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10 衝撃的な過去を知る午後
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サイズを測り終えた仕立て屋の人たちが、満足そうな顔をして帰って行った頃に、エマ様が自室に戻ってこられた。
「大丈夫でしたか?」
「ええ。オリバーが話をつけてくれるそうよ」
少し心配げに尋ねたリュカに、エマ様は安心しなさいと言わんばかりに指で丸を作った。
そして、私のほうを見て不思議そうにする。
「かなり早く終わったのね?」
「数人で測ってくださったので早かったです」
苦笑して答えると、エマ様は満足そうに微笑む。
「ちゃんと測ってもらえたのなら良いわ。リリーにドレスをプレゼントしたいのよ」
「お気持ちは有り難いのですが、私はエマ様からプレゼントをいただける立場ではございません!」
「リリー、あなたは大人しく私からプレゼントを受け取れば良いだけよ」
「……承知しました」
逆らっても無駄かと思って頷くと、エマ様は私の座っている向かい側のソファに座って、唐突に話を始める。
「リリー、リュカはね、オリバーにとっても似ているのよ」
エマ様はそう言うと、自分の隣に座っているリュカを見た。
リュカは居心地が悪そうに身じろぎ、そんなリュカを見て、私は口を開く。
「リュカは陛下のお顔にとても似ておられますよね」
「顔もそうなんだけど、性格もよ! この子、こうと決めたら頑固で、よっぽどじゃない限り、自分で決めたことを覆さないから面倒な時があるのよ!」
「……そうなんですね。でも、将来、国王になるのであれば、それくらいの決断力は必要かもしれません。まあ、あまり頑固すぎるのも良くはないかもしれませんが」
苦笑して言うと、エマ様は頷いてから訴えてくる。
「リリー、それを決断力と思える時もあるわ。だけど、それが良くないことにつながる時もあるの」
エマ様はそこで言葉を区切り、頬に当たる横髪を背中のほうに手ではらってから話を続ける。
「オリバーもリュカと同じ様に時間を巻き戻したことがあるんだけど、その理由はなんだと思う?」
「……理由ですか? 申し訳ございませんが見当もつきません」
すぐにギブアップして首を横に振ると、なぜかリュカが無言で立ち上がって、部屋から出ていこうとする。
そんなリュカをエマ様が呼び止めた。
「あら、リュカ、あなた、どこに行くのよ?」
「いや、その話は母上から何度も聞いているので、僕はここにいなくても良いかと思いまして」
「リュカ! あなたはこれからリリーの話を色々と聞いてあげないといけないのよ! 王妃だなんて、色々と面倒なことをさせられるんだから!」
「いや、母上は好き勝手されてるじゃないですか。というか、王妃が面倒だなんて、リリーの前で言わないで下さいよ!」
「リリーにそう思わせない様にするのが、あなたの役目じゃないの!」
結局、エマ様に捕まってしまったリュカは席に戻された。
どう反応すれば良いか困っていると、エマ様は笑顔になって話を再開する。
「あのね、リリー。実は私はオリバーからの結婚の申込みを何度も断っていたのよ」
「そ、そうなのですか?」
「そうよ! だって、リリー! 聞いて頂戴! 10歳の頃に初めて学園で同じクラスになったオリバーに、まずは交際を申し込まれたのよ。だけど、その時すでに彼にはソフィー様という婚約者がいたのよ!」
「婚約者がいらっしゃるのに、エマ様に交際を申し込んだんですか?」
「そうなのよ! 最低野郎でしょ!」
エマ様は立ち上がると、テーブルを回り込んで、私の隣りに座ってから話を続ける。
「だから、断ったのよ。婚約者がいらっしゃる方とはお付き合いなんかできませんって!」
「それはそうですよね。でも、その当時は王太子殿下だった陛下からの交際の申し込みを断ることは難しかったんじゃないですか? 普通なら、側室になるように周りからすすめられそうな気がします」
「ええ。リリーの予想通りに周りからはそう言われたわ。だけど、側室なんて嫌だと断ったの。もちろん、側室そのものを否定してるわけではないのよ? 私がなりたくなかっただけなの」
「普通はそれも断るなんて出来ないのではないのでしょうか?」
「それはそうなんだけど、あの頃は若かったし、とにかく嫌だったのよ。怖いもの知らずだったのかもしれないわね。しかも、オリバーも優しかったから」
エマ様は一度言葉を区切ってから、また話を始める。
