人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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2  悲しみと驚き

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※いじめのシーンがあります。
苦手、嫌な思いになってしまいそうという方は読み飛ばしくださいませ。






 机の中に入れていた教科書がゴミ箱に入れられているなど、陰湿でくだらないいじめは何日も続いた。
 
 私が悲しめば相手が喜んでしまうので平気な顔をしていると、今度は「その顔が気持ち悪い」と男子生徒から言われるようになった。
 
 貴族のレベルも落ちたものだと思うようにして、どうすれば楽になれるかを考えるようにした。

 お姉様とデイリ様の交際は上手くいっていて、デイリ様は休みの日にお姉様を迎えに来ては楽しそうに2人で馬車に乗ってどこかへ出かけていく。

 そして、お姉様は家に帰ってくると、デイリ様に買ってもらったものを見せびらかしにやって来る。

 デイリ様のご両親からは何の連絡もないので、彼のやったことに対して、お咎めはないようだった。



 婚約破棄から30日が経った時だった。
 その日は朝から大雨だった。
 学園に着いたはいいものの、嫌な予感がしてどうしても教室に行きたくなかった。
 通学カバンを握りしめて、傘もないのに外へ出ていこうかと馬車の乗降場から見える真っ黒な雲を見つめて考えていた時だった。

「……どうかしたのか?」

 不意に背後から声を掛けられた。
 驚きで体を震わせたあと、後ろを振り返る。
 私に話しかけてきたのは、隣のクラスの男子生徒で、ニーソン公爵家の嫡男であるエディ様だった。

 シルバーブランドの少し長い前髪を揺らし、私よりも背の高いエディ様は心配そうな表情でダークブルーの瞳を私に向けていた。

 エディ様は公爵令息ということや、爽やかな外見ということもあり、学年問わず女子生徒に人気だ。
 私も密かに頭の中ではエディ様と親しみを込めて呼んでいる。

 エディ様はキラキラしている男性なので、私のような地味な女子が話をしても良い男性ではない。
 そういえば、エディ様は女性が苦手で今のところ婚約者もいないと聞いている。
 だから、慌てて、距離を取って首を横に振る。

「いえ。あの、申し訳ございません。すぐに場所を退きますので」
「別に退かなくてもいいよ。何をしているのか聞いただけだから」

 エディ様はふんわりと優しい笑みを浮かべて私に言った。

 女性が苦手で有名な方なのに、こんな笑顔を私に向けてくださるなんて!
 まるで、憧れている俳優にファンサービスを受けたような気になってしまい、気持ちが舞い上がった。
 けれど、すぐに冷静に戻る。

 私が可愛くないから、女性に見えないんだわ。
 それで、話しかけてくださったのね。

 とにかく、質問にお答えする。

「空を見上げていただけです」
「そっか。ねえ、もし良かったら、教室まで一緒に行かない?」
「は、はい!? ニーソン公爵令息とですか!?」
「僕以外、他にいないだろ?」

 エディ様は笑ったあと、私のほうに手を差し出す。

「良かったら、カバンを持つよ」
「い、い、いえ、結構です! ニーソン公爵令息にそんなことをしていただくわけにはいきません! といいますか、私がお鞄をお持ちします!」

 空いているほうの手を差し出すと、エディ様は微笑んで首を横に振る。

「気持ちだけありがたく受け取っておくよ」

 そこで一度言葉を区切り、エディ様は眉尻を下げる。

「やっぱり僕のこと、覚えていないんだね」
「……はい?」
「昔、君と僕は会ったことがあるんだけど覚えてないかな?」
「え……、あ、その、申し訳ございません」

 ぎゅっとカバンを握りしめてから頭を下げた。

「気にしなくていいよ。そのかわり、僕にカバンを持たせてね?」

 そう言って、エディ様は私のカバンの持ち手に触れる。
 かすかに指が触れて私が頬を染めると、エディ様もはにかむ。

「触れてしまってごめんね」
「い、いえ! 私こそ申し訳ございません!」
「カバンを持たせてくれなかったら、君のその小さな手ごと掴んでしまうけど?」
「あ、えっと、それは困ります!」

 結局、私はカバンをエディ様に持ってもらって教室に向かうことになった。

 行きたくない。
 でも、行かなくちゃいけないのよね。

「浮かない顔をしてるね。もしかして、婚約破棄が原因?」
「……それもあるのですが」

 先生は他の人にバレないように、いじめについては他クラスの生徒や親に言わないようにと口止めしている。

 だから、エディ様が私の今の状況を知るわけがない。

「……リネ嬢?」
「申し訳ございません。何でもありません」

 エディ様とは教室の手前で別れよう。

 そう思ったけれど、エディ様そんなことをさせてくれなかった。

「教室の中まで一緒に行くよ」
「いえ、いいんです! あの、ありがとうございました」

 失礼だとわかっていながらも、奪い取るようにしてカバンを戻してもらい、教室の扉を開けた。
 私の席は窓際の後ろの席で、いつもなら人がいて入り口からは机の上は見えない。

 けれど今日は違った。
 
 フールー伯爵令嬢や、その取り巻き、デイリ様、デイリ様と仲の良い人たちが、私の席まで花道を作るように立っていた。

 私の机の上には白い花といくつかのメッセージカードが置かれていた。
 私たちの国では亡くなった方に供えるものとして、白い花とメッセージカードを送る。

 意味がわかった瞬間、足を止めた。

「今から、リネ・ティファスのお葬式を始めまーす」

 デイリ様の友人、チープ男爵令息が笑いながら言った時だった。

 バンッ!
 
 大きな音が背後から聞こえてきたので振り返る。

 そこには、先程までの優しい笑みは消え失せ、人を射殺せてしまいそうなくらい冷たい目をしているエディ様がいた。

「そこに並んでる奴らに聞く。何の真似だ」

 エディ様の言葉を聞いた、デイリ様たちの表情が一瞬にして凍りついた。


 
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