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10 小さな一歩
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その日は、閣下のところにシンス候爵など、今朝の加害者の父親たちから連絡が来ていたみたいだった。
でも、閣下はその誰とも会わず、自分の仕事も後回しにしてエディ様たちと一緒に私の話を聞いてくれた。
結果、相手の顔色を気にしすぎてオドオドしてしまい、その態度が余計に相手を苛立たせてしまうのではないかと言われた。
もちろん、私も普通に話しかけてくれる相手にはそんなことにはならない。
けれど、明らかに私を嫌っている人とわかる人や、お姉様に対してはどうしても怯んでしまう。
何をしたら良いのか、正解がわからないからだ。
顔色をうかがいながら、どうすれば嫌な気持ちにならないかを考える。
だから、答えが遅い、動きが遅いに繋がり、いつしか何をしても意味がなくなる。
たとえ、喜んでもらうことをしたとしても、存在がウザいと言われるのだ。
というわけで、閣下たちから言われたのは、まずは自分に攻撃的な人間に対しての顔色をうかがわなくても良いということ、それから、どんな自分になりたいか、はっきりと目標を持つようにと言われた。
「私たちのように立場が上の人間は領民のことなど、他の人のことを考えないといけないけれど、あなたはまだ子供なのだし、自分優先で考えて良いと思うわ。あんたには元々、思いやりがないわけではないしね」
「自分を好きと思える自分になれるよう努力したら良いということですよね?」
「そうね。まずは、どうありたいか考えてみたらどうかしら。もちろん、自分が悪いと思うことがあるのなら、次に同じことをしないようにするためには、どうすれば良いか考えてみるといいかもしれないわね」
これからはここが私の部屋だと連れてこられた客室のベッドの上で、マナ様に言われたことを思い出し、色々なことを考えているうちに、いつしか眠りについてしまっていた。
*****
次の日の朝、慣れていないベッドで眠ったからか、かなり早い時間に目を覚ましてしまった。
起きてウロウロするには早すぎるので、昨日、考えられなかった、どんな自分になりたいかをノートに書き出してみることにした。
『こんな自分が嫌だなんて思わない自分になりたい』
そのためにはどうすれば良いか?
『無理に全ての人から好かれようとは思わない』
『嫌なものは嫌、違うものは違うと言う』
他にもたくさんあるんだろうけれど、まずは、この二つを実践してみることにした。
そうしているうちに時間が経ち、部屋の扉がノックされた。
返事をすると、20代前半くらいのメイド服姿の女性が中に入ってきて自己紹介してくれた。
「おはようございます。本日より、リネ様の専属メイドを務めさせていただきます、ローザと申します。精一杯お仕えさせていただきますので、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
頭を下げると、背は私と変わらず、少しぽっちゃり体型のローザさんは苦笑して首を横に振る。
「私はリネ様のメイドなのですから、頭を下げていただく必要はありません」
「で、でも、私の家では……」
「リネ様の家のメイドは変わっているメイドだとお思いください。私のようなメイドが一般的なのです」
「そうなのですか?」
「そうです。ですから、敬語を使っていただく必要はありません。そして、ローザとお呼びください」
「……わかったわ」
私が頷くと、ローザはにっこりと微笑んでポニーテールにしている赤色の髪を揺らして、私を促してくる。
「では、まずは顔を洗って、お着替えしましょうね。今日はどうされますか? 学校はお休みされますか? 旦那様はお休みしても良いと言っておられましたが」
「いいえ、行きます。……じゃなくて行くわ」
どうせ、いつか学校に通わないといけないのなら、今日行かなくても同じこと。
もちろん、学校に行かないという手はあるのかもしれない。
けれど、それは逃げ道がなくなった時だけで良い。
私の場合は、死んでしまいたいと思っていた昨日までとは環境が違う。
