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2 人生の岐路
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チモチノモ王国の王女、エルン・フルセッシュは金色のストレートの腰まである長い髪を背中に流し、青色の瞳を持つスラリとした体型の美女である。
多くの若い男性を虜にしている彼女は、婚約者がいるにも拘らず、気に入った男性を自分の部屋に呼ぶことを日課にしていた。
彼女の婚約者は隣国の若き国王である、ブレイズ・カイド。彼は両親が亡くなったため、わずか5歳の頃に王位を継いでいた。
両親の死を目の前で目撃したブレイズは精神的なショックで両親が死ぬ前までの記憶しかなく、20歳になった今でも精神と知能は幼いまま育ったとされている。
政治などは周りの大人がうまく取り計らい、穏やかな国民性もあって、国王が子供であってもそれを不安視する者は少なかった。というのも、不満のある者はすでに国外に出てしまっていた。
「何十年経っても心に付いた傷が癒えないことは理解できます。馬鹿にする方もいらっしゃいますが、同じ気持ちを味わったことがないから言えることでしょう。心ない声は気にせず、ブレイズ陛下には幸せになっていただきたいと思います」
「僕もそう思うが、相手がエルン王女ではどうかな」
「大丈夫ではないでしょうか」
(エルン王女と結婚して、陛下が幸せになれるとは思えないけれど、側近の方たちは有能な方ばかりみたいだし、エルン王女をうまく転がしてくれるでしょう)
シアルリアが社交場で聞いた話では、エルンはブレイズのことを馬鹿にしており、結婚については乗り気ではないとのことだった。
エルンは女性の友人は作らず、彼女の周りにいるのは若い男性ばかり。そんな彼女を叱るどころか擁護しているのが、現在の国王である。
多くの貴族は現国王に期待はしておらず、お飾りの国王として考えていた。この話は成人になった時に知らされることの一つでもある。
「まあ、僕らが心配するものでもないか。それよりもマロックと王女殿下のことだが」
「婚約者以外の人を好きになったり、体の関係を持ってはいけないというのは、幼いころから厳しく言われていることです。マロックだってわかっていると思います」
チモチノモ王国の貴族は愛人を作る行為や浮気、不倫などは処罰の対象になる。そのため、どの貴族の家も子供の頃から絶対にしてはいけないことだとすり込まれている。
(マロックは意志が弱いところがあるけれど、そこまで馬鹿じゃないはずよ)
シャインにはそう言ったシアルリアだったが、嫌な予感がして胸の上に手を当てた。
******
シアルリアがマロックと王女の話をシャインから聞いた3日後、王城で急遽、夜会が開かれると知らされた。
しかも開催日は10日後であり、あまりにも急な招待に多くの者は戸惑った。しかし、若者しか招待されていないことや、主催が王女ということで問題視されるようなことはなかった。
夜会当日、シアルリアを迎えに来たマロックは、どこか浮かない顔をしていた。
マロックはミナダ公爵家の長男だが、嫡子と決まっているわけではなかった。チモチノモ王国では跡継ぎが決まるのは跡継ぎ候補が成人してからであり、マロックには弟がいるため、弟が成人してから正式に決まることになっている。もし、それまでに不測の事態が起こった場合は、臨機応変に対応をすることになっている。
「どうかしました?」
「い……、いや。その、今日は君は行かないほうがいいんじゃないかと思って」
「どうしてです? 理由を教えていただけませんか?」
マロックの瞳の色である紫色のドレスに身を包み、シニヨンにした髪に大きな赤色の花のコサージュを付けたシアルリアは眉根を寄せた。
「君がどうしてもと言うんならいいんだ」
ダークブラウンの肩までの髪を青色の細いリボンで一つにまとめたマロックは、シアルリアの手を取って歩き出す。
(このリボンの色、エルン王女の瞳と同じ色だわ。マロックの態度といい、なんだか嫌な予感がする)
