あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ

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3   婚約

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 ディール様には今まで気にかけてくれていたことへの恩義を感じているので、すぐに答えを出せなかったわたしは、他の人に相談してみることにした。

「レイズ様が良い人だったことは知っているわ。だから、あなたが簡単に忘れられないこともわかる。でも、あなたも前に進まなくちゃ。レイズ様はあなたの幸せを喜んでくれる人よ」

 ディール様の話をすると、お母様はこう言った。

 いつまでも塞ぎ込んでいるわたしを、レイズが見たくないことくらい、わたしだってわかっている。

 でも、なぜか

「あなたは、ディール様を恨んでいるの?」
「いいえ。レイズがどうして夜の街に出たのかはわかりませんが、一人で出ていったのはレイズです。ディール様を責める気にはなりません」

 ディール様がレイズを守ってくれなかっただなんて思ったことはない。

 わたしのために色々としてくれているのだから、感謝しかないはず。

 それなのに、わたしの胸は重い。

 レイズのことを忘れられないからではなく、この感情を何と言葉にしたら良いのかわからない。

「厳しいことを言うけど、あなたをもらってくれる人なんて他にいないわよ」
「……どういうことですか」
「だって、浮気されていたんでしょう?」

 お母様はいつの間にか流された世間の噂というものを信じ込んでしまっていた。

「レイズは浮気なんてしていません!」
「浮気された人間はそう言うものよ」
「お母様、本気でそう思っているのですか! 良い人だと言ったじゃないですか」
「ミリル、現実を見なさい。そうじゃなければ、レイズ様が夜に街に出ていった理由なんて思い浮かばないでしょう。ディール様はそう言っていたわ」

 お母様はディール様に好印象を抱いていて、やたらと結婚をすすめてくるようになった。

 話にならない。

 そう思って、その場を離れた。

 後日、友人に相談すると、再婚はしても良いと思うが、ディール様を信用しても良いかはわからないと言った。

 友人もレイズとは何度も会っていたし、浮気なんてするような人ではないと言ってくれたのだ。

 レイズを信じてくれている人がいる。

 それだけで気持ちが楽になった。

 友人は訝しげな顔で、こうも言った。

「親友であるはずの彼がレイズ様が浮気していたと言っているのは変よね」
「……わたしもそう思うの。前から知っていたなら止めるべきよね」
「ディール様がレイズ様の死にかかわっているとは思えないけど、浮気の話を持ち出すのは納得いかないわ」
「ディール様は何を考えているんだと思う?」
「……わからないわ。だけど、彼があなたを好き、もしくは、何かの目的で結婚したいということだけは間違いないと思うの」

 友人と話し終えて、少しだけ気持ちが晴れたその日の晩、両親が部屋にやって来た。
 
「お前がエンドル子爵令息を弄んでいるという噂が流れている。頼むから、彼と結婚してくれないか」
「……かかわらないようにするという選択肢はないのですか」
「弄んで彼を捨てたと噂されるだけだぞ。向こうがなぜか、嘘の噂を流しているんだからな」
「……どうして、ディール様はわたしに執着するんでしょうか」
「これも噂だが、エンドル子爵令息はお前のことを昔から好きだったらしい」

 嫌な考えが脳裏をよぎった。

 まさか、わたしを自分のものにするために、レイズを?

 ――そこまでやるなんて、普通じゃない。 

 きっと、思い過ごしよね。
 そう思いたい。

「ディール様よりも良い人なんて他にいないわ。婚約したら死んだ夫の家と関わることもやめなさいよ」

 お母様は笑顔でそう言うと、不満そうにしている私やお父様を残して、部屋から出ていった。

「最近のお母様は、おかしくないですか」
「年甲斐もなく、エンドル子爵令息に入れ込んでいる。お前が彼と結婚すれば目を覚ますだろう」

 ディール様と結婚なんてしたくない。
 
 でも、いつかは再婚しなければ両親だけでなく、跡を継ぐ予定の弟にも迷惑をかける。

 一晩、眠らずに悩んだあと、覚悟を決めた
わたしはディール様と婚約することにした。

 自分の幸せよりも家族の幸せを優先することにしたのだ。
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