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2 婚約を破棄されるのよ
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チャルブッレ邸から王都までは馬車で二日以上かかる。私はせっかちな性格でもあるため、両親が手配してくれた馬車で、前日には王都にたどり着いた。
初めて見た王城は、城下町から石畳の急な坂道を上った場所にあった。
白亜の壁に赤色の屋根が目を引く横に長い城で、明日にはあの城内のどこかで、姉たちと対決するのだと思うと、色んな意味でドキドキした。
リックとはもう二年以上会っていない。
彼が来ていたら、少しくらい話がしたい。
――ああ、でも、リックにも婚約者がいるわよね。万が一誰かに誤解をされてしまうことがあったら迷惑をかけてしまうし、婚約者の方にも申し訳ないわ。
元気かどうか確認できたらそれでいい。
そう納得し、私は夕食を食べ終えて湯あみをすると、早いうちに眠ることにした。
決戦の日の朝は快晴で、爽やかな風が吹いていて心地よい。
私の今日の服装は、胸元に白い花のコサージュが付いている赤色のプリンセスラインのドレスだ。メイド曰く姉のお下がりらしい。
ドレスの丈はふくらはぎが隠れるくらい。姉にはくるぶし丈らしいのだが、短くなってしまったのは身長差のせいだろう。
婚約者にプレゼントされたドレスを着て、パーティーに出席するのが一般的だが、ワウキロヤ様は私にプレゼントする気はないようだった。
アクセサリーも同じく姉のお下がりで、白い小花のイヤリングとネックレスだ。
靴だけはどうしても入らず、買ってもらえたので良かった。
公爵家の馬車で宿屋まで迎えに来てくれたワウキロヤ様は、なぜか私の姉も一緒に連れてきていた。
二人きりにならなくていいのは良かったが、目の前でいちゃつく二人は少し鬱陶しかった。
無事に入場したところで、私は姉たちと一時的に別れた。
やはり、食事を楽しまなくちゃね。
パーティーの開催場所のダンスホール内の中心部には白いテーブルクロスが敷かれた長机が多数あり、その上にはたくさんの料理が並べられていた。
好きな食べ物を皿にとって、壁際に設置されている食事スペースで歓談するスタイルだ。
といっても、貴族や王族が自分で料理を皿に盛るわけではない。執事やメイド、フットマンが主の好みそうなものを選んで持っていっていた。
さあ、今日は久しぶりのご馳走よ!
二度と食べられないかもしれないから、下品だと思われない程度に楽しみましょう。
ありがたいことに、ある人のおかげで社交場でのマナーはしっかり頭に入っていた。
食べ物が盛られた白い大皿の前には、食べ物の名称が書かれたプレートが置かれている。
世界共通語で書かれており、私には難なく読み取ることができた。
「これは……何かしら」
姉はクルリン王国の母国語であるクプンマ語以外は苦手で、文字を読むのに苦労している。
「これはマッシュポテトと読むんだ」
「わあ! ワウキロヤ様、すごいです!」
イチャイチャしている二人から遠ざかろうと、取り皿を持って移動した。
各国の郷土料理など珍しい食べ物が目を引いたが、やはり私が一番心惹かれたのは、ステーキという文字だった。
「うふふ」
嬉しさで思わず声を出してしまった時、左側に人影が見えた。
「失礼ですが、リファーラ様でいらっしゃいますでしょうか」
「はい?」
驚いて隣に立つ人物を見つめたが、私はすぐに歓喜の声を上げた。
「イセンさん! お久しぶりですわね!」
「リファーラ様、お久しぶりでございます。老いぼれを覚えていてくださり、誠に光栄でございます」
執事服姿の長身痩軀の老紳士は、嬉しそうに顔をほころばせ深々と頭を下げた。
彼こそがリックの世話役で、私に貴族のマナーを叩き込んでくれた先生だった。
最後に会った時よりも白髪が増え、綺麗な白髪になっていた。
温和そうな顔立ちで、目が細いからか、いつも穏やかに笑っているように見える。
「元気にしていた? それにリックは元気にしているの? この会場内にいるのかしら」
「おかげさまで元気にしておりました。……リック様ですが、あなたが婚約者の男性と一緒にいる所を見たくないとおっしゃって、今は庭園のほうにいらっしゃいます」
「気を遣わなくてもいいのに」
リックがワウキロヤ様に遠慮しているのだと勘違いした私は、満面の笑みを浮かべて続けた。
