人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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26 現実での出来事①

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「お帰りください」

 はっきりとした口調で言うと、両親は焦った顔をする。

「まだ、話を始めたばかりじゃないか。最後まで話を聞いてくれ」
「話を聞かなくてもわかります。お父様は本当は私に帰って来てほしくなんてないんでしょう? お姉様から言われて迎えに来た、そんな感じなのでしょう?」
「そ、そんなことはない」
「そうよ。なんてことを言うの。私たちにとっては、あなたは可愛い娘なのよ」

 お父様もお母様も引きつった笑みを浮かべているから、私の言ったことが間違っていないのだとわかる。

 本当に可愛い娘だと思ってくれていたなら、私はここにはいない。

「お帰りください」

 先程よりも強い口調で、同じ言葉を口にした。
 すると、お父様はムッとした顔で言う。
 
「いい加減にしなさい。今まで育ててきてやった親に、なんてことを言うんだ!」
「それに関しては感謝しています。だからこそ、家を出て行ったんです。ですから、私が家に帰って、お父様たちに何のメリットがあると言うんです?」
「メリットがどうこうという話ではない! これ以上、ニーソン公爵家にご迷惑を掛けるなと言っているんだ!」

 今までの私なら、お父様にこんなことを言われたら、そうかもしれないと素直に思ったと思う。

 でも、今は大丈夫。
 ニーソン公爵家に迷惑を掛けているのは確かかもしれない。

 でも、そう思うことが、私の場合はニーソン公爵家の人たちを悲しませることになるのだと教えてもらえたから。

 私がニーソン公爵家の人たちにできることは、エディ様を支えられるような、立派な淑女になることだけ。

「お父様のおっしゃっていることは間違ってはいません。ですが、ニーソン公爵家の方々は、私のことを迷惑だなんて思うような方々ではありません」
「それはお前が勝手に思い込んでいることだ!」
「いいえ。ちゃんと閣下からお話を聞いています。それに、閣下は迷惑な人間になるとわかっている人間を、何の考えもなしに自分の家に連れて帰るような方ではありません」
「……閣下にだって判断ミスをされることがある!」

 お父様は扉の前に立って話をしていた私に近付いてくると、私の両腕を掴んで叫ぶ。

「夢物語は終わりだ! 目を覚ましなさい!」

 そう言われて、急に頭の中が現実に戻った気がした。

 ずっと気にしていたのに忘れていた。
 これは夢ではないかと、あれだけ疑い続けていたのに……。
 夢だからこそ、好き勝手してもいいのだと思っていた。
 でも、これが現実なら、私は本当に迷惑を掛けているのかもしれない。

「リネ」

 その時、扉の向こうからエディ様の声が微かに聞こえてきた。

 きっと、心配して扉のすぐ近くにいてくれたんだわ。

 大きく深呼吸する。
 お父様のことは怖い。
 でも、今の幸せを奪われるほうがもっと怖い。

 そう思って口を開く。

「もうとっくに目を覚ましています! 目を覚ましているから家に帰らないんです!」
「何を生意気な! そんな風に育てた覚えはないぞ!」
「お姉様を優先して、私になんて大して興味もなかったんでしょう!? 昔、病気にかかったのだって私だけだった! お姉様だけは病気にかからないようにと特に気を遣っていたんじゃないんですか!?」

 私の叫びを聞いたお父様たちは、苦虫を噛み潰したような顔になった。
 私はお父様の手を振り払って叫ぶ。

「話すことはありません。たとえ、ニーソン公爵家の方々が私のことを迷惑だと思うようになったら、ここを出ていきます! そして、ティファス家には帰らずに自分で生きていく道を探します!」

 死を考えたことがあるのなら、これ以上、何も怖いことなんてないわ。
 すると、お母様が焦った顔で首を横に振る。

「駄目よ! トワナと約束したの! 絶対にあなたには家に帰ってもらうわ!」
「そうだ! ワガママを言うな! 帰るぞ! 閣下だって、お前のことを迷惑がっているが可哀想だと思って口にしないに決まっている! お前が帰ると言えば絶対に喜ばれるはずだ!」

 お父様は私の手首を掴み、内開きの扉を開けた。
 そして、その場で立ち止まる。

 部屋を出たすぐの廊下には、エディ様だけでなく、お義父様やお義母様もいた。
 お義父様は冷たい目でお父様に尋ねる。

「誰が誰を迷惑だと思っているというのか聞かせてもらいたいな」
「そ、それは…!」

 尋ねられたお父様は私の手首から手を離し、部屋の奥へと後退りした。
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