人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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31 姉との1戦目②

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「なんてことを……!」

 お姉様は私を睨みつけたあと、すぐに周りの視線に気付いて、両手で顔を覆い、泣き真似を始めた。

「リネは酷いわっ。そうやって私を悪者にしようとするのね! ただでさえ、デイリとの婚約の解消で傷付いているのよ? そんな意地悪をしないで頂戴!」
「お姉様は最近はになられたとお聞きしていますが、そのせいなのですか?」
「ええ。ショックで食事も喉を通らないのよ」
「そのせいで、社交界にはあまり出ておられないと聞きましたが本当ですか?」
「そ、そうよ。今日だって体調は悪かったのに、あなたのために無理をして来たんだから」

 お姉様は両手で顔を覆ったまま言う。

「ではもう、お帰りくださいませ」
「……なんですって?」
「体調が悪いのに無理して、この場にいていただかなくても結構ですわ」
「妹のためなんだから、多少の無理くらいできるわよ!」

 お姉様は顔から手を離して叫んだ。
 その目には涙などなくて、化粧が崩れた様子もない。

「お姉様、やっぱり泣いてはなかったのですね」
「リネ、いい加減にしなさい!」

 言い返せないお姉様の代わりに、近くで様子を見守っていたお父様が出てきた。

「ニーソン公爵家の方に甘やかされて生意気な口を叩くようになったんだな! 躾し直してやるから家に帰って来なさい!」

 静まり返っていた会場内に、お父様の怒鳴り声が響き渡った。
 
「お父様!」
 
 お姉様の焦る声でお父様は自分が失言したことに気が付いたようだった。

「あ、あの、今のは、その」

 お父様はよく失言をしている。
 今までは畏怖の念を覚える存在だったけれど、実際はそうでもなかったことがわかって、何だか馬鹿らしくなった。

「……わかっていますわ、お父様。私を鞭で打つことは必要な躾だったのですわよね」

 私の言葉が聞こえたのか、会場内がどよめいた。
 自分の娘を鞭で打つなんて、普通ではありえないことだからでしょう。
 
「ただ、そこまで私が悪いことをしていたでしょうか」
「お、おい、やめるんだ!」

 お父様が焦った様子で私に掴みかかろうとしてきた。
 でも、タキシード姿のエディ様が間に入って止めてくれる。

「今は僕が止めたから良いのですが、いつもは暴力をふるって、リネに自分の言うことを聞かせていたのですか?」
「そ、それは、その、今のは近寄ろうとしただけです」
 
 お父様は言い訳しようしたけれど、エディ様が信じる訳がなかった。

「そういえば、ベアル卿から聞きましたが、今、社交場では、こんな噂が流れているようですよ?」

 エディ様はわざと言葉を区切って、お父様たちの反応を見る。
 エディ様が言おうとしている話は、私もテッド様から聞いていた。

 だから、お父様だけでなく、お姉様の様子も確認してみる。

 最近は社交場に出ていないからか、自分の噂が流れていることを知らないみたいで不思議そうな顔をしている。

「ど、どんな噂なのです?」

 お父様が尋ねると、エディ様が私に尋ねてくる。

「リネから話す?」
「そうですね」

 守られてばかりではいけないと思っているのに、受け身状態になってしまっていた。
 だから、エディ様が私に声を掛けてくれたのは、本当に助かった。

「一体、どんな話をされているんだ?」

 お父様が私を見て話を促してくるので、お望み通りに正直に伝えることにする。

「お姉様が私のことを嫌っていて、影で嫌がらせをしていたり、いじめをするように指示していたという噂です」
「な、なんですって!?」

 お姉様はデイリ様の悪い噂を友人に流していたけれど、自分の噂がデイリ様から流されているだなんて思ってもいなかったみたいだった。

「私も直接聞いた話ではありませんが、嘘ではないので否定はしておりません」
「リネ!」

 私の言葉を聞いたお姉様だけではなく、お父様とお母様も私の名を叫んだ。

「リネ! ちゃんと否定しなさい! だから、トワナにパートナーが見つからなかったんだな! くそっ! なんて噂を流しているんだ!」

 お父様はそう叫ぶと、周りの人たちに向かって叫ぶ。

「誤解です! トワナはそんなことはしていません!」
「少なくともメイドが私に嫌がらせをすると、お金を渡して褒めていたのは間違いありません。わざと化粧を濃くさせたり」
「もうやめて!」

 お姉様は必死の形相で叫び、私の言葉を止めた。

「本当に起きていた出来事だから言われたくないのですよね?」 

 お姉様のお望み通りに話題を変えると、お姉様は私の睨みつけて歯を食いしばった。

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