今日の夜会は兄は婚約者と一緒に出席する。何かあっても一人ではないと言い聞かせ、シアルリアは馬車に乗り込んだ。
3時間後、シアルリアは今日の会場であるダンスホールにいた。天井にはきらびやかなシャンデリア。壁際に置かれている調度品も宝石が散りばめられていて眩しいくらいだ。
マロックはダンスホールに入ると「用事があるんだ」と言って、シアルリアを置いてどこかへ行ってしまった。
パーティーの開始時間はもう迫っている。どこへ行ったのだろうと、シアルリアが出入り口に視線を向けたその時、テーブルの上の燭台のろうそく以外の灯りが全て消えた。
ダンスホール内が困惑の声に包まれた時、少しずつ灯りが戻り、先ほどまで誰もいなかった壇上に人が立っていることに、皆が気づいた。
シアルリアも壇上に視線を向けると、そこには、王女のエルンとマロックが立っていた。
エルンは冷たい笑みを浮かべて叫ぶ。
「シアルリア! どこにいる? お前に話がある!」
(マロックはこうなることを知っていたのね)
周りの視線が自分に集まっていることに気がついたシアルリアは深呼吸した。すると、シアルリアが一歩も動いていないにもかかわらず、多くの人間がシアルリアの姿を見失った。
シアルリアは気配を消したまま、センターステージに近づくと、壇上のエルンに話しかける。
「エルン王女殿下、私はこちらにおります」
「い、いつの間にいたんだ!? ま、まあいい」
紫色のイブニングドレスを着たエルンは動揺したものの、すぐに余裕の笑みを浮かべた。
「シアルリア、わたくしとマロックは愛し合っている。だから、お前は身を引け。そして、私の代わりにネノナカル王国の国王陛下のもとに嫁ぐのだ」
エルンはそう言って、隣に立つマロックの胸に頬を寄せた。
※
王国名ですが覚えにくい場合……というか、覚えにくいですので「モチモチノ王国」と「カネノナル王国」と思っていただけますと幸いです!
そして、私の皮膚についてのご心配くださった方へ。
個人的なお話を書いてくださっていましたので、非承認とさせていただいておりますが、お気持ち、本当に嬉しいです!
今は飲み薬で回復してきております。お気遣いいただき、本当にありがとうございました!
多くの若い男性を虜にしている彼女は、婚約者がいるにも拘らず、気に入った男性を自分の部屋に呼ぶことを日課にしていた。
彼女の婚約者は隣国の若き国王である、ブレイズ・カイド。彼は両親が亡くなったため、わずか5歳の頃に王位を継いでいた。
両親の死を目の前で目撃したブレイズは精神的なショックで両親が死ぬ前までの記憶しかなく、20歳になった今でも精神と知能は幼いまま育ったとされている。
政治などは周りの大人がうまく取り計らい、穏やかな国民性もあって、国王が子供であってもそれを不安視する者は少なかった。というのも、不満のある者はすでに国外に出てしまっていた。
「何十年経っても心に付いた傷が癒えないことは理解できます。馬鹿にする方もいらっしゃいますが、同じ気持ちを味わったことがないから言えることでしょう。心ない声は気にせず、ブレイズ陛下には幸せになっていただきたいと思います」
「僕もそう思うが、相手がエルン王女ではどうかな」
「大丈夫ではないでしょうか」
(エルン王女と結婚して、陛下が幸せになれるとは思えないけれど、側近の方たちは有能な方ばかりみたいだし、エルン王女をうまく転がしてくれるでしょう)
シアルリアが社交場で聞いた話では、エルンはブレイズのことを馬鹿にしており、結婚については乗り気ではないとのことだった。
エルンは女性の友人は作らず、彼女の周りにいるのは若い男性ばかり。そんな彼女を叱るどころか擁護しているのが、現在の国王である。
多くの貴族は現国王に期待はしておらず、お飾りの国王として考えていた。この話は成人になった時に知らされることの一つでもある。
「まあ、僕らが心配するものでもないか。それよりもマロックと王女殿下のことだが」
「婚約者以外の人を好きになったり、体の関係を持ってはいけないというのは、幼いころから厳しく言われていることです。マロックだってわかっていると思います」
