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8 必要ないもの ① (ハリーという婚約者)
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フロア内はしんと静まり返り、わたしに視線を向けられているのがわかった。
「えっと、あの、陛下がなんと言われたか教えていただけませんでしょうか?」
動揺してしまい、陛下ではなく、テイル公爵令息に尋ねてしまった。
テイル公爵令息はキョトンとした顔をしたあと、素直に教えてくれる。
「君を妻にした人を次の国王にするとおっしゃられていた」
「で、ですよね!?」
相手は公爵令息だというのに、砕けた言葉を返してしまった。
でも、そんなことを気にしている余裕もない。
「どうしてそんなことになるのでしょう!?」
「さっきも陛下がおっしゃっていたが、王太子が愛するのではなく」
「そ、それはわかっているのですが」
律儀に答えてくれるテイル公爵令息に申し訳なくなり、陛下のほうに体を向けた時だった。
「う、浮気だぁ! みんな、見てくれ! 浮気現場だ!」
突然、テナミ様がわたしたちを指差して叫んだ。
「「はい?」」
わたしとテイル公爵令息の聞き返す声が重なった。
テナミ様はそんなことはおかまいなしに、興奮した様子でまくしたてる。
「リアンナ! 俺というものがありながら、二度も浮気をするなんて! それに、やはり、テイル公爵令息と関係があったんじゃないか!」
テイル公爵令息とこんなに長く話したのは今日が初めてだ。
それよりも、どうして浮気だとか言われないといけないの?
「何を言っておられるのかわかりません」
呆れた顔をして言い返すと、テナミ様は涙を流しながら言う。
「でも、俺は許す! 俺は寛容な心の持ち主だから、浮気くらい大目に見てあげようじゃないか」
「浮気なんてしていません。それに、わたしはもう、あなたの婚約者ではありませんし、あなたにはムーニャ様がいらっしゃるでしょう?」
「今回のことで、ムーニャが俺を愛してくれても意味がないということに気がついたんだ」
「何を言ってらっしゃるんですか! あなたが私をちゃんと愛してくれないから駄目なんじゃないですか」
ムーニャは両手に拳を作って怒っている。
殴るのかしら。
それはそれで面白そうだけれど、暴力は良くないわね。
テナミ様たちの発言を聞いて、ホール内が一気に騒がしくなった。
この場にいる貴族たちは、テナミ様たちがおかしなことを言っているということは分かってくれたようだった。
国王陛下のほうを見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そして、わたしの視線に気付くと、すぐにテナミ様のほうに顔を向けた。
「お前たち、今は静かにしていろ! 黙っていられないのなら、ここから移動しろ! それから、テナミ! リアンナはお前の婚約者じゃないんだぞ!」
「そんな、父上!」
テナミ様は叫んだあと、わたしのほうを見てくる。
わたしに何を求めているのよ!?
「陛下!」
その時、テイル公爵令息が手を挙げた。
「発言の許可をいただけませんか」
「かまわん」
陛下の許可が下りると、テイル公爵令息はテナミ様に話しかける。
「テナミ殿下、リアンナ嬢と私が浮気をしていると、先日もおっしゃっておられたようですが、それはいつの話でしょうか?」
「い、いつ!?」
「そうです。私とリアンナ嬢は、いつ、どこで何をして浮気をしていたと判断されたんです?」
テイル公爵令息に尋ねられたテナミ様は、慌てた顔をして、ムーニャとハリー様に問いかける。
「いつだ!? どこで浮気をしていたんだ!?」
ムーニャとハリー様はテナミ様の質問に答えない。
というよりかは、答えられないようだった。
「すぐに答えられないということは、私とリアンナ嬢が浮気をしていたという嘘をついたのだと思って良いのですね?」
「俺は関係ない! 二人に騙されたんだ!」
テナミ様が叫んだ時、ハリー様がわたしとテイル公爵令息のほうを向いて言う。
「さっき、二人が話をしていたでしょう! 仲の良い証拠です!」
「別に仲が良いのは良いことだろう」
ハリー様の訴えを聞いた陛下は、呆れた表情になって呟くように言った。
「そ、それは良いとして、リアンナ!」
ハリー様は壇上からわたしを見下ろし、満面の笑みを浮かべる。
「僕が君の婚約者になってやろう。婚約者がほしいだろう?」
「い」
いりません。
そう言おうとして言葉を止めた。
王族にそんな発言をしていいの?
