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9 ティータイム後の急な来客
メイドにお茶を淹れてもらい、メイドが部屋を出て行ったのを確認してから、エマ様が話し始める。
「馬鹿な息子でごめんなさいね。リリー。あなたはとっても可愛いわよ? いつもとお化粧の仕方が変わって、綺麗になってビックリしたって、リュカは言いたかったみたい」
「いえ、あの、いいんです。婚約者に裏切られたくらいなので、自分の顔のレベルはわかってますので」
「そういう意味じゃない!」
苦笑した私に、リュカは立ち上がって叫んでから頭を下げてくる。
「リリー、失礼な発言だった。ごめん。嫌な思いをさせたかったわけじゃないんだ」
「謝らないでよ。正直な意見を口にしただけでしょう?」
「リリーが嫌な気持ちになったんなら良くないだろ。それに化粧をしてなくても、君は可愛かったよ。ただ、全然、印象が違うから驚いたんだ。今の君も、化粧をする前の君も可愛いのは確かだから、その」
「えっ!」
「あらあら、リュカったら!」
リュカの予想外の発言に照れて言葉を無くしてしまった私と、自分で口にしておいて照れてしまったリュカ。
エマ様はそんな私たちを見て笑う。
「2人共、照れちゃって可愛らしいわね。初々しくて良いわ。やっぱり、婚約者がリリーになって良かったわね。時間を巻き戻すことはあまり良くないことだけれど、良かった点もあったわ!」
エマ様はそこまで言ってから、すぐに笑顔を消してリュカに話しかける。
「……ところで、リュカ」
「なんでしょうか」
「そろそろ、彼女が来るかもしれないから、準備をしておいたほうがいいんじゃないかしら」
「彼女?」
私が聞き返すと、エマ様は眉根を寄せてから答えてくれる。
「リュカの元婚約者のことよ。彼女の父親はあの女と同じ派閥なのよ。だから、絶対に文句を言ってくるに決まっているわ!」
可愛らしい顔を歪めるエマ様にではなく、私はリュカに尋ねる。
「あの女の派閥っていうのは?」
「側室の女性の家は反王妃派なんだよ。母上が王妃になったことが気に入らないんだ」
リュカは立ち上がって、立ったままで話をしていた私の隣に立った。
そして、耳元に自分の口を持ってくると、エマ様に聞こえないように小さな声で教えてくれた。
王妃陛下と側室の仲が良くないというのは、別におかしいことでもないわね。
親が違う派閥なら、余計に対立することにもなるでしょう。
もしかすると、側室の方は貴族内でのパワーバランス的なもので選ばれたのかしら?
だって、国王陛下とエマ様の様子を見た感じだと、側室が必要なようには思えなかったわ。
そういえば、いつかはリュカも側室を迎える日がくるのかしら。
なんだか複雑な気分だわ。
私の考えを読み取ったかのように、エマ様が言う。
「リリー、私が生きている間は、リュカには側室を迎えさせないから安心してちょうだい! 跡継ぎの問題については、いざとなった時に考えれば良いと思うのよ」
「母上、俺だって側室を迎えるつもりはありません。それにそんな話をするのはまだ先で良いでしょう。リリーはもうすぐ誕生日を迎えますが、それでもやっと16歳になるんですから」
リュカがため息を吐いた時だった。
扉がノックされたので、エマ様が返事をする。
中に入ってきたのはリュカの側近のレイクウッドだった。
レイクウッドは私をちらりと一瞥すると、私の隣に立ったままのリュカに話しかける。
「お話中、申し訳ございません。リュカ様、お客様がお見えになっています」
「今日は来客の予定はなかっただろ?」
「そうでしたが、急遽見えられたようです」
「今は無理だ。見たらわかるだろ? 俺は婚約者と母上と一緒に話をしているところなんだが?」
「何をくだらないことを言っているんですか!」
レイクウッドはエマ様がいるからか、リュカに敬語を使っていたけれど、我慢できなくなったのか声を荒らげて叫んだ。
「あら、婚約者といることの何がくだらないというの? しかも、私だって一緒にいるんだけど?」
エマ様が冷たい口調でレイクウッドに尋ねると、彼はびくりと身体を震わせた。
小柄なエマ様だというのに、威圧感のせいで、実際よりも体が大きく見えて、私も驚いてしまう。
「も、申し訳ございません。ただ、元婚約者でいらっしゃる、カナエ様のお父上のトロット公爵がカナエ様と一緒にお見えになっているものですから」