チモチノモ王国の貴族は愛人を作る行為や浮気、不倫などは処罰の対象になる。そのため、どの貴族の家も子供の頃から絶対にしてはいけないことだとすり込まれている。
(マロックは意志が弱いところがあるけれど、そこまで馬鹿じゃないはずよ)
シャインにはそう言ったシアルリアだったが、嫌な予感がして胸の上に手を当てた。
******
シアルリアがマロックと王女の話をシャインから聞いた3日後、王城で急遽、夜会が開かれると知らされた。
しかも開催日は10日後であり、あまりにも急な招待に多くの者は戸惑った。しかし、若者しか招待されていないことや、主催が王女ということで問題視されるようなことはなかった。
夜会当日、シアルリアを迎えに来たマロックは、どこか浮かない顔をしていた。
マロックはミナダ公爵家の長男だが、嫡子と決まっているわけではなかった。チモチノモ王国では跡継ぎが決まるのは跡継ぎ候補が成人してからであり、マロックには弟がいるため、弟が成人してから正式に決まることになっている。もし、それまでに不測の事態が起こった場合は、臨機応変に対応をすることになっている。
「どうかしました?」
「い……、いや。その、今日は君は行かないほうがいいんじゃないかと思って」
「どうしてです? 理由を教えていただけませんか?」
マロックの瞳の色である紫色のドレスに身を包み、シニヨンにした髪に大きな赤色の花のコサージュを付けたシアルリアは眉根を寄せた。
「君がどうしてもと言うんならいいんだ」
ダークブラウンの肩までの髪を青色の細いリボンで一つにまとめたマロックは、シアルリアの手を取って歩き出す。
(このリボンの色、エルン王女の瞳と同じ色だわ。マロックの態度といい、なんだか嫌な予感がする)
今日の夜会は兄は婚約者と一緒に出席する。何かあっても一人ではないと言い聞かせ、シアルリアは馬車に乗り込んだ。
3時間後、シアルリアは今日の会場であるダンスホールにいた。天井にはきらびやかなシャンデリア。壁際に置かれている調度品も宝石が散りばめられていて眩しいくらいだ。
マロックはダンスホールに入ると「用事があるんだ」と言って、シアルリアを置いてどこかへ行ってしまった。
パーティーの開始時間はもう迫っている。どこへ行ったのだろうと、シアルリアが出入り口に視線を向けたその時、テーブルの上の燭台のろうそく以外の灯りが全て消えた。
ダンスホール内が困惑の声に包まれた時、少しずつ灯りが戻り、先ほどまで誰もいなかった壇上に人が立っていることに、皆が気づいた。
シアルリアも壇上に視線を向けると、そこには、王女のエルンとマロックが立っていた。
エルンは冷たい笑みを浮かべて叫ぶ。
「シアルリア! どこにいる? お前に話がある!」
(マロックはこうなることを知っていたのね)
周りの視線が自分に集まっていることに気がついたシアルリアは深呼吸した。すると、シアルリアが一歩も動いていないにもかかわらず、多くの人間がシアルリアの姿を見失った。
シアルリアは気配を消したまま、センターステージに近づくと、壇上のエルンに話しかける。
「エルン王女殿下、私はこちらにおります」
「い、いつの間にいたんだ!? ま、まあいい」
紫色のイブニングドレスを着たエルンは動揺したものの、すぐに余裕の笑みを浮かべた。
「シアルリア、わたくしとマロックは愛し合っている。だから、お前は身を引け。そして、私の代わりにネノナカル王国の国王陛下のもとに嫁ぐのだ」
エルンはそう言って、隣に立つマロックの胸に頬を寄せた。
※
王国名ですが覚えにくい場合……というか、覚えにくいですので「モチモチノ王国」と「カネノナル王国」と思っていただけますと幸いです!
そして、私の皮膚についてのご心配くださった方へ。
個人的なお話を書いてくださっていましたので、非承認とさせていただいておりますが、お気持ち、本当に嬉しいです!
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