お膳立てをたくさんしてもらえたのに、逃げるわけにはいかない。
まだ一人で何とかできるとは言えないけれど、今までの私じゃないということをデイリ様たちに知らせなくちゃ。
「承知いたしました。身支度を整えてから朝食にいたしましょうね。エディ様はすでにダイニングルームで待っておられますが、旦那様は待たせておけと言っていらっしゃいましたので待っておいてもらいましょう」
「え!? それは良くないんじゃ!?」
「そのかわり、今までとは違うリネ様の姿を見せてあげましょう」
顔を洗い、着ていた寝間着を脱ぐと、ローザは満面の笑みを浮かべて、私のイメージチェンジを開始した。
数十分後、ドレッサーの鏡の中に映る自分を何度も見直してしまった。
今までは髪を下ろしていることばかりだったから、シニヨンをしている自分を初めて見た。
首が涼しげに感じてしまうけれど、顔のラインがはっきりとわかるだけで見た目のイメージがかなり違う。
もちろん、ローザのお化粧もとても上手なのだと思う。
もしくは、ティファス伯爵家のメイドが駄目だっただけなのか。
自分で言うのもなんだけれど、本当に化けてしまっていた。
私に化粧を施しながらローザが説明してくれたのは、私には他にも3人の専属メイドがいるということだった。
でも、私が萎縮してはいけないからと、見た目も性格も穏やかなローザだけがしばらくは付いてくれることになったらしい。
それに関しては、ローザだけでは仕事が辛いだろうから、他の人とも会いたいとお願いした。
現在、世間体的にははエディ様と結婚した際、公爵夫人として上手くやっていけるように公爵夫人になるための教育を受けるために、この家に滞在することになったとされている。
実際は公爵夫人教育なんて聞いたこともないし、この国では、そんなものはないと思う。
お父様たちは私を家から連れ去られたなんて馬鹿なことは言わないだろうけど、なぜ、私が結婚前からニーソン公爵家にいるのかと思われるので、好き勝手言うような噂が立つ前に先に社交界に流すことにしたと聞いた。
どんな反応をしてもらえるかドキドキしながらダイニングルームに連れて行ってもらうと、すでに閣下もマナ様もダイニングルームにいらっしゃっていたので、慌てて謝ろうとした。
でも、エディ様とマナ様がイメージチェンジをした私を見るなり、甲高い声を上げて駆け寄ってきたため、二人の興奮が落ち着くまで謝ることは出来なかった。
最終的に、閣下が二人を私から引き剥がしてくれたので謝ることが出来た。
食事を終えたあとは、エディ様と一緒に馬車に乗って学園に向かった。
「髪を上げると、リネの小さな顔がより見えて可愛いね。あ、もちろん、リネの顔だけを好きになったわけじゃないよ?」
「ありがとうございます。 エディ様が好きになってくださった、昔の私に少しでも戻れるように努力しますね」
「今のままのリネも大好きだけど、リネは変わりたいんだよね?」
「……はい」
頷くと、エディ様は「応援するよ」と言って微笑んでくれた。
学校に着いて馬車から降りるとすぐに、デイリ様が近寄ってきた。
そして、エディ様に話しかける。
「昨日の件は申し訳ございませんでした! 本当に遊びなんです。そのことについてはリネにも証言してもらいます。ですから、リネに会わせていただけませんか!? それに、彼女の姉のことでも話がしたいんです!」
デイリ様はエディ様の横にいるのが私だとは気付いていないみたいだった。
お化粧のせいで、別人になってしまっているからしょうがないのかしら?
それよりも気になることがあったので聞いてみることにする。
「あの、証言してもらうというのはどういうことなのです?」
エディ様が口を開く前にデイリ様に尋ねると、彼は私を訝しげに見ながらも答えてくれる。
「あなたに言ってもわかるかはわかりませんが、昨日のことはエディ様が誤解しているようないじめではなかったということを証言してもらうのです」
「あれがいじめでなければなんと言うんですか!」
あの時のショックは自分でも計り知れない。
それを、いじめではなかったと証言しろだなんて信じられない。
自分が強く言えば、私がいじめではなかったと証言すると思っているのね!