さすがに無礼かしら。
迷っていると、テイル公爵令息が話しかけてくる。
「言いたいことを言えばいいだろう。俺が君なら、あんな婚約者はいらない」
「そんなものでしょうか」
「そんなものだ。君にはそう言っていい権利がある。次の国王を選べるのは君だけなんだから」
そうね。
そうだわ。
わたしは大きく深呼吸してから、ハリー様を見つめた。
そして、一度止めた言葉をはっきりと口にする。
「いりません!」
「なんだって!?」
「そこは、なんですって!? って言うところだろうに」
驚いた表情のハリー様を、テイル公爵令息は冷たい目で見つめて呟いた。
それは、わたしもそう思ったけれど、そういう場面ではないわよね。
「えっと、あの、陛下がなんと言われたか教えていただけませんでしょうか?」
動揺してしまい、陛下ではなく、テイル公爵令息に尋ねてしまった。
テイル公爵令息はキョトンとした顔をしたあと、素直に教えてくれる。
「君を妻にした人を次の国王にするとおっしゃられていた」
「で、ですよね!?」
相手は公爵令息だというのに、砕けた言葉を返してしまった。
でも、そんなことを気にしている余裕もない。
「どうしてそんなことになるのでしょう!?」
「さっきも陛下がおっしゃっていたが、王太子が愛するのではなく」
「そ、それはわかっているのですが」
律儀に答えてくれるテイル公爵令息に申し訳なくなり、陛下のほうに体を向けた時だった。
「う、浮気だぁ! みんな、見てくれ! 浮気現場だ!」
突然、テナミ様がわたしたちを指差して叫んだ。
「「はい?」」
わたしとテイル公爵令息の聞き返す声が重なった。
テナミ様はそんなことはおかまいなしに、興奮した様子でまくしたてる。
「リアンナ! 俺というものがありながら、二度も浮気をするなんて! それに、やはり、テイル公爵令息と関係があったんじゃないか!」
テイル公爵令息とこんなに長く話したのは今日が初めてだ。
それよりも、どうして浮気だとか言われないといけないの?
「何を言っておられるのかわかりません」
呆れた顔をして言い返すと、テナミ様は涙を流しながら言う。
「でも、俺は許す! 俺は寛容な心の持ち主だから、浮気くらい大目に見てあげようじゃないか」
「浮気なんてしていません。それに、わたしはもう、あなたの婚約者ではありませんし、あなたにはムーニャ様がいらっしゃるでしょう?」
「今回のことで、ムーニャが俺を愛してくれても意味がないということに気がついたんだ」
「何を言ってらっしゃるんですか! あなたが私をちゃんと愛してくれないから駄目なんじゃないですか」
ムーニャは両手に拳を作って怒っている。
殴るのかしら。
それはそれで面白そうだけれど、暴力は良くないわね。
テナミ様たちの発言を聞いて、ホール内が一気に騒がしくなった。
この場にいる貴族たちは、テナミ様たちがおかしなことを言っているということは分かってくれたようだった。
国王陛下のほうを見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そして、わたしの視線に気付くと、すぐにテナミ様のほうに顔を向けた。
「お前たち、今は静かにしていろ! 黙っていられないのなら、ここから移動しろ! それから、テナミ! リアンナはお前の婚約者じゃないんだぞ!」
「そんな、父上!」
テナミ様は叫んだあと、わたしのほうを見てくる。
わたしに何を求めているのよ!?
「陛下!」
その時、テイル公爵令息が手を挙げた。
「発言の許可をいただけませんか」
「かまわん」
陛下の許可が下りると、テイル公爵令息はテナミ様に話しかける。
「テナミ殿下、リアンナ嬢と私が浮気をしていると、先日もおっしゃっておられたようですが、それはいつの話でしょうか?」
「い、いつ!?」
「そうです。私とリアンナ嬢は、いつ、どこで何をして浮気をしていたと判断されたんです?」
テイル公爵令息に尋ねられたテナミ様は、慌てた顔をして、ムーニャとハリー様に問いかける。
「いつだ!? どこで浮気をしていたんだ!?」
ムーニャとハリー様はテナミ様の質問に答えない。
というよりかは、答えられないようだった。
「すぐに答えられないということは、私とリアンナ嬢が浮気をしていたという嘘をついたのだと思って良いのですね?」
「俺は関係ない! 二人に騙されたんだ!」
テナミ様が叫んだ時、ハリー様がわたしとテイル公爵令息のほうを向いて言う。
「さっき、二人が話をしていたでしょう! 仲の良い証拠です!」
「別に仲が良いのは良いことだろう」
ハリー様の訴えを聞いた陛下は、呆れた表情になって呟くように言った。
「そ、それは良いとして、リアンナ!」
ハリー様は壇上からわたしを見下ろし、満面の笑みを浮かべる。
「僕が君の婚約者になってやろう。婚約者がほしいだろう?」
「い」
いりません。
そう言おうとして言葉を止めた。
王族にそんな発言をしていいの?
さすがに無礼かしら。
迷っていると、テイル公爵令息が話しかけてくる。
「言いたいことを言えばいいだろう。俺が君なら、あんな婚約者はいらない」
「そんなものでしょうか」
「そんなものだ。君にはそう言っていい権利がある。次の国王を選べるのは君だけなんだから」
そうね。
そうだわ。
わたしは大きく深呼吸してから、ハリー様を見つめた。
そして、一度止めた言葉をはっきりと口にする。
「いりません!」
「なんだって!?」
「そこは、なんですって!? って言うところだろうに」
驚いた表情のハリー様を、テイル公爵令息は冷たい目で見つめて呟いた。
それは、わたしもそう思ったけれど、そういう場面ではないわよね。
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