人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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20 変わる気のある人とそうでない人①

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 無言で睨み合っていると、フールー伯爵夫人にエディ様が尋ねる。

「どうしてそんな考えしか出来ないのです?」
「……どういうことでしょうか」

 伯爵夫人は私から視線を動かして、エディ様に尋ね返した。

「あなたは相手の意見を聞かずに自分の言いたいことを言って、相手が納得すると思い込んでいる。自分の意見に賛同できないものは悪、もしくは頭が悪いとでも思っているのでしょう?」
「頭が悪いとまでは思っておりませんわ。考え方に柔軟性がないと思うだけで……」
「柔軟性がないのはそちらでしょう」

 エディ様はきっぱりと言い切ると、私に顔を向けて話しかけてくる。

「真面目に相手をしても意味がないと思うよ。こちらの気持ちを理解するつもりはないみたいだから」
「はい」

 大きく頷いてから、フールー伯爵夫人に視線を戻して口を開く。

「お帰りください。反省もしていない上に、やり返してきたのだから同レベルだなんて言われる方と話すことはありません」
「聞いて頂戴!」

 伯爵夫人は大きな声を上げて私の動きを止めたあと、早口でまくし立てる。

「このままではあの子は夫の命令で修道院に行かされてしまいます! あんなに可愛い子が修道院で一生暮らすだなんて駄目よ! あの子には輝かしい未来が待っていないといけないんです! あなたが過去を忘れてくれれば、キラリはこれからも幸せに暮らしていけるんですよ! あの子の将来を何だと思ってるんですか!」

 怒りでうち震える自分の感情を落ち着かせるために、大きく深呼吸する。

「……御息女が二度といじめをしないという保証はありますか?」

 気持ちを少しだけ落ち着かせ、強く握りしめた両手を太腿の上に置いて尋ねた。

「あ、ありますわ。さすがにもう二度と馬鹿なことはしないはずです!」
「……それはあなたの願望ではないですか?」
「違います! それに最初からできないと決めつけるよりも、チャンスは与えられるべきです!」
「……わかりました。チャンスを与えることにします」

 私が口を開くと、伯爵夫人は笑みを浮かべた。
 そして、エディ様は驚いた顔になり、お義父様は眉根を寄せた。

 エディ様たちには、あとで私の考えを知らせることにして、今は少しでも早く伯爵夫人にお帰りいただくように話を進める。

「ただ、一つ条件があります」
「何かしら?」
「御息女が必要以上に私に近付かないことを約束していただきたいです」
「もちろんよ!」

 伯爵夫人は嬉しそうな表情で頷いて立ち上がると、話は終わったと言わんばかりに挨拶だけして帰って行った。

「……どうするつもりなんだ?」
「フールー伯爵夫人にお願いされたように、フールー伯爵令嬢にチャンスを与えるつもりです」

 お義父様からの問いかけに答えると、エディ様が顔を覗き込んでくる。

「リネ、君にこんなことは言いたくないけど、本当にあんな性格の悪い人間が変われると思ってるの?」
「変わる変わらないは、本人の意思次第です。本人に選択してもらおうと思います」

 その後、私の考えを二人に話してみたところ、理解はしてくれた。


 
 次の日にはシンス候爵がやって来て、私が話し終えるまで、口を挟むことなく最後まで聞いてくれた。
 そこで改めて、シンス候爵は私に謝ってくれたあと、お姉様とデイリ様の話をしてくれた。

 お姉様はどうにかして、デイリ様との婚約の解消を進めようとしているらしかった。

 デイリ様は有り難いことに、お姉様との婚約の解消を嫌がり、申し出を突っぱねてくれているんだそう。
 今回、シンス候爵家が強気に出れるのは爵位のこともあるけれど、私との婚約がで解消されたとなっていたから。

 実際はお姉様が私からデイリ様を奪い、私はデイリ様から婚約破棄された。
 でも、私の両親は私の勝手で婚約者が入れ替わったという話をシンス候爵にしている。

 私の両親は今更、それが嘘だったとは言えない。

 シンス候爵としては、婚約を解消したいという私の両親やお姉様に対し「シンス候爵家を馬鹿にしているのか」と怒ってくれたんだそう。

 どうしても婚約関係を無くしたい場合は、婚約破棄をしろと伝え、その代わり慰謝料を請求すると脅したらしい。

 請求する慰謝料として提示された金額を見た両親は言葉をなくし諦めるしかなかったというのだから、よっぽどの金額を請求しようとしたみたいだった。

 休み明け、教室に入るとエレインだけじゃなく、フールー伯爵令嬢の取り巻きたちが近づいてきた。

 身構えていると、彼女たちは何度も謝ってきて、フールー伯爵令嬢との付き合いはやめると言ってきた。

「フールー伯爵令嬢と付き合うななんて言わないけれど、二度とあんな酷いことをしないで」

 そうお願いすると、取り巻きたちは何度も頷き、泣いて謝ってくれた。

 その日から、フールー伯爵令嬢はクラスで一人ぼっちになった。

 今までは休み時間、彼女の周りには必ず誰かがいた。
 でも今は、彼女を避けるかのように、近くの席にも人がいない。
 授業開始のチャイムが鳴って、やっと席に戻ってくる、そんな日が続いた週末の放課後のことだった。

 近付くなとお願いしていた、フールー伯爵令嬢が私のところへやって来て、頬を叩こうとしてきた。

 私が驚いて避ける前に、エレインが手首を掴んで止めてくれた。

 フールー伯爵令嬢は手首を掴まれたまま叫ぶ。

「あんたはこれで満足なの!?」
「意味がわからないわ」
「私を一人ぼっちにして何が楽しいのよ! 馬鹿にしないでよ!」
「自分で撒いた種でしょう!? それに馬鹿になんてしていないわ!」

 言い返すと、フールー伯爵令嬢はエレインの手を振り払い、憎しみのこもった眼差しを向けてきたのだった。




 

次の話は「変わる気のある人とそうでない人②~トワナ視点~」になります
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