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19 殿下とさよなら
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お姉さまの話を聞いたあと、私は急いで公爵邸に戻り、ポールの部屋へと向かった。
「ポール、話があるんですが!」
「どうしたんだよ、そんなおっかない顔して」
「お姉さまから話を聞きました。どうして話をしてくれなかったんです!」
「何の話だ」
「お姉さまから聞いたって言ってるじゃないですか! お姉さまと結婚しなければ、陛下の浮気を王妃様に話すと脅していると聞いたんです! どうせ、あなたはアーク殿下から聞いてるんでしょう!?」
お姉さまは私の元婚約者であるワイズ様から、国王陛下の過去の浮気の話を聞いたらしく、それをネタにアーク殿下を強請ったようだった。
殿下は王妃様に陛下の過去の浮気をどうしても知られたくない理由があるから、今回の事をどう乗り越えるかで頭を悩ませていたのだと思われる。
「ルルア、それに関してはもう大丈夫だ。王妃様は陛下の退位の事も考えて、先に城を離れる事になった。しかも1週間後だ。どちらに引っ越すかは親しい人間にしか知らされない。連れて行く使用人や騎士の家族も連れて行くそうだ。だから、王妃様が城を離れてしまえば、王妃様にお前の家族は接触できなくなる。だから気にすんな」
「…そんな訳にはいかないでしょう」
これがただの反王家の人間がやった事なら、悩まずに済んだ。
だけど、違う。
殿下を脅したのは私の父と姉。
他人事なんかじゃなかった。
だって、家族が言い逃れのできない罪人になったんだから。
「おい、ルルア。変な事を考えるなよ。何のためにアークがお前には何も話さずに動いてたと思ってるんだ」
「…わかりました」
ポールは私の返事を聞いて、何か言いたげにしていたけれど、それ以上口にする事はなかった。
その日の晩、私は一生懸命、考えに考えて決断を出した。
次の日の朝、仕事の合間にミア様にその話をしたところ「そんなの嫌だし、駄目よ!」と中々、納得してくださらなくて、泣かせてしまいそうになってしまった。
何より、ご迷惑をかける事になるのが、本当に心苦しかった。
最終的にはある条件をのむことで許してもらえ、私はある条件を果たすために、夕方にはお母様と一緒に城に赴いた。
なぜ、お母様も一緒かというと、私の話を聞き、元々、お母様が考えていた事を、実行しようと決めたからだ。
王妃様には事前に行く事と用件は伝えていたため、不思議がられはしたが、話はすんなりとすすみ、お母様と一度別れ、今度はアーク殿下の所へ向かう事にした。
今日の彼は一日中寝ていろとでも言うことなのか、王太子なのにベッドに紐で縛り付けられていた。
私としては好都合だけど。
「すごい格好ですね」
「うるさい」
「それでゆっくり出来ます?」
「出来るわけないだろ。屈辱しかない」
ベッドに近付き、彼の顔を覗き込んで見る。
顔色が昨日よりも良くなっていて、少し安心した。
「このまましばらく休んで下さい」
「そういう訳にもいかん」
「頑張る理由が減るから大丈夫ですよ」
「…どういう意味だ?」
「私、ミア様の侍女を辞めて、違う場所で働く事にいたしました」
「…どこで働くつもりだ?」
「父と姉に悩まされない、遠い場所です。だから、殿下ともお別れです。殿下に素敵な人が見つかるまでは、もうお会いしません」
殿下の方を見ると、呆然とした顔で私を見つめていた。
見ていられなくなって、視線をそらす。
「では、もう行きますね」
「待て!」
「あなたにはもううんざり。自分のことばかり考えて、私の気持ちなんて考えてない」
「そ、それは」
殿下が言葉を詰まらせた。
自覚はあったのか、と笑ってしまいそうになるのをこらえる。
本当は私も同じだ。
自分のことばかり考えて、殿下の気持ちなんて考えてない。
ひどい女ですよね。
「私は自分自身で決めた相手と一緒になります。その相手は殿下ではありません」
私は罪人の娘で、あなたにはつり合わない。
あなたにはもっと、素敵な人がいるはずだから。
「幸せになって下さいね」
「お前がいないのに、どうやって幸せになれと? 幸せになってほしいなら俺のそばにいろ!」
「私には私の幸せがあるんです。殿下は私がいなくても幸せを感じられる何かを探して下さい」
ぐるぐる巻きにされている殿下の手に優しく触れてから、すぐにはなす。
「嫌だ。ルア、行くな」
泣き出しそうな顔になって殿下が言う。
嫌だはこっちのセリフよ。
やめてほしい。
そんな顔されたら、私が泣いてしまうから。
「さよなら」
「ルア! 頼むから! もう結婚してくれなんて言わないから! 俺から離れていくな! ルア! 行くな!」
部屋を出て扉を閉める。
心配そうな騎士達に笑いかけると同時、目から涙があふれてきた。
涙を拭ってから、驚いている騎士達に軽く頭を下げて、廊下を走る。
