17 / 29
16 王女の来訪 ②
しおりを挟む
エルンと共にマロックが来ることは知っていたが、シアルリアとしては複雑な気持ちだった。
(エルン王女たちに会いたくないけれど、姿を見せなければ、私とブレイズ陛下がう上手くいっていないように思われてしまうかもしれない)
エルンたちを少しでも喜ばせたくなかった。
式はまだだが、先日、結婚の契約書を結んだため、彼女とブレイズは夫婦になっている。そのことは国民には明日の朝の新聞で知らされることになっていた。
「緊張してるのか?」
ブレイズと共に謁見の間に向かっている途中、黙り込んでいたからか、そう問いかけられた。
「……そうですね。本人たちを前にして冷静でいられるかどうか、少し心配になってきました」
「シアなら大丈夫だよ。あまりにも感情的になっていたら、俺が話を進めるから心配するな」
「ありがとうございます。ところで、二人の前では子供のふりをするのですか?」
「最初はそうするよ。何を考えているのか知りたいからな」
「では、私は陛下が演技をしている間は、話を合わせることにします」
エルンたちの言おうとしていることなど、大体の予想はついている。二人でシミュレーションはしているが、予想通りの展開になるとは限らない。
シアルリアは気持ちを切り替えると共に、気を引き締め直した。
今までは玉座を見上げる位置に立っていた彼女だが、今日は違う。豪奢な玉座の斜め後ろに、控えめな装飾の椅子が置かれており、シアルリアはそこに座ることが決まっていた。
王妃という重責を担うことは覚悟していたつもりだが、やはり、今まで立ったことのない位置にいると不安からか体が重く感じられた。
「ブレイズ陛下!」
エルンの弾んだ声が聞こえた瞬間、シアルリアは目を見開く。
(前回は婚約者を奪われてしまった。今回は負けないわ)
シアルリアはエルンに軽く一礼したあと、王妃が座る椅子の前に立つ。ブレイズが座ってからでないと腰を下ろすことはできない。
十数段下には着飾ったエルンとジャケットとスラックス姿のマロックがいた。マロックはシアルリアを見つめて口を開こうとしたが、エルンが先に話し始める。
「陛下にお会いできて光栄です。お元気そうで良かったですわ」
「それはどうもありがとう。で、俺はあなたたちに用事がないんだ。帰ってくれる?」
「陛下、私が正式なあなたのお嫁さんです」
「断ってきたのはそっちだろ。俺のお嫁さんはシアだ。あなたじゃない」
ぷいっとブレイズがそっぽを向くと、エルンは笑う。
「陛下では話になりませんわね。大人だけで話しますから、宰相を読んでいただけませんか」
「そんなことはしなくていい。俺の話なんだから俺が決める!」
「おい、マロック!」
頑なな態度に苛立ったのか、エルンは黙ったままのマロックを促す。
「お前とシアルリアは愛し合っていたのだろう? 彼女を自分に返してもらうように訴えろ!」
「は、はい!」
マロックはうなずくと、冷ややかな目で自分を見つめているシアルリアに話しかける。
「シアルリア、悪かった。やっと目が覚めたんだ。君への愛が蘇った。ブレイズ陛下と結婚するのはやめて、僕と一緒になってくれ!」
「陛下、話をしてもよろしいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
シアルリアはブレイズに許可を取ってから立ち上がり、マロックの目を見据えた。
「私はブレイズ陛下と結婚したの。あきらめてちょうだい。結婚していなくても、あなたを選ぶことはないけどね」
「「なんだって!?」」
マロックとエルンが大きな声で聞き返した。
(エルン王女たちに会いたくないけれど、姿を見せなければ、私とブレイズ陛下がう上手くいっていないように思われてしまうかもしれない)
エルンたちを少しでも喜ばせたくなかった。
式はまだだが、先日、結婚の契約書を結んだため、彼女とブレイズは夫婦になっている。そのことは国民には明日の朝の新聞で知らされることになっていた。
「緊張してるのか?」
ブレイズと共に謁見の間に向かっている途中、黙り込んでいたからか、そう問いかけられた。
「……そうですね。本人たちを前にして冷静でいられるかどうか、少し心配になってきました」
「シアなら大丈夫だよ。あまりにも感情的になっていたら、俺が話を進めるから心配するな」
「ありがとうございます。ところで、二人の前では子供のふりをするのですか?」
「最初はそうするよ。何を考えているのか知りたいからな」
「では、私は陛下が演技をしている間は、話を合わせることにします」
エルンたちの言おうとしていることなど、大体の予想はついている。二人でシミュレーションはしているが、予想通りの展開になるとは限らない。
シアルリアは気持ちを切り替えると共に、気を引き締め直した。
今までは玉座を見上げる位置に立っていた彼女だが、今日は違う。豪奢な玉座の斜め後ろに、控えめな装飾の椅子が置かれており、シアルリアはそこに座ることが決まっていた。
王妃という重責を担うことは覚悟していたつもりだが、やはり、今まで立ったことのない位置にいると不安からか体が重く感じられた。