「約束がないなら帰ってもらったら?」
慌てて頭を下げたレイクウッドに向かって、エマ様は気怠げな表情で言ったあと、リュカのほうを見る。
「リュカ、あなたが決めなさいな」
「リリーや母上と一緒にいることより大事な用事なんてありません」
「そうよね?」
エマ様は満足そうににこりと微笑むと、レイクウッドに手を振る。
「聞こえたわよね? リュカは忙しいの。ああ、でも、そうね。トロット公爵まで来ているのなら、誰も応対せずに帰れというのは失礼かもしらないわね。元々、こちらの勝手で婚約破棄したのだし、文句を言いたくなる気持ちもわかるわ」
エマ様は少し考えてから言葉を続ける。
「そうだわ。リュカの代わりにオリバーを行かせましょう」
エマ様の言葉にレイクウッドが苦虫を噛み潰したような顔をした。
それもそのはず、オリバーというのは国王陛下のことだからだ。
突然、婚約破棄された側が怒る気持ちもわかるから、誰かが応対すべきだとは思う。
でも、さすがに国王陛下はどうなのと思い、立ち上がったエマ様に向かって声を掛ける。
「あの、エマ様」
「どうかしたの?」
エマ様が小首を傾げて、不思議そうな顔をする。
「私のことはお気になさらず、お客様の対応はリュカにしてもらってかまいません」
「何を言っているの。婚約破棄の件なら大人が出て当たり前よ」
エマ様はにっこりと笑みを浮かべて、話を続ける。
「トロット公爵のお相手をしてもらうために、オリバーの所に行ってくるわ。すぐに戻ってくるから、その間、リリーは今着ているドレスのサイズを合わせてもらってちょうだい」
エマ様はそう言うと、私の返事も待たず、レイクウッドを部屋の外に追いやってから、部屋を出て行った。
残された私とリュカは顔を見合わせる。
「あなたのお母さま、とても怖い方ね」
「そりゃあ、この国の王妃になるくらいだからな」
リュカが小さく息を吐くと、入れ替わりのように、エマ様のメイドと待ち構えていたらしい仕立て屋の人たちが部屋に入って来て、寸法を測られることになった。
「馬鹿な息子でごめんなさいね。リリー。あなたはとっても可愛いわよ? いつもとお化粧の仕方が変わって、綺麗になってビックリしたって、リュカは言いたかったみたい」
「いえ、あの、いいんです。婚約者に裏切られたくらいなので、自分の顔のレベルはわかってますので」
「そういう意味じゃない!」
苦笑した私に、リュカは立ち上がって叫んでから頭を下げてくる。
「リリー、失礼な発言だった。ごめん。嫌な思いをさせたかったわけじゃないんだ」
「謝らないでよ。正直な意見を口にしただけでしょう?」
「リリーが嫌な気持ちになったんなら良くないだろ。それに化粧をしてなくても、君は可愛かったよ。ただ、全然、印象が違うから驚いたんだ。今の君も、化粧をする前の君も可愛いのは確かだから、その」
「えっ!」
「あらあら、リュカったら!」
リュカの予想外の発言に照れて言葉を無くしてしまった私と、自分で口にしておいて照れてしまったリュカ。
エマ様はそんな私たちを見て笑う。
「2人共、照れちゃって可愛らしいわね。初々しくて良いわ。やっぱり、婚約者がリリーになって良かったわね。時間を巻き戻すことはあまり良くないことだけれど、良かった点もあったわ!」
エマ様はそこまで言ってから、すぐに笑顔を消してリュカに話しかける。
「……ところで、リュカ」
「なんでしょうか」
「そろそろ、彼女が来るかもしれないから、準備をしておいたほうがいいんじゃないかしら」
「彼女?」
私が聞き返すと、エマ様は眉根を寄せてから答えてくれる。
「リュカの元婚約者のことよ。彼女の父親はあの女と同じ派閥なのよ。だから、絶対に文句を言ってくるに決まっているわ!」
可愛らしい顔を歪めるエマ様にではなく、私はリュカに尋ねる。
「あの女の派閥っていうのは?」
「側室の女性の家は反王妃派なんだよ。母上が王妃になったことが気に入らないんだ」
リュカは立ち上がって、立ったままで話をしていた私の隣に立った。
そして、耳元に自分の口を持ってくると、エマ様に聞こえないように小さな声で教えてくれた。
王妃陛下と側室の仲が良くないというのは、別におかしいことでもないわね。
親が違う派閥なら、余計に対立することにもなるでしょう。
もしかすると、側室の方は貴族内でのパワーバランス的なもので選ばれたのかしら?
