【完結】都合のいい女ではありませんので

４５ 懲りない男③

「脅してどうするつもりだったんだ？　知られたくなければアルミラと円満に婚約を解消しろとでも脅すつもりだったのか？」

　フィルに尋ねられたアフック様は、質問には答えずにヒスティー嬢のほうに目を向ける。

「おい。本当にフィリップ様と関係を持ったんだよな！？」
「ええ、そうです」

　ヒスティー嬢は迷う様子もなく頷いた。
　そんな彼女にフィルが尋ねる。

「言っておくが調べたらすぐにわかることだし、嘘をついていたとわかれば、どうなるかわかってるんだろうな」
「嘘ではありません！」

　アフック様は焦った顔で否定したけれど、ヒスティー嬢は不安になってきたのかアフック様を焦った顔で見つめている。
　
　これはもう少し責めたら、簡単に裏切ってくれそうね。
　そう思ったわたしは、ヒスティー嬢に話しかける。

「ヒスティーさん、あなたが言っていることが嘘だとわかれば、命の危険があるということは理解しているのよね？」
「命の危険？　どういうことですか？」
「貴族を貶めるような嘘をついたのだから、不敬罪であなたは殺されてしまうかもしれないわね」
「そ、そんな！」

　ヒスティー嬢は悲鳴に近い声を上げて助けを求めるようにアフック様に顔を向けた。
　すると、アフック様は立ち上がって、リアド辺境伯に話しかける。

「彼女が相手を間違えているのかもしれません。もう一度、彼女と話し合ってこようと思いますので、本日は失礼させていただきます」
「人の家まで押しかけてきてそれはないだろう」

　フィルが立ち上がって抗議をすると、アフック様は苦笑する。

「彼女が絶対だと言うので信じてしまったんです。ですが、フィリップ様に限って、そんなことがあるわけないですよね。本当に失礼いたしました」
「ちょっと、アフック様！？」

　段取りと違っているからか、ヒスティー嬢も立ち上がってヒステリックにアフック様に尋ねる。

「どういうことですか！？　あなたに言われた通りにやってるんですけど！？　また、ここに来ないといけないんですか！？」
「やめるんだ！　ヒスティー嬢、君は疲れているみたいだし、とにかく今日は帰ろう」
「帰るのは良いですけど、私をあなたの妻にしてくれるんでしょうね！？」
「馬鹿なことを言うのはやめろ！」

　ヒスティー嬢の爆弾発言に驚いたのは、わたしたちだけではなかった。
　アフック様も焦った顔になり、彼女の口を慌てて自分の手で押さえると、リアド辺境伯とフィルに話しかける。

「やはり彼女は気が動転しているようです。本日は失礼いたします」
「ちょっとお待ちください」

　逃げようとするアフック様を呼び止めて、口が自由になったヒスティー嬢に話しかける。

「ヒスティーさん、この方は何人もの女性とお付き合いしているという噂ですよ。あなたもその一人の可能性があります。それでも、アフック様の言う通りにしたいと思いますか？　何を言われたのかはわかりませんが、あなたは捨てられる可能性がありますわよ」
「やめろ！」

　アフック様が焦ったことにより、わたしの言葉が余計に裏付けられた形になった。