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3 婚約破棄
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エルンの発言を聞いた招待客たちは、パートナーと小声で話を始める。
「マロック様、終わったな」
「信じられないわ。婚約者以外の人と愛し合うだなんていけない行為だと、幼い頃から散々言われてきたのに何を考えているのかしら」
成人している者たちの会話は全てこのようなものだが、未成年の者の反応は少し違った。
「マロック様が悪いことをしたのは確かだけど、相手は王女殿下だろ。公爵令嬢のシアルリア様と一緒になるより家のためになるんじゃないか?」
「ミナダ公爵閣下が許しているのであればいいのかもしれないけれど、勝手に決めていたのならいけないことだわ。浮気は重罪だと口うるさく言われてきたじゃないの」
「だけど、シアルリア様は人をいじめたり、マロック様以外の男を誘惑するような最低な人間だろ? そんな人と結婚するよりもエルン王女殿下と結婚するほうがいいに決まっている」
「それって、ただの噂でしょう? 私はシアルリア様が実際にそんなことをしているところなんて見たことがないわ」
「気配を消して、他の人に気づかれないようにやっているんじゃないか?」
シアルリアの存在は、また薄くなってしまっていた。そのため、エルンたちには聞こえないように小声で会話をしているが、シアルリアには丸聞こえだった。
そのため、シアルリアはニヤニヤと笑っている青年に話しかける。
「私はそんな卑怯な真似はしませんし、意地悪や浮気もしていません。ところで、あなたはどこの家の方でしょうか。あまり見ない顔ですわね」
なんとなく把握はできていたが、シアルリアがわざと冷たい口調で尋ねると、青年は顔を真っ青にして頭を下げる。
「申し訳ございません!」
「あなたの家名は、モウシワケゴザイマセンなのでしょうか」
「い、いえ、その、違います!」
「なら、名前を名乗ってくださる?」
「そ……、それはっ」
涙目になった青年を見て、シアルリアは興味をなくすと、エルンたちに視線を戻した。
「婚約の破棄と新たに婚約をしろとおっしゃるのでしょうか」
エルンはシアルリアの問いかけにうなずく。
「そうだ。なあ、マロック。お前は私を愛しているんだろう?」
「すまない、シアルリア! そういうことなんだ。僕は君との婚約を破棄して、エルン王女殿下と一緒になる!」
高らかに宣言したマロックにシアルリアは問いかける。
「マロック様、あなたは浮気はしてはいけないと、ご両親から教わっていないのでしょうか」
「そんなことはわかっている。だけど、先に裏切ったのは君だ!」
「私が裏切ったですって?」
驚いて聞き返した時、壇上に新たな人物が現れた。真っ白な服に赤いマント。身長は低いが横に大きく、でっぷりとしたお腹はまるで腰のベルトにのっているように見える。
「お父様! ちょうどいいところに来てくださいました!」
エルンが駆け寄ると、チモチノモ王国の国王はだらしない笑みを浮かべる。
「おお。可愛いエルン。どうしたのかな」
「私とマロックが愛し合っていると伝えても、シアルリアが納得してくれないのです」
「何だと!?」
国王は亡き妻にそっくりのエルンが可愛くて仕方がなかった。彼女のためなら自分以外は何を犠牲にしても良かった。
激昂した国王は勢いよくステージから下りてくると、カーテシーをしたシアルリアの頬を打った。
「この浮気女めが! 自分が先に浮気しておいてよくもそんなことを!」
そう言いながら、まるでストレスを発散するかのように何度もシアルリアの頬を打つ。
「この! 気持ち悪い女め!」
「陛下! おやめください!」
人をかき分けて、シャインがシアルリアのところにやって来てやっと、国王はシアルリアの頬を打つのをやめた。
「一国の国王がする行為とは思えません。妹が浮気をしたという証拠はあるのですか」
「ふん。顔の形が変わるくらい殴ってやりたいが、そうすると不細工すぎてネノナカル王国の国王に拒否されるかもしれん。これくらいで許してやろう」
国王はシャインの圧に怯み、エルンの元へと急ぎ足で戻っていく。
(こんな人が国王だなんて信じられない。どうして多くの貴族は何も言わずに放置してきたの?)
