あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ

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4   密告

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 婚約すると決めた日の夕方には、両親から連絡がいったようでディール様がわたしの元へやって来た。

「婚約してくれるなんて本当に嬉しい」

 ディール様の笑顔は本当に幸せそうに見えて、悪いことを考えているような人には思えなかった。

「色々とお世話になりましたので……」
「気にしなくて良かったんだがな。……で、式はいつにしようか」
「申し訳ございませんが、一年は喪に服したいんです」
「……あ、ああ。そうだな」

 ディール様は我に返ったのか、満面の笑みを悲しげなものに変えた。

「浮かれすぎてしまったな」
「ディール様には本当に感謝しています。ですので、婚約はいたします。ですが、レイズを忘れることはありませんので、それはご了承願えますか」
「……忘れないといつまでも辛いままだぞ」
「辛くても良いんです。忘れることのほうがわたしには辛いことです」

 レイズを失った悲しみ以上のものは、きっともう起こりえない。
 家族を亡くす悲しみも、それ以上でも以下でもないからだ。

 それなら、自分の身に辛いことが起こっても我慢できるし、乗り越えられると自分自身を信じている。

「……そうか、そうだよな。でも、何だか、それはそれで寂しいものがある」

 ディール様は一度言葉を区切り、少し考えてから口を開く。

「レイズのことは忘れろとは言わない。ただ、君の夫は僕だけにしてくれないだろうか」
「……レイズへの恋愛感情を捨てろということですね」
「僕が君を愛しているように、君も僕を愛してほしい」
「……努力します」

 愛せと言われて愛せるなら、失恋する人なんていないでしょう。

 そう思うと納得いかなかった。

 でも、これはお互いに譲れないものだと感じたので、曖昧に返しておいた。

 彼と過ごして幸せを感じることができたのなら、自然と愛していくことになるでしょう。

 それにしても、どうしてディール様はレイズのことを忘れろだなんて言ったのかしら。

 思い出は大事にすべきじゃないの?




******


 ディール様のことで相談できるのは、やはり友人しかいなかった。

 だからわたしは、急遽、連絡を取って友人と会う約束をした。

 わたしとディール様の婚約の話は社交場には流れていたので、友人も気にしてくれていたから、ちょうど良かったと返事がきた。

 二人のお気に入りのカフェで話をすることになったので、店の近くで馬車から降りて、徒歩で移動する。

 目立たないように、平民の服に着替えたメイドや騎士と共に歩いていると、目的の店の前でみすぼらしい衣服を着た老人が何かを探しているのか、座り込んで、地面を手で触っている姿が見えた。

 眼鏡が真横に落ちていて、通りを歩く人は踏まないように避けて歩くけれど、拾ってあげようとはしない。

 物乞いをされるかもしれないと警戒しているようだった。

「眼鏡を拾ってあげて」

 わたしが行くわけにはいかないので、騎士に頼むと、すぐに老人の元に向かってくれた。

 老人を彼に任せて、店に入ろうと出入り口に歩を進めた時だった。

「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

 すれ違った大柄な男性は、わたしの耳元でそう言うと、そのまま歩き去っていく。

「待って!」

 追いかけようとしたけど、騎士が割って入って止めてくる。

「危険です! 無闇なことをしないでください!」
「……ごめんなさい。でも、あの人を」

 止めてほしいと言う前に、その人の姿が見えなくなっていることに気がついた。

「……やっぱり、やめたほうが良いの?」

 今まで目を逸らしていたことを、やらざるを得ないことがわかり、覚悟を決める。

 レイズが亡くなったあの日よりも以前のディール様の行動を調べなければならない。

 それをすることによって、新たな犠牲者が出るのではないかと怖くてできなかった。

 もう、そんなことは言っていられないわね。

 ディール様に気付かれないように、さりげなく私が情報を聞き出すしかない。

 レイズの死の真実を知るためなら、どんな演技だってできるわ。

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