騙されていたのは私ではありません

風見ゆうみ

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5   国王陛下からの提案

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 死因は明かされなかったものの、お兄様の訃報は世界中に広まり、王家には多くのお悔やみの手紙が送られてきた。それと同時に、第三国が重い腰を動かし、和平交渉を隣国に促した。隣国側もかなり疲弊していたこともあり、撤退を認め、代償として鉱山の反対側にある隣国側の土地をシレスファン王国の領土にすると提案してきた。
 その土地は農作物を育てるには良い土地であったため、シレスファン王国は和解案をのみ、驚いてしまうくらい簡単に戦争は終結した。

 戦争中は鉱山で仕事ができるはずもなく、休業状態だった。戦争が終結したことにより、鉱山で働いていた人たちも仕事をできるようになったわけだが、2年以上休業が続いていた分、エヴァンス辺境伯領の財政状況はかなり厳しかった。国から補助金は出たものの、鉱山の従業員の給料の最低保証額を負担していたからだ。

 私が辺境伯の爵位を譲っても良いと思った理由が、この財政難だった。鉱山での収入が主だっただけに収入が少ないところへ、武器の調達や兵士への食事や健康面の管理など、お金がかかることが増えた。こちらにも国の補助があったのは確かだが、多くは領土内での負担だった。

 国に助けを求めても、十分な金額は渡しているはずだと突っぱねられた。領民への税率を上げれば財政難は何とかなる。でも、それをすれば、領民の不満が爆発する可能性がある。かといって投げ出すのも違う気がした。どうすれば良いか悩んだ結果、私はリドリー殿下に相談することに決めた。お兄様がよく「何かあれば、リドリー殿下に頼れ」と言っていたし、リドリー殿下からも「遠慮なく連絡してくれ」と言われていたからだ。

 タオズクは私には頼れる人がいないと言っていたけど、実際は違う。リドリー殿下もいるし、公にしていないが友人だっている。私と仲良くしていることがわかると、ナターシャが近寄ってくるから、それが鬱陶しいという理由で、友人たちは隠れて私と仲良くしてくれていた。
 タオズクはそのことを知らない。

 だから、私が王都に行くと言うと、自分も付いていくと言い出した。

「一人じゃ危険だ。僕も一緒に行くよ」
「あなたと一緒に行っても、危険がなくなるわけではないから遠慮するわ」
「僕だって、多少は剣を扱えるんだ! もっと頼ってくれよ」
「多少は、では困るの。王都に行きたいのなら行くのはかまわないわ。でも、私と一緒に行動することはできないからね」
「……王都に何をしに行くんだい?」
「国王陛下に会いに行くのよ」

 リドリー殿下のおかげで、国王陛下への謁見の機会は思った以上に早くに決まった。他にも会う人はいるが、いちいち教えてあげる必要はない。

「国王陛下かぁ。僕も会ってみたいな。夫として、ご挨拶しておくべきかと思うんだけど」
「なら、あなたから手紙を出したらどう?」
「そんなんじゃなくて、僕も一緒に行きたいと言ってるんだよ」

 タオズクは目を輝かせて言った。

 子爵家の人間が国王陛下に会うことなんてありえないことだ。そんな人に挨拶できるかもしれないと思い、心が躍ったのだろう。

 そんなこと、させるわけないでしょう。

「無理よ。私一人で行くと伝えているから」
「一人ぐらい増えてもかまわないだろ!?」
「そんな希望がまかり通っていたら大変よ。相手は国王陛下なの。何かあってからでは遅いのよ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」

 タオズクは不満そうにはしていたけれど、これ以上言っても無駄だと諦めたのか、執務室から出ていった。

 自分が偉くなった気でいるみたいだけど、国王陛下はタオズクのことをよく思っていない。私は何度かお会いしたことがあるし、リドリー殿下の後ろ盾があるから会ってくださるのだ。

 タオズクのことだから、私の留守中に勝手に仕事をしようとするでしょう。この家の財政難を知られたら、私の計画が台無しになる。そうならないように対策をしてから出かけることにした。



******


 もう何年ぶりかも思い出せないシレスファン王国の王城に訪れると、城内では多くの人からお悔やみの言葉をもらった。案内された謁見の間には王妃陛下もいて、今回の戦争を兄に任せきりにしていたことや、リドリー殿下がいたにもかかわらず、兄を死なせてしまったことを謝ってきた。

 兄の話を終えたあと、今のエヴァンス辺境伯家の現状をお伝えし、今度は私が自分の非力さをお詫びした。そして、これからの計画を伝えると、両陛下はある条件をのんでくれるなら手を貸してくれると言った。

「どんな条件でしょうか」

 壇上を見上げて尋ねると、陛下は苦笑して答える。

「ソアが無事に離婚をした後、落ち着いてからで良いから再婚してほしい相手がいる」
「何の話?」

 私が聞き返す前に、王妃陛下が尋ねると、国王陛下は王妃陛下に優しい目を向ける。

「辺境伯の爵位を今の夫に渡してしまうのなら、ソアは平民になってしまう。ソアが選んだ道とはいえ、彼女の両親や兄は望んでいないことだろう。そのために、子爵令息と結婚させたのだからな」
「……それはそうね」
「なら、新しく貴族の爵位を授けられる人間に嫁がせたほうが良いだろう」
「そういうこと! そうね。二人は幼い頃から仲が良かったものね」

 王妃陛下は納得したように頷くと、満面の笑みを浮かべて私に問いかけてくる。

「ねえ、ソア。あなたはリドリーのことをどう思う?」

 その質問を聞いた私は、両陛下が私の再婚相手にしようとしている人がリドリー殿下だとわかり、驚きのせいで、すぐに言葉を発することができなかった。
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