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第30話 明るい未来へ

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 シルフィーの家から出て行ったアバホカ陛下は、そのまま帰国したようでした。

 彼は城に帰ってから、本格的にアッセルフェナムの輸出を止める事について指示をする事でしょう。

 彼の言う事を止められる人はいませんから、本当に色々なものの出荷が止められてしまうはず。

 シルフィーの屋敷からの帰りの馬車の中で、やはり国民の為には私がノルドグレンに帰るべきだったのかと考えていると、向かいに座っているライト様が話しかけてきました。

「そんなに心配しなくてもいい。こうなる事は予測していた」
「どういう事ですか?」
の事を好きだという事はわかっていたし、資源については切り札にしてくるだろうという事は予想が出来ていた」
「では、何か対応策があるのですか?」
「ああ。ノルドグレン程ではないが、他の国でも資源は取れる。少し前から交渉をして、今、アッセルフェナムがノルドグレンと取引している値段で他国から買えるようにしたんだ」
「そ、そうなんですか!? でも、それで足りるのですか…?」

 ノルドグレンからのアッセルフェナムへの輸出量は桁違いです。
 それを賄えるというのでしょうか。

「うちの国も全く資源がないわけじゃない。それに、元々、俺が陛下に相談する前から、陛下も官僚もノルドグレン一国に頼ってばかりではいけないと考えていたらしいんだ」
「…どういう事ですか?」
「ノルドグレンとの関係が悪化すれば、この国は困る事になる。だから、頼りすぎていてもいけない。自国で生産できるものは生産し、無理なものに関しては他の国から輸入するなど、方法を考えないといけないという話をしていたらしい」
「それはそうかもしれませんね。いつまでも良好な関係が続くとも限りませんし、食物などに関しては、アッセルフェナムは気候が安定している土地ですから、大きな不作になる事もそうないでしょうから良いかと思われます」
「仕事がないと嘆いている人間もいるから、良い働き場所になるだろうしな」

 ライト様が笑顔を作って言いました。
 
 ここ最近のライト様は昔みたいな怖い笑い方はされません。
 ひきつった笑い方でもなくて、本当に微笑といった感じで笑われるようになりました。

 そして、その笑顔を見て自覚してしまったのです。
 今更ですが、私はライト様に恋をしてしまったという事を。

 こんな気持ちは初めてで、どうしたら良いのかわかりません。

 そして、この気持ちを伝えてもいいものなのかも。

 結局、この気持ちをどうするか答えが出ないまま、私達を乗せた馬車はアーミテム公爵邸に着いてしまったのでした。




 数日後、シルフィーの情報が私の耳に入ってきました。
 シルフィーはその後、騙したという理由でデイノル様から離縁され屋敷を追い出されたようでした。
 最初は屋敷の前で「許してほしい」と叫んでいたそうですが、最終的にはデイノル様が自分の騎士を使い、シルフィーをカサオンバ家から遠く離れた森の中に捨てたんだそうです。

 シルフィーは自分を置いて走って戻る騎士達を必死に追いかけていたようですが、彼女には体力もなく、すぐに力尽き、その場にしゃがみこんでからは追いかけてくる事はなく、ただ、彼女の泣き叫ぶ声だけが森に響いていたそうです。

 それから、シルフィーがどうなったかはわかりません。
 そのまま死んでしまったのか。
 それとも無事に森から出られたのか…。

 ただ、もう二度と会う事はないでしょう。

 そして、アバホカ陛下は彼が宣言していた様に、アッセルフェナムへの資源の輸出を止めました。
 もちろん、アッセルフェナム側も最初は混乱したようですが、、ナトマモ陛下が手を打ってくださっていたおかげで、国民の一部に支障は出ましたが、すぐにそれも解消され、今では今まで通り変わらない生活を送れています。

 アッセルフェナムへの輸出で大部分のお金を稼いでいた事もあり、逆にノルドグレンの経済が危なくなった為、不満がたまり始めた国民達がクーデターを起こすのではないかと、ライト様が教えてくれました。

