人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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24 両親からの連絡①

 エディ様は早退することはなく、きちんと授業を受けて帰って来た。
 お義父様が「早退したら、リネとしばらく会わせない」と伝言したらしいから、それでかもしれない。
 私とエレインとお義母様は3人で話をしながら、お茶を飲んだり、お菓子を食べていた。
 その時、走ってくる足音が近づいて来たかと思うと、部屋の前で止まり、扉がノックされた。

「誰かしら」
「僕です。エディです」

 お義母様が入室の許可を出すと、2枚扉を勢い良く開けて、エディ様は談話室の中に入ってきた。
 焦っておられるのか、それともわざとなのか扉を開け放ったまま、私に近付いて来た。
 そして、ソファーに座っている私のすぐ近くで立ち止まると、眉尻を下げる。
 
「リネ! 一体何があったの!? エレインもちゃんと連絡をくれよ!」
「申し訳ございません! とにかく、少しでも早くリネ様を学校から遠ざけたくて焦っていたら、連絡を忘れてしまいました。」

 お義母様の横に座っていたエレインは、立ち上がって頭を下げた。

「エレインは何も悪くありません」
「そうよ。エレインに当たるのはやめなさい」

 私とお義母様がエディ様を見つめて言うと、冷静になられたのか、エディ様はすぐにエレインに謝る。

「悪かったよ。エレインはリネを守ることを優先してくれたんだよね」
「ですが、連絡は入れておくべきでした」
「いや。僕よりリネを優先にと君に伝えていたんだ。エレインは悪くない。本当にごめん」
「そんな! エディ様が謝られることではありません!」

 エレインが恐縮すると、お義母様がエディ様に言う。

「エディ、あなた、エレインが伝えていたなら、リネと一緒に帰ってきていたでしょう? それは良くないわ」
「そうですね。父上からの伝言で良かったと思います」

 エディ様は素直に頷いて、私に尋ねてくる。

「リネ、隣に座ってもいいかな?」
「もちろんです」

 笑顔で頷くと、エディ様は満面の笑みを浮かべて私の隣に腰を下ろした。
 そして、いつものように密着して尋ねてくる。

「リネ、お腹は減ってない?」
「お腹は減ってはいません。先程まで焼菓子を食べていましたから」
「そっか。リネの食べるところ見たかったなあ」

 エディ様ががっかりした顔をして肩を落とす。

 私の食べているところを見て何が楽しいの? 
 それにいつも、自分の食事の時間をずらしてまで見てきているのに。 

「いつも見ているじゃないですか!」
「その時その時によって違うんだよ。というか、困った顔をしてるリネも可愛い」

 デレデレしているエディ様を見たエレインは、苦笑するかと思いきや笑顔になった。
 気になったので尋ねてみる。

「エレインはどうして笑ってるの?」
「エディ様が幸せそうですから、つい。リネ様には申し訳ございません」

 もしかして、エレインはエディ様のことが好きだったりするのかしら。
 でも、恋愛感情なら、こんな風に笑えたりしないわよね?

 複雑な気持ちになった時、エレインがエディ様に話し掛ける。
 
「エディ様、長年の片思いが報われて本当に良かったですね」
「ありがとう! あ、テッドも座ったらどうかな。エレインの隣が空いてるよ」

 テッド様は廊下で待っておられたようで、エディ様が声を掛けると一礼して中に入ってきた。

 扉が開け放たれたままだったのは、テッド様の為だったみたい。

「ごめんなさいね、テッド。エディはリネのことになると、すぐに色んなことを忘れてしまうんだから。エディ、あなたは本当に気を付けないと駄目よ」
「テッド、悪かった」

 お義母様に注意されてエディ様がテッド様に謝る。

「気にしていません」

 テッド様は首を横に振ると、エレインに一声掛けてから彼女の隣に座った。

 二人が並んで座ると、美男美女でお似合いだわ。

 エディ様が帰って来たことで、学校のことを思い出した。
 そして、チープ男爵令息のことを思い出している内に確認してみる。

「あの、エディ様」
「どうしたの? 喉が乾いた? それとも、何か食べたい?」
「いえ、そうじゃなくてお聞きしたいことがあるんです」
「……どんなこと?」
「チープ男爵令息のことなんですが、彼がどうなったか知っておられますか?」

