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19.5 追い詰められていく妹(ミシェル視点)

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「シェリルのことが好きじゃない気持ちはわかるけど、一応、彼女はエルンベル伯爵家の人間でしょう。しかも、公爵令息からの手紙を開封するだなんてありえない」

 お兄様は険しい顔をして、お父様たちに言った。

 何が問題なのかしら。
 親なんだから、娘宛の手紙を開封しても良いんじゃないの?
 不思議に思っていると、フェリックス様が言う。

「身内であっても封書されているものを勝手に開けたり捨てたりするのは罪になるんだよ。知らなかったのか」
「それは……、存じ上げています。ですが、あの頃のシェリルはまだ子供です。親の責任として」
「こういう時だけ親の責任か。でもな、相手が悪かったということがわからないのかよ」

 震える声で応えたお父様を睨みつけて、フェリックス様は話を続ける。

「俺が直接持っていったものもあるんだぞ。公的な罪は罰金で済むかもしれないが、俺からの手紙やミオからの手紙を握りつぶしたんだ。公爵家になめた態度を取ったらどうなるかわかんねぇのか」

 凄んだフェリックス様を見て、お父様たちの表情は真っ青になった。

 ああ。
 やっぱり、言葉遣いの悪い男性って魅力的だわ。
 公爵令息だからできることでしょうけれど、本当に素敵!

 うっとりしていた私だったけれど、現実に引き戻される。

 お兄様がフェリックス様に深々と頭を下げたからだ。

「フェリックス様、両親のしたことは許されるものではありません。ですが、どうかここは寛容な処罰をお願いできませんか」

 お兄様はお父様の爵位が剥奪されることを恐れているみたい。
 国王陛下に連絡されたら終わりだものね。

 でも、訳がわからないわ。
 だって、お父様も言っていた通り、あの時のお姉様は子供だった。
 親が子供の手紙を見て何が悪いのよ。

 ……って、考えてみたら、わたしがお父様たちにそんなことをされたら嫌かもしれないわ。
 そう思うと、お父様の味方にはなれない。
 でも、爵位の剥奪は困るからどうにかしなくちゃ。

「そうだな。今、お前たちの爵位についてどうこうするつもりはない」
「それは、どういうことでしょうか」

 お兄様が尋ねると、フェリックス様は口元に笑みを浮かべる。

「その質問に答える必要があるか?」
「いえ。失礼いたしました」

 お兄様は大人しく引き下がった。
 どうして、爵位を剥奪しないのかしら。
 もしかして、わたしが平民になったら困るから?
 まさか、お姉様のためじゃないわよね。

「少なくとも俺の目的が達成するまでは、爵位が剥奪されるという心配はいらない。でも、一つ条件がある」
「何でしょうか!」

 お兄様が勢いよく尋ねると、フェリックス様はわたしを見た。

 もしかして、わたしを妻にほしいとか、そういうこと?

 高鳴る胸を抑えてフェリックス様を見つめ返す。
 すると、フェリックス様はわたしから目を逸らし、お兄様に話しかける。

「今、彼女を援助しているだろう」
「ああ、はい。邸内に居座られても困りますから宿代や食事代は出しています」
「その援助を中止して、彼女をサウニ子爵家に戻してくれ」
「嫌です!」

 お兄様が何か言う前に叫ぶと、フェリックス様に訴える。

「わたしの夫は犯罪者なんです! しかも、お姉様を襲おうとしたんですよ!? そんな男のいる元に帰れとおっしゃるんですか!?」
「夫が犯罪を起こしたんだから、それを止められなかった自分に何も思うことはないのか?」
「そ、それは……、そんなことをするような人には見えなくて」
「家族が罪を犯したからって、全ての家族に罪があるだなんて普通は思わない。だけど、サウニ子爵令息は君に唆されたと言っていたから、君に責任があると思うが?」

 わたしは言っただけで、やると決めたのはあの男よ!

 フェリックス様に涙目で尋ねる。

「デイクスの言葉を信じるのですか」
「信じない理由もない」
「フェリックス様、信じてください! わたしはデイクス様とは関係ありません! お姉様を襲おうとする男の顔なんて見たくもありません!」

 必死に訴えたけれど、フェリックス様は考えを変えようとしない。

「家に帰る帰らないはそっちの好きなようにしろ。ただし、エルンベル伯爵家は彼女を援助するな」
「承知いたしました」

 お父様たちが何か言う前に、お兄様が応えた。
 お兄様は本当に自分のことしか考えていないわ!
 でも、まだ大丈夫。
 実権を握っているお兄様はこう言っているけれど、伯爵はまだお父様だもの。
 お金は融通してもらえるはず。

「フェリックス様、ではせめて、わたしとロン様の浮気の件は事実ではないと信じていただけませんか」
「公爵家の関係者が証言してるのにか」
「そうです。わたしのことを信じてください!」
「エイト公爵家の関係者なんだぞ。誰が信じなくてもエイト公爵家の人間は信じないと駄目だろ。大体、お前を信じる筋合いもない」

 はっきりと言われてしまい、返す言葉はなかった。

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