人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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46 姉との最終決戦⑤

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 トワナ様は私の着ているドレスを破かんばかりに強く引っ張って叫ぶ。

「あんたみたいなグズが変われるわけがない! どうせ、嘘の発言でもして、エディ様に取り入ったんでしょう!? それで変わった気になっているだけよ!」
「そんな事してないわ!」

 私が言い返した時、ガタンと音が聞こえて、私とトワナ様は一斉にそちらに顔を向ける。
 エディ様が立ち上がって、トワナ様を無言で睨みつけていた。

 口は出さないと言っていたから黙って睨んでくれているのだと思うと、つい気が緩んでしまいそうになる。

 でも、まだ駄目だ。

 トワナ様のほうに目を戻すと、しまったと言わんばかりの顔をして、私から距離を取った。
 乱れた胸元を直してから、トワナ様に尋ねる。

「トワナ様はどうしてそんなに私と張り合おうとするんです? 人の幸せなんてそれぞれ違うでしょう? あなたの目の前から鬱陶しい人間が消えたのに、どうして私に執着するんですか!」
「どうしてかって? あなたは自分の態度がどれだけ人を不快にさせたのかわかってるの? 人の顔色をうかがうのは悪いことではないわ。あなたみたいにヘラヘラ笑うものでもないけどね! だから、簡単に許せないのよ! それに私よりも幸せになるなんて絶対に認められない!」
  
 トワナ様はエディ様の前でも本性を出すことにしたのか、大声で叫んだ。
 そんな彼女にこちらは冷静に問いかける。

「ヘラヘラ笑ったりしていたことが気に食わなかったんですか?」
「それだけじゃないわ! さっさと言えばいいのに反応は遅い! これが欲しいって言ってるのにすぐに渡さない! もっと早くに渡しなさいよ!」
「あなたに話しかけるのが怖かったんです! 自分のことを嫌っている人間に話しかけることがどれだけ苦痛なのか、何を言っても傷つけられるとわかっていて話しかけることが、どれだけ勇気のいることだとわかっているんですか!」

 過去を思い出して、泣き出しそうになるのを必死にこらえる。

 私を見てクスクス笑う。
 コソコソ陰口を言う。
 そんな人に話しかけるなんて嫌だった。
 
 それでも、何も言わなければもっと言われてしまう。
 そう思って、勇気を振り絞って声を掛けた時に嘲笑される悲しみや辛さを知らないくせに。

 何が気に食わないのかも言わないくせに。
 私と同じで、一人じゃ大したことはできないくせに!

 トワナ様は私から視線を逸らして叫ぶ。

「な、何よ! 大きな声を出せば良いってもんじゃないわよ!」
「もういいかげんにしてください! 私にかまわないで!」
「それはこっちのセリフよ! エディ様、聞いてください! リネは昔から泣き虫で人をイライラさせる天才だったんです! あなたももうわかってきているのでしょう?」

 エディ様はトワナ様ではなく私のほうを見た。
 答えて良いのか聞いてくれているようだったので、無言で頷く。

 すると、エディ様は口を開く。

「口を挟まないと言っていたけど、勝手に思い込まれても困るから言わせてもらう」

 エディ様はテーブルを回り込んで、トワナ様の前に立った。

 トワナ様を見つめる眼差しは厳しいもので、トワナ様は恐怖を感じたのか後ろに下がる。
 そんな彼女を見て、エディ様は静かに話を続ける。

「僕はずっとリネに片思いをしていた。君がイライラしているというウジウジだって、僕には可愛いものだったよ。君は彼女の姉だった。そんなに苛ついているのなら、どうしてもっと早くにリネを変えようとしなかったんだ?」
「私がリネを変える? どうしてそんなことをしないといけないんですか!」
「……イライラしていたんだろ? なら、そうならない様に、リネに努力を促したのか?」

 エディ様に問われたトワナ様は唇を噛んで、視線を逸らした。

 エディ様が私を見つめてきたので、話を引き継ぐ。

「努力は促してませんよね? 冷たく当たったり、優しいふりをして嫌がらせをするだけ。もしくはメイドに指示をして嫌なことをしていた。嫌われていることがわかっていたし、話しかければ嫌な顔をされるとわかっていたから、それで余計に萎縮してしまったんです」
「でも、それはウジウジして良い理由にはならないわ!」
「そうです。でも、それが人を苛立たせることになるのだとわかっていなかった。自分の心を守ることで必死だった。人の言うことを聞けば、嫌われない、喜んでもらえると思っていたんです!」

 耳の近くに心臓があるのかと思うくらいに、どくどくと鼓動が大きく聞こえる。
 口から内蔵か飛び出てくるんじゃないかと思うくらいに苦しい。

「でも、今の私は違います。それが人を苛立たせる原因にもなるのだと気付いたから。トワナ様、これだけ言わせてもらいます」

 トワナ様は黙って私を睨みつけている。

「いじめられる側にも原因はあったかもしれません。ですが、いじめをするほうが悪いでしょう!? しなくても良いことをやったんですから! そんなに苛立つのなら関わらなければ良かっただけなんです」
「目の前にいるのに関わらなければいいなんてことはないでしょう!」
「他の人はできるのに、あなたはなぜ出来ないんですか!」
「周りの人間は臆病だからよ。悪者になるのが嫌なんでしょう」

 トワナ様は鼻で笑う。
 本人は、気付いていないみたいだから、私が教えてあげることにする。

「そうですよね。悪者になるのが嫌なんですよね」
「そうよ、悪者に……って、あなた、私を悪者にしようって言うの!」

 トワナ様はまた私の胸ぐらを掴んで叫ぶ。

「悪いのはあなたよ! あなたが生まれてこなければ、私はこんなにもイライラせずに済んだのに!」
「トワナ様。あなたも一度、私のような立場に置かれた人間の気持ちになってみればいいわ」

 トワナ様の手を振り払い、エディ様にお願いする。

「トワナ様は私の言葉に耳を傾ける気はないようです」
「そうだね。もう、リネはスッキリした?」

 スッキリしたかと言われると、まだだった。 
 伝えないといけないことだけ伝えておく。

 トワナ様に再度向き直り、ゆっくり言い聞かせるように話す。

「気付いていなかったとはいえ、苛立たせてしまったことには申し訳ないと思っています。でも、私はそれを理由に人を傷つけて良いなんて絶対に思いません。私にはトワナ様が私にしてきた、必要以上に人を攻撃する気持ちがわかりませんし、わかりたくもありません。でも、あなたには、される側の恐怖を味わっていただきたいと思います」
「私がそんな恐怖を味わうわけないでしょう! 気分を害したわ! 話はそれだけ? 今日は帰ります!」

 トワナ様は叫んで、逃げるように個室を出ていった。

 先日、トワナ様の元夫の家族から私に手紙が届いた。
 トワナ様は病弱な旦那様の食事に洗剤を少しずつ入れるようメイドに指示していたのだと書かれていた。
 そして、複数のメイドから証言が取れたから、トワナ様を訴えるつもりだとも書いてあった。
 だから、私達の話し合いが終わるまで待ってもらっていた。

 明日には、トワナ様の元に警察がやって来ることでしょう。

「さよなら、お姉様」

 トワナ様が消えていった扉を見つめて呟く。

 これで、本当に別れを告げられた気がした。





お読みいただき、ありがとうございます!
次の話はトワナ視点です。
明日には完結予定です。
もう少しだけお付き合いくださいませ。
 
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