「オリバーはちゃんと婚約を解消するつもりでいたみたい。だけど、それでも嫌だったの。何年もそのやり取りは続いて、結局、オリバーも諦めて、ソフィー様と結婚したのよ。それから少しして、私の家が事業に失敗して、私が碌でもない男の所に嫁がないといけなくなってしまったの」
その頃のことを思い出したのか、エマ様は自分の右頬に右手を当てて、大きなため息をついた。
「その後はどうなったのですか?」
現在、エマ様がここにいるのだから、嫁がなくて良くなったことはわかっている。
だけど、ここまでの過程を知りたくて聞いてみた。
「それを知ったオリバーは、あの石を使って過去に戻ってくれたのよ」
「ということは、国王陛下はエマ様のお家が潰れないようにしてくれたんですか?」
「それもそうなんだけど、過去に戻って、ソフィー様を正妃ではなく側室にするということにしたのよ」
「はい?」
意味がよく理解できなかったので聞き返すと、リュカが説明してくれる。
「その時、ソフィー様は兄さんを身ごもっていた。だから、あまり過去に戻りすぎると、兄さんの命が消えてしまうだろ? 父上はさすがに、それはいけないと思ったらしい。だから、母上が変な男の嫁に行くよりも前であり、兄さんの命が宿っている時に戻って、母上が自分の嫁に来れるように正妃のポジションを空けたんだよ」
何だか複雑な話になってきた気がするわ。
それに、身ごもっていたということは、国王陛下とソフィー様は上手くやれていたということなのかしら?
「借金を父上が返す代わりに、見返りとして母上に結婚を求めたんだ。もちろん、そのお金は父上がお祖父様から引き継いだ金を自分で運用して貯めたお金で、国費ではない」
「陛下はすごい執念だし、ちょっとソフィー様がお気の毒な気もしてくるわね。でも、エマ様が嫌な男性に嫁がずに済んだのは良かったです」
途中まではリュカに言い、途中からはエマ様のほうを向いて私は言った。
「ただ、ソフィー様が身ごもっていたことにも疑問が残っているのよね」
「……それはどういうことでしょう?」
エマ様の意味深な発言が気になって聞いてみた。
でも、エマ様もリュカも苦笑するだけで、答えを教えてはくれなかった。
もしかして、ソフィー様のお腹の子供は国王陛下の子供ではない可能性があるのかしら?
――そんなわけないわよね?
真実味を帯びている気がしたけれど、そんなことがあっては大変なことだと思うから、私はその考えを頭から追いやった。
「大丈夫でしたか?」
「ええ。オリバーが話をつけてくれるそうよ」
少し心配げに尋ねたリュカに、エマ様は安心しなさいと言わんばかりに指で丸を作った。
そして、私のほうを見て不思議そうにする。
「かなり早く終わったのね?」
「数人で測ってくださったので早かったです」
苦笑して答えると、エマ様は満足そうに微笑む。
「ちゃんと測ってもらえたのなら良いわ。リリーにドレスをプレゼントしたいのよ」
「お気持ちは有り難いのですが、私はエマ様からプレゼントをいただける立場ではございません!」
「リリー、あなたは大人しく私からプレゼントを受け取れば良いだけよ」
「……承知しました」
逆らっても無駄かと思って頷くと、エマ様は私の座っている向かい側のソファに座って、唐突に話を始める。
「リリー、リュカはね、オリバーにとっても似ているのよ」
エマ様はそう言うと、自分の隣に座っているリュカを見た。
リュカは居心地が悪そうに身じろぎ、そんなリュカを見て、私は口を開く。
「リュカは陛下のお顔にとても似ておられますよね」
「顔もそうなんだけど、性格もよ! この子、こうと決めたら頑固で、よっぽどじゃない限り、自分で決めたことを覆さないから面倒な時があるのよ!」
「……そうなんですね。でも、将来、国王になるのであれば、それくらいの決断力は必要かもしれません。まあ、あまり頑固すぎるのも良くはないかもしれませんが」
苦笑して言うと、エマ様は頷いてから訴えてくる。
「リリー、それを決断力と思える時もあるわ。だけど、それが良くないことにつながる時もあるの」
エマ様はそこで言葉を区切り、頬に当たる横髪を背中のほうに手ではらってから話を続ける。
「オリバーもリュカと同じ様に時間を巻き戻したことがあるんだけど、その理由はなんだと思う?」
「……理由ですか? 申し訳ございませんが見当もつきません」
すぐにギブアップして首を横に振ると、なぜかリュカが無言で立ち上がって、部屋から出ていこうとする。
そんなリュカをエマ様が呼び止めた。
「あら、リュカ、あなた、どこに行くのよ?」
