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29 追い詰められていく元妹 ①
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デイクスから、エルンベル元伯爵夫妻はことの重大さにやっと気が付いたのか、部屋からほとんど出てこなくなったと連絡がきた。
食事は誰かに毒見をさせてからでないと口にしないし、メイドが掃除のために部屋に入ると、その間ずっと、メイドが不審な動きをしないか眺めているんだそうだ。
そして、デイクスにお客様が来ようものなら、二人共が急に落ち着かなくなるとのことだった。
デイクスは実行犯は元エルンベル伯爵夫妻だけれど、指示をしたのはミシェルではないかと予想していた。
それについては、私も異論はなかった。
元エルンベル伯爵夫妻が私を良く思っていないことはわかっている。
でも、彼らの中ではソラン様への憎しみのほうが強いはずだ。
それなのに、私をわざわざ巻き込もうとしたことは、ミシェルが関与しているのだと思わざるを得ない。
もうすぐ、ミシェルたちとの約束の時間だ。
窓の外を見ると雲が多く、今にも雨が降り出しそうにも見える。
「今日、彼女に伝えるのか」
落ち着かなくて談話室でウロウロしていたからか、それを知ったフェリックスが様子を見に来てくれた。
「ミシェルとデイクスとのことを言ってるの?」
「ああ。ミシェルは彼が離婚しない理由を知らないんだろ」
「そうね。それは今日、最後に伝えるつもりよ。デイクスは彼女たちを追い出したがっているから、ちょうど邸を出て行った今が、彼女たちを家に入れないで済むチャンスだと言っていて、時間稼ぎしてもらえると有り難いと言っていたし」
デイクスには好きな時に離婚してくれても良いと伝えていた。
だから、今頃、デイクスは3人を追い出す準備をしていると思われる。
「でも、彼らの離婚が認められるかはわからないだろ」
「それがご丁寧にミシェルは離婚届を用意していて、サインまでしたものをデイクスに渡しているの。デイクスが今まで提出しなかっただけよ」
「……ミシェルはそのことを覚えていると思うか?」
「思わないわ。今は離婚したくないでしょうし、今まで出さなかったんだもの。今更だと思っているんじゃないかしら」
「そうかもな」
3人が別邸を出る前に、デイクスが今日だと決めた離婚の話をしてあげようと思う。
その話を先にしてしまったら、そちらに気を取られて呼び出した意味がなくなるし、時間稼ぎにもならない。
ポツポツと雨粒が窓を叩き始める。
それと同時に門の前に一台の馬車が停まるのが見えた。
そういえば今のところ、多少のイレギュラーはあれど、フェリックスの予想通りのシナリオになっているのかしら。
「フェリックスは何の話をするつもりなの?」
「ミシェルが一番悔しがる話じゃねえかな」
「どういうこと?」
意味が分からなくて聞き返すと、フェリックスは意地悪な笑みを浮かべる。
「その時に言うよ。今、言ったら、お前はそっちの話に気を取られるだろうから」
「なら言わないでほしかったわ」
「シェリルが聞くからだろ」
他愛の無い会話をしていると、メイドからミシェルたちがやって来たと連絡があった。
私とフェリックスは会話をやめて、応接室に向かった。
*****
応接室のソファに座った元エルンベル伯爵夫妻は、怯えた様子ではあるけれど、急激に痩せただとか顔色が悪いだとか言うことはなかった。
でも、明らかに動揺はしているようで落ち着きがなく、キョロキョロと忙しなく応接室の中を見回している。
洗わずに着回しているのか薄汚れたスーツとドレスを着ている夫妻に反して、ミシェルはシワや汚れは何一つない、ピンク色の綺麗なプリンセスラインのドレスに身を包んでいた。
そのドレスも夫妻の服のように薄汚れていく、もしくはその前に売られてしまうのかと思うと、少しだけ切なくなった。
雨脚が強くなり、窓の外に視線を向けた時、ミシェルが話しかけてきた。
「この雨では、今日はここに泊まらせていただくことになりそうですわね」
「この別邸の主はミオ様です。どう判断されるかはミオ様のお考え次第です」
「フェリックス様、ミオ様にお願いしていただけませんか」
ミシェルは両腕で胸を寄せてから、胸の前で手を組み合わせて懇願した。
「嫌に決まってんだろ」
フェリックスがはっきり断ると、ミシェルの笑顔が引きつった。
「本題に入らせてもらいますわね」
元伯爵夫妻とミシェルの顔を見つめて、私は話し始める。
「私の名前を使ってエルンベル男爵令息にお菓子を贈った人を探しているので協力してほしいのです」
