人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

文字の大きさ
32 / 59

26 現実での出来事①

しおりを挟む
「お帰りください」

 はっきりとした口調で言うと、両親は焦った顔をする。

「まだ、話を始めたばかりじゃないか。最後まで話を聞いてくれ」
「話を聞かなくてもわかります。お父様は本当は私に帰って来てほしくなんてないんでしょう? お姉様から言われて迎えに来た、そんな感じなのでしょう?」
「そ、そんなことはない」
「そうよ。なんてことを言うの。私たちにとっては、あなたは可愛い娘なのよ」

 お父様もお母様も引きつった笑みを浮かべているから、私の言ったことが間違っていないのだとわかる。

 本当に可愛い娘だと思ってくれていたなら、私はここにはいない。

「お帰りください」

 先程よりも強い口調で、同じ言葉を口にした。
 すると、お父様はムッとした顔で言う。
 
「いい加減にしなさい。今まで育ててきてやった親に、なんてことを言うんだ!」
「それに関しては感謝しています。だからこそ、家を出て行ったんです。ですから、私が家に帰って、お父様たちに何のメリットがあると言うんです?」
「メリットがどうこうという話ではない! これ以上、ニーソン公爵家にご迷惑を掛けるなと言っているんだ!」

 今までの私なら、お父様にこんなことを言われたら、そうかもしれないと素直に思ったと思う。

 でも、今は大丈夫。
 ニーソン公爵家に迷惑を掛けているのは確かかもしれない。

 でも、そう思うことが、私の場合はニーソン公爵家の人たちを悲しませることになるのだと教えてもらえたから。

 私がニーソン公爵家の人たちにできることは、エディ様を支えられるような、立派な淑女になることだけ。

「お父様のおっしゃっていることは間違ってはいません。ですが、ニーソン公爵家の方々は、私のことを迷惑だなんて思うような方々ではありません」
「それはお前が勝手に思い込んでいることだ!」
「いいえ。ちゃんと閣下からお話を聞いています。それに、閣下は迷惑な人間になるとわかっている人間を、何の考えもなしに自分の家に連れて帰るような方ではありません」
「……閣下にだって判断ミスをされることがある!」

 お父様は扉の前に立って話をしていた私に近付いてくると、私の両腕を掴んで叫ぶ。

「夢物語は終わりだ! 目を覚ましなさい!」

 そう言われて、急に頭の中が現実に戻った気がした。

 ずっと気にしていたのに忘れていた。
 これは夢ではないかと、あれだけ疑い続けていたのに……。
 夢だからこそ、好き勝手してもいいのだと思っていた。
 でも、これが現実なら、私は本当に迷惑を掛けているのかもしれない。

「リネ」

 その時、扉の向こうからエディ様の声が微かに聞こえてきた。

 きっと、心配して扉のすぐ近くにいてくれたんだわ。

 大きく深呼吸する。
 お父様のことは怖い。
 でも、今の幸せを奪われるほうがもっと怖い。

 そう思って口を開く。

「もうとっくに目を覚ましています! 目を覚ましているから家に帰らないんです!」
「何を生意気な! そんな風に育てた覚えはないぞ!」
「お姉様を優先して、私になんて大して興味もなかったんでしょう!? 昔、病気にかかったのだって私だけだった! お姉様だけは病気にかからないようにと特に気を遣っていたんじゃないんですか!?」

 私の叫びを聞いたお父様たちは、苦虫を噛み潰したような顔になった。
 私はお父様の手を振り払って叫ぶ。

「話すことはありません。たとえ、ニーソン公爵家の方々が私のことを迷惑だと思うようになったら、ここを出ていきます! そして、ティファス家には帰らずに自分で生きていく道を探します!」

 死を考えたことがあるのなら、これ以上、何も怖いことなんてないわ。
 すると、お母様が焦った顔で首を横に振る。

「駄目よ! トワナと約束したの! 絶対にあなたには家に帰ってもらうわ!」
「そうだ! ワガママを言うな! 帰るぞ! 閣下だって、お前のことを迷惑がっているが可哀想だと思って口にしないに決まっている! お前が帰ると言えば絶対に喜ばれるはずだ!」

 お父様は私の手首を掴み、内開きの扉を開けた。
 そして、その場で立ち止まる。

 部屋を出たすぐの廊下には、エディ様だけでなく、お義父様やお義母様もいた。
 お義父様は冷たい目でお父様に尋ねる。

「誰が誰を迷惑だと思っているというのか聞かせてもらいたいな」
「そ、それは…!」

 尋ねられたお父様は私の手首から手を離し、部屋の奥へと後退りした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

処理中です...