「いや、その話は母上から何度も聞いているので、僕はここにいなくても良いかと思いまして」
「リュカ! あなたはこれからリリーの話を色々と聞いてあげないといけないのよ! 王妃だなんて、色々と面倒なことをさせられるんだから!」
「いや、母上は好き勝手されてるじゃないですか。というか、王妃が面倒だなんて、リリーの前で言わないで下さいよ!」
「リリーにそう思わせない様にするのが、あなたの役目じゃないの!」
結局、エマ様に捕まってしまったリュカは席に戻された。
どう反応すれば良いか困っていると、エマ様は笑顔になって話を再開する。
「あのね、リリー。実は私はオリバーからの結婚の申込みを何度も断っていたのよ」
「そ、そうなのですか?」
「そうよ! だって、リリー! 聞いて頂戴! 10歳の頃に初めて学園で同じクラスになったオリバーに、まずは交際を申し込まれたのよ。だけど、その時すでに彼にはソフィー様という婚約者がいたのよ!」
「婚約者がいらっしゃるのに、エマ様に交際を申し込んだんですか?」
「そうなのよ! 最低野郎でしょ!」
エマ様は立ち上がると、テーブルを回り込んで、私の隣りに座ってから話を続ける。
「だから、断ったのよ。婚約者がいらっしゃる方とはお付き合いなんかできませんって!」
「それはそうですよね。でも、その当時は王太子殿下だった陛下からの交際の申し込みを断ることは難しかったんじゃないですか? 普通なら、側室になるように周りからすすめられそうな気がします」
「ええ。リリーの予想通りに周りからはそう言われたわ。だけど、側室なんて嫌だと断ったの。もちろん、側室そのものを否定してるわけではないのよ? 私がなりたくなかっただけなの」
「普通はそれも断るなんて出来ないのではないのでしょうか?」
「それはそうなんだけど、あの頃は若かったし、とにかく嫌だったのよ。怖いもの知らずだったのかもしれないわね。しかも、オリバーも優しかったから」
エマ様は一度言葉を区切ってから、また話を始める。
「オリバーはちゃんと婚約を解消するつもりでいたみたい。だけど、それでも嫌だったの。何年もそのやり取りは続いて、結局、オリバーも諦めて、ソフィー様と結婚したのよ。それから少しして、私の家が事業に失敗して、私が碌でもない男の所に嫁がないといけなくなってしまったの」
その頃のことを思い出したのか、エマ様は自分の右頬に右手を当てて、大きなため息をついた。
「その後はどうなったのですか?」
現在、エマ様がここにいるのだから、嫁がなくて良くなったことはわかっている。
だけど、ここまでの過程を知りたくて聞いてみた。
「それを知ったオリバーは、あの石を使って過去に戻ってくれたのよ」
「ということは、国王陛下はエマ様のお家が潰れないようにしてくれたんですか?」
「それもそうなんだけど、過去に戻って、ソフィー様を正妃ではなく側室にするということにしたのよ」
「はい?」
意味がよく理解できなかったので聞き返すと、リュカが説明してくれる。
「その時、ソフィー様は兄さんを身ごもっていた。だから、あまり過去に戻りすぎると、兄さんの命が消えてしまうだろ? 父上はさすがに、それはいけないと思ったらしい。だから、母上が変な男の嫁に行くよりも前であり、兄さんの命が宿っている時に戻って、母上が自分の嫁に来れるように正妃のポジションを空けたんだよ」
何だか複雑な話になってきた気がするわ。
それに、身ごもっていたということは、国王陛下とソフィー様は上手くやれていたということなのかしら?
「借金を父上が返す代わりに、見返りとして母上に結婚を求めたんだ。もちろん、そのお金は父上がお祖父様から引き継いだ金を自分で運用して貯めたお金で、国費ではない」
「陛下はすごい執念だし、ちょっとソフィー様がお気の毒な気もしてくるわね。でも、エマ様が嫌な男性に嫁がずに済んだのは良かったです」
途中まではリュカに言い、途中からはエマ様のほうを向いて私は言った。
「ただ、ソフィー様が身ごもっていたことにも疑問が残っているのよね」
「……それはどういうことでしょう?」
エマ様の意味深な発言が気になって聞いてみた。
でも、エマ様もリュカも苦笑するだけで、答えを教えてはくれなかった。
もしかして、ソフィー様のお腹の子供は国王陛下の子供ではない可能性があるのかしら?
――そんなわけないわよね?
真実味を帯びている気がしたけれど、そんなことがあっては大変なことだと思うから、私はその考えを頭から追いやった。
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