彼の部屋から少しでも早く、少しでも遠くに行きたかった。
目一杯泣くのは後でいい。
私にはまだ、やらないといけない事が残っている。
「ポール、話があるんですが!」
「どうしたんだよ、そんなおっかない顔して」
「お姉さまから話を聞きました。どうして話をしてくれなかったんです!」
「何の話だ」
「お姉さまから聞いたって言ってるじゃないですか! お姉さまと結婚しなければ、陛下の浮気を王妃様に話すと脅していると聞いたんです! どうせ、あなたはアーク殿下から聞いてるんでしょう!?」
お姉さまは私の元婚約者であるワイズ様から、国王陛下の過去の浮気の話を聞いたらしく、それをネタにアーク殿下を強請ったようだった。
殿下は王妃様に陛下の過去の浮気をどうしても知られたくない理由があるから、今回の事をどう乗り越えるかで頭を悩ませていたのだと思われる。
「ルルア、それに関してはもう大丈夫だ。王妃様は陛下の退位の事も考えて、先に城を離れる事になった。しかも1週間後だ。どちらに引っ越すかは親しい人間にしか知らされない。連れて行く使用人や騎士の家族も連れて行くそうだ。だから、王妃様が城を離れてしまえば、王妃様にお前の家族は接触できなくなる。だから気にすんな」
「…そんな訳にはいかないでしょう」
これがただの反王家の人間がやった事なら、悩まずに済んだ。
だけど、違う。
殿下を脅したのは私の父と姉。
他人事なんかじゃなかった。
だって、家族が言い逃れのできない罪人になったんだから。
「おい、ルルア。変な事を考えるなよ。何のためにアークがお前には何も話さずに動いてたと思ってるんだ」
「…わかりました」
ポールは私の返事を聞いて、何か言いたげにしていたけれど、それ以上口にする事はなかった。
その日の晩、私は一生懸命、考えに考えて決断を出した。
次の日の朝、仕事の合間にミア様にその話をしたところ「そんなの嫌だし、駄目よ!」と中々、納得してくださらなくて、泣かせてしまいそうになってしまった。
何より、ご迷惑をかける事になるのが、本当に心苦しかった。
最終的にはある条件をのむことで許してもらえ、私はある条件を果たすために、夕方にはお母様と一緒に城に赴いた。
なぜ、お母様も一緒かというと、私の話を聞き、元々、お母様が考えていた事を、実行しようと決めたからだ。
王妃様には事前に行く事と用件は伝えていたため、不思議がられはしたが、話はすんなりとすすみ、お母様と一度別れ、今度はアーク殿下の所へ向かう事にした。
今日の彼は一日中寝ていろとでも言うことなのか、王太子なのにベッドに紐で縛り付けられていた。
私としては好都合だけど。
「すごい格好ですね」
「うるさい」
「それでゆっくり出来ます?」
「出来るわけないだろ。屈辱しかない」
ベッドに近付き、彼の顔を覗き込んで見る。
顔色が昨日よりも良くなっていて、少し安心した。
「このまましばらく休んで下さい」
「そういう訳にもいかん」
「頑張る理由が減るから大丈夫ですよ」
「…どういう意味だ?」
「私、ミア様の侍女を辞めて、違う場所で働く事にいたしました」
「…どこで働くつもりだ?」
「父と姉に悩まされない、遠い場所です。だから、殿下ともお別れです。殿下に素敵な人が見つかるまでは、もうお会いしません」
殿下の方を見ると、呆然とした顔で私を見つめていた。
見ていられなくなって、視線をそらす。
「では、もう行きますね」
「待て!」
「あなたにはもううんざり。自分のことばかり考えて、私の気持ちなんて考えてない」
「そ、それは」
殿下が言葉を詰まらせた。
自覚はあったのか、と笑ってしまいそうになるのをこらえる。
本当は私も同じだ。
自分のことばかり考えて、殿下の気持ちなんて考えてない。
ひどい女ですよね。
「私は自分自身で決めた相手と一緒になります。その相手は殿下ではありません」
私は罪人の娘で、あなたにはつり合わない。
あなたにはもっと、素敵な人がいるはずだから。
「幸せになって下さいね」
「お前がいないのに、どうやって幸せになれと? 幸せになってほしいなら俺のそばにいろ!」
「私には私の幸せがあるんです。殿下は私がいなくても幸せを感じられる何かを探して下さい」
ぐるぐる巻きにされている殿下の手に優しく触れてから、すぐにはなす。
「嫌だ。ルア、行くな」
泣き出しそうな顔になって殿下が言う。
嫌だはこっちのセリフよ。
やめてほしい。
そんな顔されたら、私が泣いてしまうから。
「さよなら」
「ルア! 頼むから! もう結婚してくれなんて言わないから! 俺から離れていくな! ルア! 行くな!」
部屋を出て扉を閉める。
心配そうな騎士達に笑いかけると同時、目から涙があふれてきた。
涙を拭ってから、驚いている騎士達に軽く頭を下げて、廊下を走る。
彼の部屋から少しでも早く、少しでも遠くに行きたかった。
目一杯泣くのは後でいい。
私にはまだ、やらないといけない事が残っている。
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