ミシェルは眉根を寄せただけだったけれど、元伯爵夫妻はあからさまに怯えた表情になった。
食事は誰かに毒見をさせてからでないと口にしないし、メイドが掃除のために部屋に入ると、その間ずっと、メイドが不審な動きをしないか眺めているんだそうだ。
そして、デイクスにお客様が来ようものなら、二人共が急に落ち着かなくなるとのことだった。
デイクスは実行犯は元エルンベル伯爵夫妻だけれど、指示をしたのはミシェルではないかと予想していた。
それについては、私も異論はなかった。
元エルンベル伯爵夫妻が私を良く思っていないことはわかっている。
でも、彼らの中ではソラン様への憎しみのほうが強いはずだ。
それなのに、私をわざわざ巻き込もうとしたことは、ミシェルが関与しているのだと思わざるを得ない。
もうすぐ、ミシェルたちとの約束の時間だ。
窓の外を見ると雲が多く、今にも雨が降り出しそうにも見える。
「今日、彼女に伝えるのか」
落ち着かなくて談話室でウロウロしていたからか、それを知ったフェリックスが様子を見に来てくれた。
「ミシェルとデイクスとのことを言ってるの?」
「ああ。ミシェルは彼が離婚しない理由を知らないんだろ」
「そうね。それは今日、最後に伝えるつもりよ。デイクスは彼女たちを追い出したがっているから、ちょうど邸を出て行った今が、彼女たちを家に入れないで済むチャンスだと言っていて、時間稼ぎしてもらえると有り難いと言っていたし」
デイクスには好きな時に離婚してくれても良いと伝えていた。
だから、今頃、デイクスは3人を追い出す準備をしていると思われる。
「でも、彼らの離婚が認められるかはわからないだろ」
「それがご丁寧にミシェルは離婚届を用意していて、サインまでしたものをデイクスに渡しているの。デイクスが今まで提出しなかっただけよ」
「……ミシェルはそのことを覚えていると思うか?」
「思わないわ。今は離婚したくないでしょうし、今まで出さなかったんだもの。今更だと思っているんじゃないかしら」
「そうかもな」
3人が別邸を出る前に、デイクスが今日だと決めた離婚の話をしてあげようと思う。
その話を先にしてしまったら、そちらに気を取られて呼び出した意味がなくなるし、時間稼ぎにもならない。
ポツポツと雨粒が窓を叩き始める。
それと同時に門の前に一台の馬車が停まるのが見えた。
そういえば今のところ、多少のイレギュラーはあれど、フェリックスの予想通りのシナリオになっているのかしら。
「フェリックスは何の話をするつもりなの?」
「ミシェルが一番悔しがる話じゃねえかな」
「どういうこと?」
意味が分からなくて聞き返すと、フェリックスは意地悪な笑みを浮かべる。
「その時に言うよ。今、言ったら、お前はそっちの話に気を取られるだろうから」
「なら言わないでほしかったわ」
「シェリルが聞くからだろ」
他愛の無い会話をしていると、メイドからミシェルたちがやって来たと連絡があった。
私とフェリックスは会話をやめて、応接室に向かった。
*****
応接室のソファに座った元エルンベル伯爵夫妻は、怯えた様子ではあるけれど、急激に痩せただとか顔色が悪いだとか言うことはなかった。
でも、明らかに動揺はしているようで落ち着きがなく、キョロキョロと忙しなく応接室の中を見回している。
洗わずに着回しているのか薄汚れたスーツとドレスを着ている夫妻に反して、ミシェルはシワや汚れは何一つない、ピンク色の綺麗なプリンセスラインのドレスに身を包んでいた。
そのドレスも夫妻の服のように薄汚れていく、もしくはその前に売られてしまうのかと思うと、少しだけ切なくなった。
雨脚が強くなり、窓の外に視線を向けた時、ミシェルが話しかけてきた。
「この雨では、今日はここに泊まらせていただくことになりそうですわね」
「この別邸の主はミオ様です。どう判断されるかはミオ様のお考え次第です」
「フェリックス様、ミオ様にお願いしていただけませんか」
ミシェルは両腕で胸を寄せてから、胸の前で手を組み合わせて懇願した。
「嫌に決まってんだろ」
フェリックスがはっきり断ると、ミシェルの笑顔が引きつった。
「本題に入らせてもらいますわね」
元伯爵夫妻とミシェルの顔を見つめて、私は話し始める。
「私の名前を使ってエルンベル男爵令息にお菓子を贈った人を探しているので協力してほしいのです」
ミシェルは眉根を寄せただけだったけれど、元伯爵夫妻はあからさまに怯えた表情になった。
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