「ブレイズ陛下!」
エルンの弾んだ声が聞こえた瞬間、シアルリアは目を見開く。
(前回は婚約者を奪われてしまった。今回は負けないわ)
シアルリアはエルンに軽く一礼したあと、王妃が座る椅子の前に立つ。ブレイズが座ってからでないと腰を下ろすことはできない。
十数段下には着飾ったエルンとジャケットとスラックス姿のマロックがいた。マロックはシアルリアを見つめて口を開こうとしたが、エルンが先に話し始める。
「陛下にお会いできて光栄です。お元気そうで良かったですわ」
「それはどうもありがとう。で、俺はあなたたちに用事がないんだ。帰ってくれる?」
「陛下、私が正式なあなたのお嫁さんです」
「断ってきたのはそっちだろ。俺のお嫁さんはシアだ。あなたじゃない」
ぷいっとブレイズがそっぽを向くと、エルンは笑う。
「陛下では話になりませんわね。大人だけで話しますから、宰相を読んでいただけませんか」
「そんなことはしなくていい。俺の話なんだから俺が決める!」
「おい、マロック!」
頑なな態度に苛立ったのか、エルンは黙ったままのマロックを促す。
「お前とシアルリアは愛し合っていたのだろう? 彼女を自分に返してもらうように訴えろ!」
「は、はい!」
マロックはうなずくと、冷ややかな目で自分を見つめているシアルリアに話しかける。
「シアルリア、悪かった。やっと目が覚めたんだ。君への愛が蘇った。ブレイズ陛下と結婚するのはやめて、僕と一緒になってくれ!」
「陛下、話をしてもよろしいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
シアルリアはブレイズに許可を取ってから立ち上がり、マロックの目を見据えた。
「私はブレイズ陛下と結婚したの。あきらめてちょうだい。結婚していなくても、あなたを選ぶことはないけどね」
「「なんだって!?」」
マロックとエルンが大きな声で聞き返した。
1,278
あなたにおすすめの小説
ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi
恋愛
醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!
婚約破棄の理由? それは・・・坊やだからさっ!!
月白ヤトヒコ
恋愛
貴族学園の長期休暇の前には、実家のある領地へ帰ったりして、しばらく会えなくなる生徒達のために全学年合同の交流会のパーティーが行われます。
少々と言いますか、以前から嫌な予感はしておりましたが――――
わたくし達の一つ下の学年に、元平民の貴族令嬢が転入して来てから、殿下やその側近の方々はその令嬢を物珍しく思ったようでした。
その物珍しさから興味を惹かれたのでしょう……やがて、巷で流行っている恋愛小説ような展開が始まってしまったのです。
「貴様は、下位貴族の養子になったばかりの彼女を元平民だからと見下し、理不尽に虐げた! そんな心根の卑しく傲慢な者は未来の王太子妃に相応しくない! よって、貴様との婚約を破棄する!」
そう、まるで、巷で流行っているような恋愛小説の一幕のように――――
わたくしは、ショックを受けて……
「なぜ、このようなことをなさるのですか? 殿下……」
自分でも驚く程に弱々しい声で訊ねていました。すると、
「婚約破棄の理由? それは・・・坊やだからさっ!!」
艶やかながらも強い覇気のあるハスキーな声が、会場中に響き渡りました。
設定はふわっと。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』
恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り
リリアーナ・レーヴェン(17)
容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる
完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢”
エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生
ユリウス・エルンスト(17)
誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“
祖父たちが、親しい学友であった縁から
エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに
5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。
果たして、この婚約は”政略“なのか?
幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー
今日もリリアーナの胸はざわつく…
🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる