人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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25 両親からの連絡②

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「リネが会いたくないと思うなら会わなくても良い。あの家を出ていく時に、リネを私に預けると承諾しているのだから、彼らに会う義務はない」

 お義父様が言っているのは、私とエディ様の婚約が決まった時の書類の話をしてくれているのだとわかった。

「ありがとうございます」
「リネ、どうせ嫌な思いをするだけだから会わなくてもいいと思うよ」

 お義父様にお礼を言うと、エディ様が心配げな表情で話し掛けてきた。

「それはわかっているのですが、断ってもきっと、私に会うまでは何か言ってくるでしょう」

 エディ様の気遣いはとても嬉しい。
 だけど、いつまでも避けて通れる道でもない。

 私の言葉を聞いても、まだ心配そうにしているエディ様に微笑んでみせる。

「夜会に行くようになれば、顔を合わせないといけないこともあるでしょうし、いつかは話をしなければなりません。でしたら、嫌なことは後回しにせずに済ませてしまいたいんです」

 今までは夜会で会うことがあっても、両親は私のことなど気にしないと思っていた。
 だけど、話し掛けてくるのなら、大勢の前で話し掛けられるよりも、個人的に話をして関係を断ち切ってしまっていたほうがマシな気がした。

 両親の異常さを多くの人に知られたくないというのもある。

 あんな両親の娘である私をエディ様が婚約者にしただなんて、嫌な噂が流れたら嫌だもの。

「夜会で思い出したけれど、リネとエディの婚約が決まったというお披露目パーティーはどうしようかしら?」

 お義母様が立ったままのお義父様を見上げて尋ねた。

「しなければならないと思っている。世間に広めるには良い機会だからな。だが、もう少し状況が落ち着いてからにしたい」
「そうですね。一度に色々なことをすると、リネが疲れてしまったら嫌です」

 お義父様の答えにエディ様は頷くと、私に笑顔を向けてくる。

「婚約披露パーティーは君のお姉さんが羨ましがるようなものにしようね」
「エディ様と婚約すると言うだけで、お姉様はすでに羨ましいでしょうし、悔しがっていると思います」
「そうかな?」
「絶対にそうです」

 手を握っていたままだったので、ぎゅっと強く握ると、エディ様の顔がだらしのないものに変わる。

「そっか。そうかな。リネがそう言うんならそうだろうね。うん、今日のリネも可愛い。可愛いが毎秒更新される」
「エディ、他人の前でその顔になるなよ」
「……気を付けます。さすがに気の置けない人以外の前でこんな顔になったら、なめられるとわかってますし、リネに危険が及んでも嫌ですから」

 どうして私に危険が及ぶのかしら?
 
 私の疑問が顔に出ていたのか、テッド様が教えてくれる。

「リネ様はエディ様の大切なお方です。そして、エディ様は公爵家の嫡男です。リネ様がエディ様の弱点と知られてしまうと、リネ様が危険な目に遭う可能性が高くなります」
「でも、結婚してしまってもそうなのではないですか?」
「結婚された場合は、学校のように不特定多数の人間が集まるような場所には護衛付きで行きます。ですが、学校では護衛はいませんよね?」
「そう言われてみればそうですね」

 私たちが通っている学校は外部からの侵入に対してのセキュリティをしっかりしているから、護衛を学校内に入れることを禁止している。
 もし、護衛を学校内にまで付けないといけないほど危険な状態とまでなると、学校に来ること自体を禁じられていた。

 納得した様子の私を見て、お義父様が口を開く。

「話がズレてしまったが、リネが両親に会う際には私も同席する」
「私も同席したいわ」
「僕もです!」

 お義母様とエディ様が勢いよく挙手した。

「困ったもんだな」

 お義父様は胸の前で腕を組み、呆れた顔をしたあとに尋ねてくる。

「リネはそれで良いか?」
「もちろん構いませんと言いたいところなのですが、まずは一人で話をしてみても良いでしょうか?」

 私のお願いを聞いたお義父様だけじゃなく、エディ様達までもが難しい顔になった。
 
 きっと、私一人だと心配なのよね。
 それはわかってる。
 だけど、まずは自分一人で話をしてみなくちゃ。
 そうじゃないと、お姉様に「自分一人では何も出来ないのね」とバカにされてしまいそうな気がする。