そんなことは絶対に言いたくない。
私が声を荒らげると、デイリ様は目を見開いて私を指差す。
「ま、まさか、リネなのか?」
「そうです。それから、お望み通り証言させていただきます。あれはいじめです!」
周りにいる人たちに聞こえるように精一杯、大きな声で叫ぶと、デイリ様は周りを見回して焦った顔になった。
でも、閣下はその誰とも会わず、自分の仕事も後回しにしてエディ様たちと一緒に私の話を聞いてくれた。
結果、相手の顔色を気にしすぎてオドオドしてしまい、その態度が余計に相手を苛立たせてしまうのではないかと言われた。
もちろん、私も普通に話しかけてくれる相手にはそんなことにはならない。
けれど、明らかに私を嫌っている人とわかる人や、お姉様に対してはどうしても怯んでしまう。
何をしたら良いのか、正解がわからないからだ。
顔色をうかがいながら、どうすれば嫌な気持ちにならないかを考える。
だから、答えが遅い、動きが遅いに繋がり、いつしか何をしても意味がなくなる。
たとえ、喜んでもらうことをしたとしても、存在がウザいと言われるのだ。
というわけで、閣下たちから言われたのは、まずは自分に攻撃的な人間に対しての顔色をうかがわなくても良いということ、それから、どんな自分になりたいか、はっきりと目標を持つようにと言われた。
「私たちのように立場が上の人間は領民のことなど、他の人のことを考えないといけないけれど、あなたはまだ子供なのだし、自分優先で考えて良いと思うわ。あんたには元々、思いやりがないわけではないしね」
「自分を好きと思える自分になれるよう努力したら良いということですよね?」
「そうね。まずは、どうありたいか考えてみたらどうかしら。もちろん、自分が悪いと思うことがあるのなら、次に同じことをしないようにするためには、どうすれば良いか考えてみるといいかもしれないわね」
これからはここが私の部屋だと連れてこられた客室のベッドの上で、マナ様に言われたことを思い出し、色々なことを考えているうちに、いつしか眠りについてしまっていた。
*****
次の日の朝、慣れていないベッドで眠ったからか、かなり早い時間に目を覚ましてしまった。
起きてウロウロするには早すぎるので、昨日、考えられなかった、どんな自分になりたいかをノートに書き出してみることにした。
『こんな自分が嫌だなんて思わない自分になりたい』
そのためにはどうすれば良いか?
『無理に全ての人から好かれようとは思わない』
『嫌なものは嫌、違うものは違うと言う』
他にもたくさんあるんだろうけれど、まずは、この二つを実践してみることにした。
そうしているうちに時間が経ち、部屋の扉がノックされた。
返事をすると、20代前半くらいのメイド服姿の女性が中に入ってきて自己紹介してくれた。
「おはようございます。本日より、リネ様の専属メイドを務めさせていただきます、ローザと申します。精一杯お仕えさせていただきますので、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
頭を下げると、背は私と変わらず、少しぽっちゃり体型のローザさんは苦笑して首を横に振る。
「私はリネ様のメイドなのですから、頭を下げていただく必要はありません」
「で、でも、私の家では……」
「リネ様の家のメイドは変わっているメイドだとお思いください。私のようなメイドが一般的なのです」
「そうなのですか?」
「そうです。ですから、敬語を使っていただく必要はありません。そして、ローザとお呼びください」
「……わかったわ」
私が頷くと、ローザはにっこりと微笑んでポニーテールにしている赤色の髪を揺らして、私を促してくる。
「では、まずは顔を洗って、お着替えしましょうね。今日はどうされますか? 学校はお休みされますか? 旦那様はお休みしても良いと言っておられましたが」
「いいえ、行きます。……じゃなくて行くわ」
どうせ、いつか学校に通わないといけないのなら、今日行かなくても同じこと。
もちろん、学校に行かないという手はあるのかもしれない。
けれど、それは逃げ道がなくなった時だけで良い。
私の場合は、死んでしまいたいと思っていた昨日までとは環境が違う。
お膳立てをたくさんしてもらえたのに、逃げるわけにはいかない。
まだ一人で何とかできるとは言えないけれど、今までの私じゃないということをデイリ様たちに知らせなくちゃ。
