの狙いはそうだったのよ。人の人生が大きく関わることなのに、自分の評判を気にしてしまったの」

 イボンヌさんとシャーロット様も優しい言葉を掛けてくれたけれど、わたしは首を横に振った。

「アルミラ様は真面目過ぎるんですよ。悪いのはブァーカルド子爵令嬢なんですから、気にしなくていいと思います。あたしとしては男のほうに何もないっていうほうが納得いかないです!」
 
 イボンヌさんの言う通り、ドーナモイ伯爵令息には何のお咎めもないらしい。

「どうして、ドーナモイ伯爵令息にはお咎めがないんだ?」
「たぶんですけど、ルララ辺境伯令嬢にしてみれば、ドーナモイ伯爵令息は最低な女に引っかかった可哀想な人だからですよ」

 フィルの疑問にイボンヌさんが答えた。

「ファニだけが悪くて、ドーナモイ伯爵令息は被害者なのね」
「そうだと思います。どうしてそんな思考になるのか、あたしにはさっぱりわからないですけど」

 イボンヌさんは頷いてから肩をすくめた。
 この時のわたしたちは、ルララ辺境伯令嬢とドーナモイ伯爵令息が結婚するものだと思い込んでいた。

 けれど、実際は違った。
 ルララ辺境伯令嬢がドーナモイ伯爵令息を捨てたという連絡がその日のうちに入ったのだった。
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