痛む頬を押さえながら、シアルリアは必死に怒りの根性を押し殺した。
「ざまぁみろ。バチが当たったんだ」
クスクスと笑うのは少数派で、他の人間に睨まれてすぐに口を閉じたが、シアルリアは誰が笑っていたか、しっかりと顔は確認しておいた。
(何かあった時に助けを求めてきても、私は絶対に助けないわ)
やってはいけないと言われたことを守れない人間がいるがために、成人になるまで自分たちが試されていることを、シアルリア含む未成年の貴族や王族たちは気づいていなかった。
「婚約者を変更したいという話はネノナカル王国の国王に連絡しておいた。シアルリア、お前は許可が出次第、ネノナカル王国に嫁ぐのだ。王女の心を傷つける者など、チモチノモ王国に存在してはならん!」
国王とエルン、マロック、そして少数の若者だけがシアルリアを見て嘲笑したが、多くは王族やマロックを軽蔑していた。当の本人たちはそんなことには気が付かず、苦々しい表情をしているのは、自分たちではなくシアルリアに対してだと思い込んでいた。
「シアルリア、ネノナカル王国で幸せになってくれ」
「君との婚約は今この場で破棄された。きっと、ネノナカルの国王陛下は僕よりも君を大事にしてくれるよ。お互いに幸せになろう」
エルンとマロックは、シアルリアを見つめて笑った。
この時にシアルリアを嘲笑した者たちは、あとになってこの行為を死ぬほど悔やむことになるのだが、そんなことになるとは考えもしていなかった。
「マロック様、終わったな」
「信じられないわ。婚約者以外の人と愛し合うだなんていけない行為だと、幼い頃から散々言われてきたのに何を考えているのかしら」
成人している者たちの会話は全てこのようなものだが、未成年の者の反応は少し違った。
「マロック様が悪いことをしたのは確かだけど、相手は王女殿下だろ。公爵令嬢のシアルリア様と一緒になるより家のためになるんじゃないか?」
「ミナダ公爵閣下が許しているのであればいいのかもしれないけれど、勝手に決めていたのならいけないことだわ。浮気は重罪だと口うるさく言われてきたじゃないの」
「だけど、シアルリア様は人をいじめたり、マロック様以外の男を誘惑するような最低な人間だろ? そんな人と結婚するよりもエルン王女殿下と結婚するほうがいいに決まっている」
「それって、ただの噂でしょう? 私はシアルリア様が実際にそんなことをしているところなんて見たことがないわ」
「気配を消して、他の人に気づかれないようにやっているんじゃないか?」
シアルリアの存在は、また薄くなってしまっていた。そのため、エルンたちには聞こえないように小声で会話をしているが、シアルリアには丸聞こえだった。
そのため、シアルリアはニヤニヤと笑っている青年に話しかける。
「私はそんな卑怯な真似はしませんし、意地悪や浮気もしていません。ところで、あなたはどこの家の方でしょうか。あまり見ない顔ですわね」
なんとなく把握はできていたが、シアルリアがわざと冷たい口調で尋ねると、青年は顔を真っ青にして頭を下げる。
「申し訳ございません!」
「あなたの家名は、モウシワケゴザイマセンなのでしょうか」
「い、いえ、その、違います!」
「なら、名前を名乗ってくださる?」
「そ……、それはっ」
涙目になった青年を見て、シアルリアは興味をなくすと、エルンたちに視線を戻した。
「婚約の破棄と新たに婚約をしろとおっしゃるのでしょうか」
エルンはシアルリアの問いかけにうなずく。
「そうだ。なあ、マロック。お前は私を愛しているんだろう?」
「すまない、シアルリア! そういうことなんだ。僕は君との婚約を破棄して、エルン王女殿下と一緒になる!」
高らかに宣言したマロックにシアルリアは問いかける。
「マロック様、あなたは浮気はしてはいけないと、ご両親から教わっていないのでしょうか」
「そんなことはわかっている。だけど、先に裏切ったのは君だ!」
「私が裏切ったですって?」
驚いて聞き返した時、壇上に新たな人物が現れた。真っ白な服に赤いマント。身長は低いが横に大きく、でっぷりとしたお腹はまるで腰のベルトにのっているように見える。
「お父様! ちょうどいいところに来てくださいました!」
エルンが駆け寄ると、チモチノモ王国の国王はだらしない笑みを浮かべる。
「おお。可愛いエルン。どうしたのかな」
「私とマロックが愛し合っていると伝えても、シアルリアが納得してくれないのです」
「何だと!?」
国王は亡き妻にそっくりのエルンが可愛くて仕方がなかった。彼女のためなら自分以外は何を犠牲にしても良かった。
激昂した国王は勢いよくステージから下りてくると、カーテシーをしたシアルリアの頬を打った。
「この浮気女めが! 自分が先に浮気しておいてよくもそんなことを!」
そう言いながら、まるでストレスを発散するかのように何度もシアルリアの頬を打つ。
「この! 気持ち悪い女め!」
「陛下! おやめください!」
人をかき分けて、シャインがシアルリアのところにやって来てやっと、国王はシアルリアの頬を打つのをやめた。
「一国の国王がする行為とは思えません。妹が浮気をしたという証拠はあるのですか」
「ふん。顔の形が変わるくらい殴ってやりたいが、そうすると不細工すぎてネノナカル王国の国王に拒否されるかもしれん。これくらいで許してやろう」
国王はシャインの圧に怯み、エルンの元へと急ぎ足で戻っていく。
(こんな人が国王だなんて信じられない。どうして多くの貴族は何も言わずに放置してきたの?)
痛む頬を押さえながら、シアルリアは必死に怒りの根性を押し殺した。
「ざまぁみろ。バチが当たったんだ」
クスクスと笑うのは少数派で、他の人間に睨まれてすぐに口を閉じたが、シアルリアは誰が笑っていたか、しっかりと顔は確認しておいた。
(何かあった時に助けを求めてきても、私は絶対に助けないわ)
やってはいけないと言われたことを守れない人間がいるがために、成人になるまで自分たちが試されていることを、シアルリア含む未成年の貴族や王族たちは気づいていなかった。
「婚約者を変更したいという話はネノナカル王国の国王に連絡しておいた。シアルリア、お前は許可が出次第、ネノナカル王国に嫁ぐのだ。王女の心を傷つける者など、チモチノモ王国に存在してはならん!」
国王とエルン、マロック、そして少数の若者だけがシアルリアを見て嘲笑したが、多くは王族やマロックを軽蔑していた。当の本人たちはそんなことには気が付かず、苦々しい表情をしているのは、自分たちではなくシアルリアに対してだと思い込んでいた。
「シアルリア、ネノナカル王国で幸せになってくれ」
「君との婚約は今この場で破棄された。きっと、ネノナカルの国王陛下は僕よりも君を大事にしてくれるよ。お互いに幸せになろう」
エルンとマロックは、シアルリアを見つめて笑った。
この時にシアルリアを嘲笑した者たちは、あとになってこの行為を死ぬほど悔やむことになるのだが、そんなことになるとは考えもしていなかった。
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