人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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3  驚きしかない

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「ニーソン公爵令息! 誤解しないでください! これは僕たちの遊びです!」

 デイリ様が口を開くと、チープ男爵令息も焦った顔をしながらも頷く。

「そうです。いつもこういうジョークで彼女を朝から出迎えているんですよ」
「そうですわ! 誤解しないでくださいませ!」

 フールー伯爵令嬢もエディ様のことを素敵だと言っていた。
 だから、悪事がバレたことだけでなく、エディ様の自分への印象が悪くなるのではと焦っている感じだった。

「そんな嘘を信じると僕が思ってるのか」

 エディ様は冷たい声でそう言ったあと、花道を作っている一人ひとりの名前を挙げていく。

 そして、全員の名前を呼び終えたあと、後ろを振り返った。

 そこには、エディ様と同じクラスで将来の側近候補と言われているエレイン・キノン伯爵令嬢とテッド・ベアル侯爵令息が立っていた。

 いつから背後にいたのか、全くわからないくらいに気配がなかった。

「聞こえたな?」
「はい!」
「……」

 キノン伯爵令嬢は元気よく答えたけれど、ベアル侯爵令息は気怠そうな目をして一礼しただけだった。
 美少女ということで有名なキノン伯爵令嬢は、驚いている私に髪と同じ紺色の瞳を向けて微笑んでくれたあと、意気揚々とポニーテールにした髪を揺らして教室を出て行く。
 少し遅れて、ベアル侯爵令息もその後を追うように教室を出て行った。

「リネ嬢」

 エディ様に名前を呼ばれて、びくりと飛び跳ねるようにして体を向けると、とても悲しそうな顔をされた。

「驚かせてごめんね。それから、こんなことになっているなんて知らなかったんだ。気付いてあげられなくてごめん。いつからこうなのかな?」
「あの、えっと、大丈夫です! 何でもないんです! お気遣いいただき、本当にありがとうございます!」

 今回だけ助けてもらったとしても意味がない。
 影でエスカレートするだけだと思った私は、失礼な行為だとわかっていながらも優しさを拒絶するような態度を見せた。
 すると、そんな私に対してエディ様は悲しげな笑みを浮かべると「心配しなくて大丈夫だよ」と言ってから、優しい声で続ける。

「君にこんな酷いことをする人間を僕が無事で済ますとでも思ってる?」
「……はい?」
「リネ嬢は僕のことを詳しく知らないよね? だから、これからは少しずつ知っていってくれたら嬉しいな」
「いえ、あの、多少は知っております。ファンですので」
「……ファン?」

 エディ様は目をきょとんとさせて尋ねてくる。

「どういうことかな?」
「エディ様に憧れている女性はたくさんいます。私もその中の一人です!」

 こんなことを言ってしまったら引かれてしまうかもしれない。
 そう思ったけれど、エディ様の反応は私が予想したものとは正反対のものだった。

「リネ嬢が僕のファン!? 本当に!?」
「へいっ! いえ、はいっ!」

 声が上ずってしまい、変な返事をしてしまったので慌てて言い直すと、エディ様は嬉しそうに笑う。

「へい、って。やっぱり、リネ嬢は可愛いね」

 エディ様は満足そうな表情で私を見つめ、静まり返っているクラスの様子など完全に無視して促してくる。

「リネ嬢、こんな教室にいたくないだろう? 外は大雨だけど、僕と出かけないか?」
「え!? で、ですが」
「教室に入りたくないから空を見上げてたんじゃないの?」
「……」

 それは間違いない。
 だけど、もし、授業を受けなかったことが両親にバレてしまったら、私は本当に家を追い出されてしまうかもしれない。

 俯いていると、エディ様が顔を覗き込んでくる。

「リネ嬢?」
「……駄目なんです。両親に学園に通いたくないと言ったら、学園に行かないなら家を出ていけと言われてしまったんです」
「こんな酷い目に遭っているって伝えたの?」
「今日のようなことは初めてです。でも」

 いじめられている、ということを口にできなかった。
 でも、エディ様は私の言いたいことを理解してくださったようで、眉尻を下げて謝ってくる。

「リネ嬢、もっと早くに動けば良かった。本当にごめん。家を出ていけと言われることは絶対にないから安心して。というか、僕としてはそう言われたほうが嬉しいと言えば嬉しい。いや、リネ嬢が悲しむのは良くない」

 ブツブツ言っているエディ様を不思議に思って見つめていると、私の視線に気が付いたエディ様は頬を赤く染めて視線を逸らす。

「その、そんなに見つめられると照れる」
「申し訳ございません!」

 私が頭を下げた時、キノン伯爵令嬢が息を切らして戻ってきて、エディ様に報告した。

「エディ様! 馬車のご用意が出来ました!」
「ありがとう。リネ嬢、行こうか」
「え? あの、どこへでしょうか?」
「君の家だよ。大丈夫、心配しないで。君のことを僕の両親は知っているし、今、テッドが連絡を入れに行っているから」
「あの、何がなんだかわからないのですが!?」

 どうやら、エディ様と私は昔、お会いしているらしい。
 それはわかった。
 でも、どうしてエディ様が私に優しくしてくださるのか全くわからない。

 困惑して声を荒らげると、エディ様は笑顔で言う。

「ちょうど君の家には近いうちに伺おうと思っていたんだよ」
「私の家に……ですか?」
「うん」

 エディ様は頷いてから、衝撃的な言葉を口にする。

「君と婚約させてほしいとお願いしに行こうと思っていたんだ」
「はいっ!?」

 私が聞き返したと同時、静かだった教室内が驚きの声で騒がしくなった。
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