 私の質問を聞いたエディ様は笑みを消して、不貞腐れたような顔になる。

「リネの口から他の男の話題が出るだなんて」
「申し訳ございません」
「謝らないで。変なことを言ってごめん」

 謝った私に、エディ様は慌てた顔でそう言うと、ぎゅうっと抱きしめてきた。

「リネは僕のこと、男性として好きじゃないだろ? それがわかってるからつい、ヤキモチを焼いちゃうんだ。本当にごめん。嫌わないで」
「私がエディ様を嫌うわけないじゃないですか」
「でも」

 エディ様が信じてくれないから、ゆっくりと体を離して、エディ様の両手を取る。

「エディ様には本当に感謝しているんです。私が恩人を嫌うと思いますか?」
「でも、僕は父上に頼ってるところも多いし、リネにしてみれば恩人なんかじゃないだろ?」
「そんなことはありません。エディ様が私を大事にしてくださるから、自分に自信が持ててきたんです。きっかけをくださり、本当にありがとうございます」

 にこりと微笑むと、エディ様は私の手を握り返してきた。

「ありがとう、リネ。これからは気を付けるから」

 エディ様は一度言葉を区切ったあと、私の手を握ったまま話を続ける。

「チープ男爵令息だけど、彼は退学後は他の学校には通えていない。学力が低すぎて、編入試験に通らなかったんだ」
「……そうなんですね。では、今はどうされているのですか?」
「家の手伝いをしているみたいだよ。婚約者ではないけど、彼にも恋人はいたらしい。でも、今回の件で酷いことををした上に反省もしていないなんてと言われてフラレたらしいよ」
「お相手の方は良い方だったのですね」

 少し考えてから言うと、エディ様の代わりにエレインが応えてくれる。

「普通の貴族の令嬢なら先の見えない男性とお付き合いするだけ時間の無駄と思うのかもしれません」
「厳しい世の中ね」

 もちろん、私も同意見ではある。

 その時、トントンと扉が叩かれ、お義母様が返事をすると、お義父様が中に入ってきた。

 お義父様は扉付近で立ち止まり、厳しい表情で私に話し掛けてくる。

「シンス侯爵から連絡が来た。シンス卿がトワナ嬢との婚約を破棄したいと言い出したらしい」
「えっ!?」

 大きな声で聞き返してしまった。

 あれだけ、お姉様のことを好きだと言っていたのに、そう簡単に忘れられるものなの?

 困惑してしまい、素直にお義父様に尋ねてみる。

「シンス卿は、どういう心境の変化なのでしょう?」
「詳しくはわからないが、シンス侯爵が言うには、シンス卿はトワナ嬢への愛は消えてなくなったようだと言っている。何か二人の間で仲違いするようなことがあったんだろう」
「そんな……」

 大人しく結婚してくれれば良いのに、どうして上手くいかないの? 

 もし、婚約破棄になったら、お姉様は遠慮なくエディ様に近付こうとするに決まっているわ。

 でも、たとえお姉様達が婚約破棄になって、エディ様に近付いてきても、お姉様に負けたくない。

 それにエディ様がお姉様を選ぶわけがないもの。

「もし、そうなったとしても構いません。ちゃんとお姉様と戦います」

 今までならやる前から諦めていた。
 でも、今は違う。

 その意思を、お義父様に伝えると、優しい笑みを見せてくれてから頷く。

「わかった。シンス侯爵には状況が変わったから、婚約破棄になったとしても構わないと、そう伝えておく」
「ありがとうございます」
「それから……」

 お義父様は表情を険しくして話を続ける。

「リネの両親からリネに会わせてくれと連絡があった」
「私に会わせてくれと言っているんですか?」
「そうだ」

 これ以上私に何の用事があるって言うの?

 お姉様のことしかいらないのなら、私のことは放っておいてくれたらいいのに。

 

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