だって、国王陛下とエマ様の様子を見た感じだと、側室が必要なようには思えなかったわ。
そういえば、いつかはリュカも側室を迎える日がくるのかしら。
なんだか複雑な気分だわ。
私の考えを読み取ったかのように、エマ様が言う。
「リリー、私が生きている間は、リュカには側室を迎えさせないから安心してちょうだい! 跡継ぎの問題については、いざとなった時に考えれば良いと思うのよ」
「母上、俺だって側室を迎えるつもりはありません。それにそんな話をするのはまだ先で良いでしょう。リリーはもうすぐ誕生日を迎えますが、それでもやっと16歳になるんですから」
リュカがため息を吐いた時だった。
扉がノックされたので、エマ様が返事をする。
中に入ってきたのはリュカの側近のレイクウッドだった。
レイクウッドは私をちらりと一瞥すると、私の隣に立ったままのリュカに話しかける。
「お話中、申し訳ございません。リュカ様、お客様がお見えになっています」
「今日は来客の予定はなかっただろ?」
「そうでしたが、急遽見えられたようです」
「今は無理だ。見たらわかるだろ? 俺は婚約者と母上と一緒に話をしているところなんだが?」
「何をくだらないことを言っているんですか!」
レイクウッドはエマ様がいるからか、リュカに敬語を使っていたけれど、我慢できなくなったのか声を荒らげて叫んだ。
「あら、婚約者といることの何がくだらないというの? しかも、私だって一緒にいるんだけど?」
エマ様が冷たい口調でレイクウッドに尋ねると、彼はびくりと身体を震わせた。
小柄なエマ様だというのに、威圧感のせいで、実際よりも体が大きく見えて、私も驚いてしまう。
「も、申し訳ございません。ただ、元婚約者でいらっしゃる、カナエ様のお父上のトロット公爵がカナエ様と一緒にお見えになっているものですから」
「約束がないなら帰ってもらったら?」
慌てて頭を下げたレイクウッドに向かって、エマ様は気怠げな表情で言ったあと、リュカのほうを見る。
「リュカ、あなたが決めなさいな」
「リリーや母上と一緒にいることより大事な用事なんてありません」
「そうよね?」
エマ様は満足そうににこりと微笑むと、レイクウッドに手を振る。
「聞こえたわよね? リュカは忙しいの。ああ、でも、そうね。トロット公爵まで来ているのなら、誰も応対せずに帰れというのは失礼かもしらないわね。元々、こちらの勝手で婚約破棄したのだし、文句を言いたくなる気持ちもわかるわ」
エマ様は少し考えてから言葉を続ける。
「そうだわ。リュカの代わりにオリバーを行かせましょう」
エマ様の言葉にレイクウッドが苦虫を噛み潰したような顔をした。
それもそのはず、オリバーというのは国王陛下のことだからだ。
突然、婚約破棄された側が怒る気持ちもわかるから、誰かが応対すべきだとは思う。
でも、さすがに国王陛下はどうなのと思い、立ち上がったエマ様に向かって声を掛ける。
「あの、エマ様」
「どうかしたの?」
エマ様が小首を傾げて、不思議そうな顔をする。
「私のことはお気になさらず、お客様の対応はリュカにしてもらってかまいません」
「何を言っているの。婚約破棄の件なら大人が出て当たり前よ」
エマ様はにっこりと笑みを浮かべて、話を続ける。
「トロット公爵のお相手をしてもらうために、オリバーの所に行ってくるわ。すぐに戻ってくるから、その間、リリーは今着ているドレスのサイズを合わせてもらってちょうだい」
エマ様はそう言うと、私の返事も待たず、レイクウッドを部屋の外に追いやってから、部屋を出て行った。
残された私とリュカは顔を見合わせる。
「あなたのお母さま、とても怖い方ね」
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