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14 誕生日プレゼント
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「本当に申し訳ございませんでした!」
部屋に入るなり、背を向けていたブレイズがくるりと体の向きを変えて、シアルリアに頭を下げた。
あまりの勢いの良さに驚きつつも、平静を装って応える。
「気になさらないでください。それよりも詳しい話を聞かせていただけますか?」
誕生日プレゼントも気になるが、やはり、ブレイズ自身のことが気になった。
「立ったままで話すのもなんだから座ろうか」
「ありがとうございます」
何度も入ったことのある部屋の中だが、今日は書物机の上にオレンジ色のリボンがかけられた長方形の白い箱が置かれている。そちらはあまり見ないようにして、部屋の中央にある黒色のソファに二人で並んで腰掛けた。
間を置かずに、シアルリアは質問する。
「あの、いつから記憶が戻っていたのですか?」
「正確に言うと、記憶は戻っていないんだ。両親が亡くなったと聞かされた後からの記憶はある」
「そうだったのですね。そのことがわかったのはいつなのです?」
「婚約者の変更を言われた時だ。その日の夜に夢を見たんだよ」
「……夢ですか。それにしても、本当に最近のお話なんですね」
夢の内容が嫌なものであったならば良くないと思い、詳しくは触れないことにした。
(初めて会った時、ガズク陛下へ感じた殺気は、やっぱりブレイズ陛下のものだったのね。でも、記憶が戻っていないのなら、ご両親の死を受け止められていないということだわ。……無理もないけど)
いくら大人になったからといっても、人の死は心に大きく響くものである。自己防衛が働いているのだと、彼女は納得した。
「シアには話さないといけないと思っていたんだが、ベルノスたちに止めれられていた」
「それは仕方のないことですわ。私とブレイズ陛下は会ってからそう日は経っていません。慎重になるのは当たり前です」
「そう言ってくれると有り難い。だが、嘘をつくのはよくない」
「ブレイズ陛下場合は嘘とは思いません。ところで、どれくらいの人がこのことを知っているのでしょうか」
「明らかに暗殺に関わっていないとわかっている人間にだけ伝えている」
眉間に深いシワを作ったブレイズに尋ねる。
「犯人は捕まったのではないのですか?」
「実行犯は捕まったけど、指示した奴がまだなんだ」
「……そうでしたか。失礼いたしました」
勉強不足を詫びると、彼は穏やかな笑みを浮かべる。
「気にしなくていい。詳しい内容は他国には伝えていないんだ。シアが知らなくてもおかしくない」
ブレイズの両親が亡くなったのは、シアルリアが幼い頃の話である。物心ついてから興味を持って聞いてみたものの、大人たちからは詳しい内容を教えてもらえなかった。
(気にはなるけれど、ブレイズ陛下に聞く話ではないわね。まずは、侍女に聞いてみようかしら)
現在、彼女の侍女はネノナカル王国の人間だ。年はシアルリアと変わらないが、王城で働くことが許される人間なのであれば、ある程度のことを知っていると思った。
シアルリアはブレイズの手を取って尋ねる。
「ブレイズ陛下が私に知られたくないことはありますか?」
「……過去の自分かな。最近は演技だったけど、それまでは本当に虫を追いかけていたから。今日だって、昔の俺なら捕まえた虫を君に見せに来ていたと思う」
「そ、そうならなくて良かったです」
チモチノモ王国の多くの令嬢は虫が苦手で、シアルリアも例に漏れない。
虫を見せに来られても嬉しくないし、反応に困っていただろう。
「そうだ。大事なことを後回しにしていた」
ブレイズは立ち上がると、机の上に置いてあった箱を手に取って戻ってくる。嬉しそうに笑いながら横に座り、シアルリアに箱を差し出す。
「改めて、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
手のひらよりも少し大きめの箱を受け取り、微笑んで礼を言った。
「開けてみても良いでしょうか」
「もちろん」
丁寧にリボンをほどいて蓋を取ると、中にはプラチナのネックレスが入っていた。小花がモチーフになっていて、花びらの部分に宝石が埋め込まれている。
「ネノナカル王国でネックレスをプレゼントするのはお守りの意味もあるんだ」
「……お守りの意味以外にも何かあるのですか?」
「あ、あるけど……」
なんとなく聞いただけだったが、ブレイズの顔が耳まで赤くなったので微笑む。
「他にも良い意味があると思っていいのでしょうか」
「……うん」
目を背けたままの彼を見つめ、シアルリアはネックレスの入った箱を自分の胸に当てた。
「本当に嬉しいです。ありがとうございます。大事にします」
(私たちの国ではネックレスをプレゼントする意味は永遠の愛だったりするのだけど、そうだったら嬉しい)
彼女の反応を見たブレイズは、満面の笑みを浮かべた。
「喜んでもらえて良かった。今日はもう遅いし、部屋まで送る。明日、またゆっくり話そう」
「部屋はすぐそこですから、一人で帰れますわ」
「いいから。少しでも一緒にいたいんだよ」
「……では、お願いいたします」
頭を下げて立ち上がると、手を優しく握られた。照れくささはあったが、まったく嫌悪感は湧かなかった。
