人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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32.5 姉との一戦目④(トワナ視点)

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「あのメイドはクビだ! 長い間、甘い汁を吸わせてやったというのに恩知らずな奴だ!」

 お父様はニーソン公爵家から家に向かう馬車の中で、ずっと喚き散らしていた。

「あのメイドがクビだなんてことは言わなくても当たり前のことだわ。一歩たりとも屋敷の中に入れさせるものですか! 私物があるのなら燃やしてしまいましょう!」

 同じようにお母様も怒り、持っていたポーチを今にも破きそうなくらいに左右に引っ張っている。

 私も癇癪を起こしたいところだけれど、両親がこんな感じなら、私が冷静でいなければならないと思った。

 今日は初めてリネに負けたと思った。

 もちろん、リネが相手だからとなめきってしまっていたのも原因だと思っている。
 次に会う時には、こんな失態は絶対にしないわ。

 それにしても、私の噂を流したのは誰なのかしら。

「お父様、社交界に噂を流したのは誰だと思いますか?」
「わからない。リネから聞いたニーソン公爵が流したのかもしれないが……」
「デイリの可能性もありますわよね?」
「そうね。逆恨みしているのかもしれないわ」

 私の問いかけにお父様ではなく、お母様が頷く。

「私にこんな惨めな思いをさせたんだもの。絶対に許せないわ」
「そうだ。大体、家庭内のことを他人からどうこう言われる事自体おかしいんだ」

 お父様は少し落ち着いたかと思ったのに、また怒り始めた。

 私の味方になってくれるのは良いけれど、すぐにイライラして失言されるのは困るわ。

 少し落着いて物事が判断できるようになってほしあか。

「お父様、私のことは自分で何とかしますので、ご心配なさらないで? それよりも、リネのことはどうされるおつもりなのです?」
「……そうだな。縁を切ってやろうかと思っている」
「そうね、それが良いわ」

 お父様の言葉にお母様が何度も大きく頷く。

「私もそれが良いと思います」

 賛同すると、お父様たちは笑顔になった。

 縁を切ってしまえば、リネはエディ様と結婚できなくなる。

 だって、あの子はただの平民になるんだもの。
 ニーソン家は由緒ある公爵家なのだから、平民と息子を結婚させたりするわけにはいかないでしょう。

 ざまぁみろだわ。

 リネは今回の勝負には勝ったのかもしれないけれど、どちらが幸せになれるかの勝負では、私に完全敗北するのよ。

 そして、エディ様は私のもの。
 リネが平民になって路頭に迷ったとしても、すぐに死なないように助けてあげましょう。

 そして、私とエディ様の結婚式を見てもらい、絶望してもらいましょう。
 あの子はどんな顔をしてくれるかしら。
 その顔を見るのが楽しみだわ。

 リネ、今頃、あなたは私に勝利して喜んでいるかもしれない。

 だけど、最後に勝つのは私よ。

「でも、公爵家からの援助がなければ、ティファス家の財政があとどれくらい持つかわからないわ」
「そうだな。何とかしなければならない。リネから頼んでもらおうと思っていたのにあてが外れてしまったからな」

 お母様とお父様の顔からは怒りの色は一切なくなり、深刻そうな表情で話をしていた。

 だから、笑顔で話し掛ける。

「大丈夫ですわ。私が必ずエディ様を落としてみせますから」
「あ、ああ。そうだな。出来るだけ早くに頼むよ」
「では、新しいドレスや靴を買っていただけますか? 社交場に出るには古いドレスでは無理ですもの」
「そ、それは……」

 お父様とお母様は困ったような表情で顔を見合わせる。

「行きつけのお店が無理なら、新しいお店を探して買いましょう」
「あ、ああ、そうだな。いつか、公爵夫人になるのなら、安いものだものな」

 笑顔で言った私に、お父様は引きつった笑みを浮かべて頷いた。

 この時の私は、ドレスを買うお金の余裕がないほど、ティファス家がお金に困っているだなんて予想もしていなかった。

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