人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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19 同じ立場だと訴える者③

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 今のところ、フールー伯爵令嬢に手紙の返事をするつもりはない。
 返事をしなければ、どうせ学校で話しかけてくるでしょうから、その時に話せば良いと思った。

 明日から2日間は学校がお休みなので、きっとソワソワして返事を待つのでしょうね。
 残念ながら、私は別に優しい人ではないから、気にしないことに決めた。

 夕食を終えたあと、部屋で明日からのことを考えていると、閣下が呼んでいるとローザが教えてくれた。

 部屋着のままで良いと言われたので、閣下の部屋に向かうと、部屋の中には閣下だけでなくマナ様もいた。

 閣下の部屋はとても広いのに、家具などが必要最低限しか置かれていなくて、とても殺風景だった。

 部屋の真ん中に置かれていたソファーに腰を下ろすと、向かいに座った閣下に話し掛けられる。

「エディから学校での話を聞いた。それから、シンス侯爵からもリネと話をさせてほしいと連絡があった。まず確認だが、シンス侯爵とは会うつもりなんだな?」
「はい。私の話をちゃんと聞いてくださるそうですのでお会いしたいと思っています」
「そうか。わかった。では、シンス侯爵家に対する処置は先延ばしにしよう」

 閣下の発言の意味が気になって聞いてみる。

「あの、処置を先延ばしにするというのはどういうことなのでしょう?」

 尋ねると、閣下はシンス候爵家ともフールー伯爵家と同じように商売上の取り引きがあるのだと教えてくれた。
 以前、水面下で動くと言われていたけれど、シンス候爵家ももちろん、ターゲットの一つになっていた。

「ねえ、リネ。話したくないのなら話さなくても良いけれど、フールー伯爵令嬢はなんて書いてきていたの?」

 閣下の隣りに座っていたマナ様は立ち上がり、私の横に座るって尋ねてきた。

「……そうですね。簡単に言うと過去のことは気にするなという手紙でした」
「まあ! 自分が悪いことをしたのに謝ることもできないのかしら」
「自分だけが悪いとは思っていないんだろう。理由があるからやったんだと思っているんじゃないか」

 マナ様の言葉を聞いて閣下はそう言った。
 手紙の内容を思い出す。

 そういえば、謝ってはいないわね。

 最終的に手紙に書いてあったことを二人に全て話すことになった。

「なんて失礼な子なの! リネ、わかっていると思うけれど、そんな子と仲良くしなくてもいいのよ!? 誰だって性格が合う合わないはあって当然よ! それにあんなに酷いことをした人なんだから!」
「もちろんです。仲良くするつもりはありません」
「なら良かったわ」

 マナ様が私に抱きついてきた。

 エディ様の抱きしめてくる癖は本当にお母様譲りなのね。

 エディ様が相手だと抱きしめられる、マナ様が相手だと抱きつかれるといった感じだ。

「フールー伯爵家には制裁をするしか無いか」
「公爵閣下、私のためにそこまでしていただかなくても結構です。お気持ちだけで十分です。自分のことは自分でまずは頑張ってみます」

「……そうか」

 なぜか、閣下の表情が暗くなった気がしたので、マナ様に助けを求める。

「あの、私は何か悪いことを言ってしまったのでしょうか」
「違うと思うわ。自分だけ名前で呼んでもらえないから、ちょっと拗ねているんじゃないかしら」

 マナ様はふふっと笑ったあと、「私のほうがリネと仲が良いのよ」と言って、私の二の腕に顔を擦り寄せてきた。

「リネ、君は俺のことをお義父とう様と呼びなさい。公爵閣下は堅苦しすぎる」
「はい!?」

 まさかそんなことを言われるとは予想もしていなかったので聞き返す声が裏返ってしまった。

 普通に名前でお呼びする形で良いのでは?

「ずるいわ! なら、私もお義母かあ様がいいわ!」
「そ、そんな! 恐れ多いです!」
「何を言っている。世間はリネをエディの妻になる人物だと認めているんだ。なら、私たちをお義父様やお義母様と呼んでもおかしくないだろう」
「そうよ。エディだって喜ぶわ!」

 結局、私がお二人に逆らうことが出来るはずもなく、ニーソン公爵邸内では、お義父様とお義母様と呼ぶことが決まってしまった。

 その後、何とか本題に戻り、フールー伯爵令嬢について私はどう考えているのかという話になった。
 私としては、フールー伯爵令嬢に反省する様子が見えないので、多少は痛い目に遭ってもらわないといけないと思う。
 だから、その気持ちを二人に伝えた。

「わかった。リネに確認するが、フールー伯爵令嬢は手紙に家から追い出されてしまうと書いていたんだな?」
「はい、そうです」

 大きく頷くと、閣下……じゃなくて、お義父様が言う。

「心配していた通りにしてあげよう。家から追い出されるというのは、修道院送りにされるということだろうから」


*****


 次の日は朝からずっと、エディ様と一緒だった。
 二人で学校の宿題をしたり、お話をしたりして、久しぶりに楽しい時間を過ごしていた。

 今日は青空が見えていて、気温も心地よかったのでティータイムの時間はエディ様と中庭のガゼボでお茶を飲んでいた。
 すると、フールー伯爵夫人が訪ねてきたと連絡があった。

 伯爵令嬢ではなく母親だったので、お義父様とエディ様と一緒に会うことにした。

 断っても良かったのに会うと決めたのはフールー伯爵夫人が何の話をしに来たのか、純粋に気になったからだ。

 3人で応接室に入ると、紺色のドレスに身を包んだフールー伯爵夫人がソファーから立ち上がり腰を折り曲げた。

「この度は申し訳ございませんでした」
「……リネに何の様だ?」

 お義父様が尋ねると、神経質そうな顔立ちのフールー伯爵夫人は丸い眼鏡のフレームを押し上げて答える。

「ティファス伯爵令嬢が私の娘、キラリと同じ立場であることをお伝えしに参りました」
「同じ立場だと?」

 お義父様が聞き返すと、フールー伯爵夫人は訴えてくる。

「そうです! 失礼ながらティファス嬢は自分のことしか見えなくなっており、他人のことはどうでも良くなっておられるようです。今のティファス嬢は昔のキラリと同じことをしていることに気付いていません!」
「何を言っておられるんです?」

 エディ様が伯爵夫人を睨みつけると、びくりと体を震わせながらも、伯爵夫人は娘のために戦う。

「いじめられる側にも原因がある、そう言っているのです」
「リネがいじめられたことはしょうがないことだと?」
「キラリが苛ついてしまうのもしょうがありません! ティファス嬢はウジウジシていたようですし」

 エディ様が伯爵夫人に何か言う前に私が応える。

「それはそうかもしれません。ですが、同じ立場というのはどういうことなのです?」
「あなたもやられたことの腹いせで、キラリを攻撃するのでしょう? なら、やっていることはキラリと変わりません」
「腹いせなんかじゃありません!」

 声を荒らげると、伯爵夫人は目を閉じて首を横に振る。

「自分のことだから気付いていないだけですわ。教えてあげましょう。あなたは、キラリと同じレベルなんです。それなら、もう良いでしょう? あなたは十分やり返すことができました。それに今は幸せなのですから。キラリにだって未来はあるのです! それをあなたなんかに潰されるだなんて! 元々の原因はあなたにあるのに!」
「……今が幸せなのは確かです。でも、フールー伯爵令嬢と同レベルに落ちたつもりはありません。勝手に決めつけないでください」

 冷たく言うと、伯爵夫人は娘を彷彿とさせる顔で私を睨みつけてきたのだった。
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