「承知いたしました。身支度を整えてから朝食にいたしましょうね。エディ様はすでにダイニングルームで待っておられますが、旦那様は待たせておけと言っていらっしゃいましたので待っておいてもらいましょう」
「え!? それは良くないんじゃ!?」
「そのかわり、今までとは違うリネ様の姿を見せてあげましょう」
顔を洗い、着ていた寝間着を脱ぐと、ローザは満面の笑みを浮かべて、私のイメージチェンジを開始した。
数十分後、ドレッサーの鏡の中に映る自分を何度も見直してしまった。
今までは髪を下ろしていることばかりだったから、シニヨンをしている自分を初めて見た。
首が涼しげに感じてしまうけれど、顔のラインがはっきりとわかるだけで見た目のイメージがかなり違う。
もちろん、ローザのお化粧もとても上手なのだと思う。
もしくは、ティファス伯爵家のメイドが駄目だっただけなのか。
自分で言うのもなんだけれど、本当に化けてしまっていた。
私に化粧を施しながらローザが説明してくれたのは、私には他にも3人の専属メイドがいるということだった。
でも、私が萎縮してはいけないからと、見た目も性格も穏やかなローザだけがしばらくは付いてくれることになったらしい。
それに関しては、ローザだけでは仕事が辛いだろうから、他の人とも会いたいとお願いした。
現在、世間体的にははエディ様と結婚した際、公爵夫人として上手くやっていけるように公爵夫人になるための教育を受けるために、この家に滞在することになったとされている。
実際は公爵夫人教育なんて聞いたこともないし、この国では、そんなものはないと思う。
お父様たちは私を家から連れ去られたなんて馬鹿なことは言わないだろうけど、なぜ、私が結婚前からニーソン公爵家にいるのかと思われるので、好き勝手言うような噂が立つ前に先に社交界に流すことにしたと聞いた。
どんな反応をしてもらえるかドキドキしながらダイニングルームに連れて行ってもらうと、すでに閣下もマナ様もダイニングルームにいらっしゃっていたので、慌てて謝ろうとした。
でも、エディ様とマナ様がイメージチェンジをした私を見るなり、甲高い声を上げて駆け寄ってきたため、二人の興奮が落ち着くまで謝ることは出来なかった。
最終的に、閣下が二人を私から引き剥がしてくれたので謝ることが出来た。
食事を終えたあとは、エディ様と一緒に馬車に乗って学園に向かった。
「髪を上げると、リネの小さな顔がより見えて可愛いね。あ、もちろん、リネの顔だけを好きになったわけじゃないよ?」
「ありがとうございます。 エディ様が好きになってくださった、昔の私に少しでも戻れるように努力しますね」
「今のままのリネも大好きだけど、リネは変わりたいんだよね?」
「……はい」
頷くと、エディ様は「応援するよ」と言って微笑んでくれた。
学校に着いて馬車から降りるとすぐに、デイリ様が近寄ってきた。
そして、エディ様に話しかける。
「昨日の件は申し訳ございませんでした! 本当に遊びなんです。そのことについてはリネにも証言してもらいます。ですから、リネに会わせていただけませんか!? それに、彼女の姉のことでも話がしたいんです!」
デイリ様はエディ様の横にいるのが私だとは気付いていないみたいだった。
お化粧のせいで、別人になってしまっているからしょうがないのかしら?
それよりも気になることがあったので聞いてみることにする。
「あの、証言してもらうというのはどういうことなのです?」
エディ様が口を開く前にデイリ様に尋ねると、彼は私を訝しげに見ながらも答えてくれる。
「あなたに言ってもわかるかはわかりませんが、昨日のことはエディ様が誤解しているようないじめではなかったということを証言してもらうのです」
「あれがいじめでなければなんと言うんですか!」
あの時のショックは自分でも計り知れない。
それを、いじめではなかったと証言しろだなんて信じられない。
自分が強く言えば、私がいじめではなかったと証言すると思っているのね!
そんなことは絶対に言いたくない。
私が声を荒らげると、デイリ様は目を見開いて私を指差す。
「ま、まさか、リネなのか?」
「そうです。それから、お望み通り証言させていただきます。あれはいじめです!」
周りにいる人たちに聞こえるように精一杯、大きな声で叫ぶと、デイリ様は周りを見回して焦った顔になった。
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