今まではエルンたちが来たらどうなるかという不安があったが、今のブレイズを見たシアルリアの不安は、すっかり消えてなくなった。
部屋に入るなり、背を向けていたブレイズがくるりと体の向きを変えて、シアルリアに頭を下げた。
あまりの勢いの良さに驚きつつも、平静を装って応える。
「気になさらないでください。それよりも詳しい話を聞かせていただけますか?」
誕生日プレゼントも気になるが、やはり、ブレイズ自身のことが気になった。
「立ったままで話すのもなんだから座ろうか」
「ありがとうございます」
何度も入ったことのある部屋の中だが、今日は書物机の上にオレンジ色のリボンがかけられた長方形の白い箱が置かれている。そちらはあまり見ないようにして、部屋の中央にある黒色のソファに二人で並んで腰掛けた。
間を置かずに、シアルリアは質問する。
「あの、いつから記憶が戻っていたのですか?」
「正確に言うと、記憶は戻っていないんだ。両親が亡くなったと聞かされた後からの記憶はある」
「そうだったのですね。そのことがわかったのはいつなのです?」
「婚約者の変更を言われた時だ。その日の夜に夢を見たんだよ」
「……夢ですか。それにしても、本当に最近のお話なんですね」
夢の内容が嫌なものであったならば良くないと思い、詳しくは触れないことにした。
(初めて会った時、ガズク陛下へ感じた殺気は、やっぱりブレイズ陛下のものだったのね。でも、記憶が戻っていないのなら、ご両親の死を受け止められていないということだわ。……無理もないけど)
いくら大人になったからといっても、人の死は心に大きく響くものである。自己防衛が働いているのだと、彼女は納得した。
「シアには話さないといけないと思っていたんだが、ベルノスたちに止めれられていた」
「それは仕方のないことですわ。私とブレイズ陛下は会ってからそう日は経っていません。慎重になるのは当たり前です」
「そう言ってくれると有り難い。だが、嘘をつくのはよくない」
「ブレイズ陛下場合は嘘とは思いません。ところで、どれくらいの人がこのことを知っているのでしょうか」
「明らかに暗殺に関わっていないとわかっている人間にだけ伝えている」
眉間に深いシワを作ったブレイズに尋ねる。
「犯人は捕まったのではないのですか?」
「実行犯は捕まったけど、指示した奴がまだなんだ」
「……そうでしたか。失礼いたしました」
勉強不足を詫びると、彼は穏やかな笑みを浮かべる。
「気にしなくていい。詳しい内容は他国には伝えていないんだ。シアが知らなくてもおかしくない」
ブレイズの両親が亡くなったのは、シアルリアが幼い頃の話である。物心ついてから興味を持って聞いてみたものの、大人たちからは詳しい内容を教えてもらえなかった。
(気にはなるけれど、ブレイズ陛下に聞く話ではないわね。まずは、侍女に聞いてみようかしら)
現在、彼女の侍女はネノナカル王国の人間だ。年はシアルリアと変わらないが、王城で働くことが許される人間なのであれば、ある程度のことを知っていると思った。
シアルリアはブレイズの手を取って尋ねる。
「ブレイズ陛下が私に知られたくないことはありますか?」
「……過去の自分かな。最近は演技だったけど、それまでは本当に虫を追いかけていたから。今日だって、昔の俺なら捕まえた虫を君に見せに来ていたと思う」
「そ、そうならなくて良かったです」
チモチノモ王国の多くの令嬢は虫が苦手で、シアルリアも例に漏れない。
虫を見せに来られても嬉しくないし、反応に困っていただろう。
「そうだ。大事なことを後回しにしていた」
ブレイズは立ち上がると、机の上に置いてあった箱を手に取って戻ってくる。嬉しそうに笑いながら横に座り、シアルリアに箱を差し出す。
「改めて、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
手のひらよりも少し大きめの箱を受け取り、微笑んで礼を言った。
「開けてみても良いでしょうか」
「もちろん」
丁寧にリボンをほどいて蓋を取ると、中にはプラチナのネックレスが入っていた。小花がモチーフになっていて、花びらの部分に宝石が埋め込まれている。
「ネノナカル王国でネックレスをプレゼントするのはお守りの意味もあるんだ」
「……お守りの意味以外にも何かあるのですか?」
「あ、あるけど……」
なんとなく聞いただけだったが、ブレイズの顔が耳まで赤くなったので微笑む。
「他にも良い意味があると思っていいのでしょうか」
「……うん」
目を背けたままの彼を見つめ、シアルリアはネックレスの入った箱を自分の胸に当てた。
「本当に嬉しいです。ありがとうございます。大事にします」
(私たちの国ではネックレスをプレゼントする意味は永遠の愛だったりするのだけど、そうだったら嬉しい)
彼女の反応を見たブレイズは、満面の笑みを浮かべた。
「喜んでもらえて良かった。今日はもう遅いし、部屋まで送る。明日、またゆっくり話そう」
「部屋はすぐそこですから、一人で帰れますわ」
「いいから。少しでも一緒にいたいんだよ」
「……では、お願いいたします」
頭を下げて立ち上がると、手を優しく握られた。照れくささはあったが、まったく嫌悪感は湧かなかった。
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