「今日、私は婚約を破棄されるのよ。だから、リックに気にしなくていいと伝えてもらえる?」
「……はい?」
イセンさんはぽかんとした表情で私を見つめた。
初めて見た王城は、城下町から石畳の急な坂道を上った場所にあった。
白亜の壁に赤色の屋根が目を引く横に長い城で、明日にはあの城内のどこかで、姉たちと対決するのだと思うと、色んな意味でドキドキした。
リックとはもう二年以上会っていない。
彼が来ていたら、少しくらい話がしたい。
――ああ、でも、リックにも婚約者がいるわよね。万が一誰かに誤解をされてしまうことがあったら迷惑をかけてしまうし、婚約者の方にも申し訳ないわ。
元気かどうか確認できたらそれでいい。
そう納得し、私は夕食を食べ終えて湯あみをすると、早いうちに眠ることにした。
決戦の日の朝は快晴で、爽やかな風が吹いていて心地よい。
私の今日の服装は、胸元に白い花のコサージュが付いている赤色のプリンセスラインのドレスだ。メイド曰く姉のお下がりらしい。
ドレスの丈はふくらはぎが隠れるくらい。姉にはくるぶし丈らしいのだが、短くなってしまったのは身長差のせいだろう。
婚約者にプレゼントされたドレスを着て、パーティーに出席するのが一般的だが、ワウキロヤ様は私にプレゼントする気はないようだった。
アクセサリーも同じく姉のお下がりで、白い小花のイヤリングとネックレスだ。
靴だけはどうしても入らず、買ってもらえたので良かった。
公爵家の馬車で宿屋まで迎えに来てくれたワウキロヤ様は、なぜか私の姉も一緒に連れてきていた。
二人きりにならなくていいのは良かったが、目の前でいちゃつく二人は少し鬱陶しかった。
無事に入場したところで、私は姉たちと一時的に別れた。
やはり、食事を楽しまなくちゃね。
パーティーの開催場所のダンスホール内の中心部には白いテーブルクロスが敷かれた長机が多数あり、その上にはたくさんの料理が並べられていた。
好きな食べ物を皿にとって、壁際に設置されている食事スペースで歓談するスタイルだ。
といっても、貴族や王族が自分で料理を皿に盛るわけではない。執事やメイド、フットマンが主の好みそうなものを選んで持っていっていた。
さあ、今日は久しぶりのご馳走よ!
二度と食べられないかもしれないから、下品だと思われない程度に楽しみましょう。
ありがたいことに、ある人のおかげで社交場でのマナーはしっかり頭に入っていた。
食べ物が盛られた白い大皿の前には、食べ物の名称が書かれたプレートが置かれている。
世界共通語で書かれており、私には難なく読み取ることができた。
「これは……何かしら」
姉はクルリン王国の母国語であるクプンマ語以外は苦手で、文字を読むのに苦労している。
「これはマッシュポテトと読むんだ」
「わあ! ワウキロヤ様、すごいです!」
イチャイチャしている二人から遠ざかろうと、取り皿を持って移動した。
各国の郷土料理など珍しい食べ物が目を引いたが、やはり私が一番心惹かれたのは、ステーキという文字だった。
「うふふ」
嬉しさで思わず声を出してしまった時、左側に人影が見えた。
「失礼ですが、リファーラ様でいらっしゃいますでしょうか」
「はい?」
驚いて隣に立つ人物を見つめたが、私はすぐに歓喜の声を上げた。
「イセンさん! お久しぶりですわね!」
「リファーラ様、お久しぶりでございます。老いぼれを覚えていてくださり、誠に光栄でございます」
執事服姿の長身痩軀の老紳士は、嬉しそうに顔をほころばせ深々と頭を下げた。
彼こそがリックの世話役で、私に貴族のマナーを叩き込んでくれた先生だった。
最後に会った時よりも白髪が増え、綺麗な白髪になっていた。
温和そうな顔立ちで、目が細いからか、いつも穏やかに笑っているように見える。
「元気にしていた? それにリックは元気にしているの? この会場内にいるのかしら」
「おかげさまで元気にしておりました。……リック様ですが、あなたが婚約者の男性と一緒にいる所を見たくないとおっしゃって、今は庭園のほうにいらっしゃいます」
「気を遣わなくてもいいのに」
リックがワウキロヤ様に遠慮しているのだと勘違いした私は、満面の笑みを浮かべて続けた。
「今日、私は婚約を破棄されるのよ。だから、リックに気にしなくていいと伝えてもらえる?」
「……はい?」
イセンさんはぽかんとした表情で私を見つめた。
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