「お姉様と違って、私の両親は下手に出てくると思うんです。何を話したいのか聞いてみて、それが謝罪であるのならば考えてみたいと思います。もちろん、謝罪であったとしても、心からの謝罪ではないと感じた場合は受け入れるつもりはありません」
「……わかった。リネが自分から立ち向かおうと思う気持ちは悪いことじゃない。もちろん、命の危険がある場合は許すことは出来ないが」
「ありがとうございます」

 頭を下げると、エディ様が手を離して、また私を抱きしめてくる。

「心配だけどリネを信じるよ」
「エディ、私もリネを抱きしめたいわ!」

 お義母様に言われて、エディ様は渋々といった感じで私から離れた。
 そして、すぐにお義母様は私の横まで来て抱きついてきた。

「リネなら大丈夫よ。きっと立ち向かえるわ。でも、耐えられない時は助けを求めることを忘れないで。あまりにも酷いことを言われたりしたら、私たちには隠さずに言ってね? 社会的に痛い目に遭わせてあげるわ」
「マナも言っているが、酷いことや脅されるようなことがあれば絶対に私たちに言うように。たまに迷惑をかけたくなくて言わないという人間もいるが、それは気持ちだけで良い。何も知らないことによって迷惑を掛けられないかもしれないが、リネが悲しい思いや嫌な思いをするのなら意味がないし、そっちのほうが嫌な気持ちになる」
「……ありがとうございます」

 お義父様の言葉が嬉しくて、まだ涙腺が弱い私は目に涙が浮かんでしまう。

「リネ様、もし、閣下やエディ様に言いにくいことでしたら、ぜひ私にはお伝えください! 女性にしか言いにくいことやわからないこともあるかもしれません!」
「そうね、エレインの言うとおりだわ。絶対に一人で抱え込まないでね」

 エレインの言葉に頷いてから、お義母様が私を抱きしめる腕を強くして言った。

「ありがとうございます、エレイン、お義母様」
「リネ! 僕もいるからね」
「お役に立てるかどうかわかりませんが、僕もいます」

 エディ様のあとに、テッド様も嬉しい言葉をくれた。

 世の中には悪い人や嫌な人がたくさんいる。
 でも、良い人のほうがもっと多いのだと実感した瞬間だった。



*****

 

 フールー伯爵令嬢は次の日から学校に来なくなった。
 新しい担任の先生が言うには、彼女のお父様の方から学校を辞めるという連絡があったそうだ。

 そして、それから数日後の学校が休みの日の昼過ぎ、私はニーソン公爵邸で私の両親と久しぶりに顔を合わせることになった。
 応接室に通されていた二人は私が部屋に入るなり、引きつった笑みを浮かべて立ち上がり、声を掛けてくる。

「久しぶりだな、リネ」
「出ていってから一度も連絡をして来ないだなんて酷いじゃないの。恩知らずな子ね」

 お母様が驚くようなことを言ってきたので、思わず尋ねてしまう。

「お父様がこの家には二度と入れないと言ってらっしゃいましたので、連絡も必要ないのかと」
「そ、それとこれは別だ。あの時はイライラしていたんだ」

 お父様は呆れた表情の私のことなど気にもせずに、言葉を続ける。

「悪かったよ。言い過ぎたと思っている。だから、家に戻ってこないか? トワナが寂しがっているんだ」

 お父様の言葉を聞いてわかった。
 お父様たちは反省なんてしていない。

 謝罪してもらえるかもしれないだなんて考えが甘かった。

 お父様たちは、お姉様が私を連れ帰れとお願いしたから、ここまで来たんだわ。





いつもお読みいただき、ありがとうございます!
次の話はトワナ視点になります。
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