「今まではクーデターなど起きないと思っていたのですが…?」
「経済が止まってしまっているからお金が入ってこないだろう? そうなると、今まで無償で出来ていたものができなくなる。それにフローレンスがまだ王妃でもないのに、アバホカ陛下がいないあいだに無駄遣いをしまくったようで、国の財政がだいぶ厳しいらしい」
「そんな短期間であんなに黒字だった国を赤字にしてしまうなんて、どんな使い方を!?」
「さあな。聞くだけでも頭が痛くなりそうで聞いていない。まあ、しばらくしたら無駄遣いどころか幽閉生活だろうな」

 ライト様が言っていた通り、それから数カ月後、ノルドグレンでクーデターが起き、アバホカ陛下と王妃候補だったフローレンス様は反乱軍に捕まり、2人は現在、城の地下牢に幽閉されていると聞きました。

 陛下の愛人だった3人は現在、アーミテム家で私の侍女として暮らしてくれていて、彼女達の恋人も使用人や騎士として働いてくれており、心配していたシーンウッドも現在は、私のフットマンとして働いてくれています。

 お兄様は国に残っていて、今は色々と忙しいようですが、クーデターに巻き込まれる事もなく、お元気そうなので良かったです。

 そして、私とライト様の関係性も、今ではだいぶ変わっておりました。

「リーシャ、まだ仕事をしてるのか?」
「はい! 事業を立ち上げましたし、公爵夫人としての仕事もありますし、やる事がいっぱいです!」

 私の執務室にやって来たライト様が眉根を寄せて言うので、ペンを机の上に置いて笑顔で答えると、ライト様は小さく息を吐いてから、私の後ろに回ったかと思うと、私の腰を両手で掴んで立ち上がらせてくれました。

「俺はもう仕事を終えて帰ってきたんだから、一緒に食事をしよう」
「はい! そう言われてみれば、お腹もペコペコです」
「俺が家に帰ってくる時間なんだから、そりゃそうなるだろう。ちゃんと昼は食べたのか?」
「シーンウッドがうるさいので食べてますよ」

 執務室を出て、ライト様と一緒にダイニングルームに向かっていると、ライト様が言います。

「またガリガリになったら、仕事を辞めさせるからな」
「わかってます! それに赤ちゃんが欲しいですので無理はしません。あ、ですので、ライト様が元気な時によろしくお願いします!」

 ノルドグレンでクーデターが起きる少し前に、ライト様から私と子作りをしたいという提案があり、その時に気持ちを伝えてもらい、そして、私も自分の気持ちを伝えました。
 それからはベッドは2つありますが、1つのベッドで眠るようになった感じです。

「言っておくが、子供がほしいってだけで、そういう事をしているわけじゃないからな」

 そう言って、私の手を優しく握ってくださったライト様の手を握り返して頷きます。

「私もです。それに、ああいう事をするのはライト様がいいですし、ライト様じゃないと嫌です」
「俺もリーシャじゃないと嫌だ」

 2人で顔を見合わせて笑いあったあと、ライト様がすぐに眉を寄せて言います。

「そういえば、幽閉されているアバホカ陛下の話を聞いたんだが聞きたいか?」
「今は、どうされているんでしょうか?」

 どうでも良いといえばどうでも良いのですが、今の私は、とても幸せなので多少、不快な事を思い出しても気になりません。
 だから、笑顔で聞いてみると、ライト様は不機嫌そうな顔になりながらも話を始めてくれたのでした。





 
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これにて本編が完結となります。

中途半端な終わり方になってしまったのは、タイトル回収をこだわっているからでございます。


不完全燃焼ですので、続編を書くつもりでしたが、本編を改稿し直してから書こうと思います。
長くかかりそうですので、一度、ここで完結とさせていただきます。
本当に申し訳ございません!

他の作品でお会いできましたら光栄です。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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