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15 深まる謎

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 トラブレル王国に来てから10日程経った日の朝、親からの手紙を受け取った。
 中身を読んですぐに、私は手紙を持ったまま椅子から立ち上がった。
 そして、私の世話をしてくれているメイドに、リュカの今日の予定を聞く。
 すると詳しい予定はわからないけれど、城内にいることは間違いないと教えてくれた。
 約束はしていないけれど、どうしても話をしたくてリュカの所へと向かうことにした。
 時間が時間なだけに、まずはリュカの部屋の手前にある、彼の執務室の扉をノックする。

「はい」

 返ってきた返事はリュカのものではなく、レイクウッドのものだった。

 最悪だわ。何も言わずに去るわけにもいかないし、話をするしかないわよね。

 憂鬱な気持ちを何とかこらえて、扉は開けずにレイクウッドに尋ねる。

「おはようございます。リュカはいますか?」
「おはようございます。リュカ様なら、もうすぐこの部屋に来られますが、その声はリリー様ですか?」
「あ、ええ、そうです。名乗りもせずに失礼いたしました」

 名乗ることを忘れていたため謝ると、扉が開かれ、レイクウッドが笑顔で話しかけてくる。

「まもなく来られると思いますので、中でお待ち下さい」
「いえ。リュカの側近といえど、男性と2人きりになるわけにはいきませんので」
「街で声を掛けてきた人間には付いていくのに、今は駄目なんですか」
「あなたはリュカではないでしょう? 私はリュカだから付いていったんです」

 言い返すと、レイクウッドは鼻で笑ってから答える。

「まあ、そういうことにしておきましょう。今、あなたとリュカの出会いを調べさせています。あなたに不審な点が見つかったら」
「見つかったらどうするかは知りませんが、あなたにそんな権利はありますか?」
「……はい?」
「あなたのその態度も気に入りません。あなたについてリュカに話をさせてもらいます」

 踵を返して、リュカの部屋に向かって歩き出すと、レイクウッドが追いかけてきた。

「お待ち下さい!」
「好きな様に調べたら良いですよ。私たちが言った話は嘘ではありませんから」
「リリー様、あなたはメイドに1時にドルセン広場へ行くと仰っていたようですが、なぜ、そんなことを言い出したんです?」

 どうして、レイクウッドがそのことを知っているの?
 動揺を見せないようにして言葉を返す。

「……行きたくなったから行った、それでは駄目なんですか?」
「そんな偶然、ありえますかね?」

 鼻で笑うレイクウッドに、カッとなってしまい声を荒らげる。

「その情報の出処は私のメイドですね? 彼女にあなたをクビにし、アグリタでもトラブレルでも働けなくしてあげると伝えて下さい」
「そんな、なぜ私がそんなことをしないといけないんですか!」
「私がドルセン広場に行く話をメイドが知っていることはありません。で、あなたも私のメイドからその話を聞いたのですよね? 主人の情報を他人に簡単に教える人間はメイドとして失格でしょう。あなたが彼女とつながっているのなら、あなたから伝えてもらったほうが早いと思っただけです」
「そんなことをあなたに命令される筋合いはない!」
「勝手に私とリュカの身辺を探っておいて、よくそんなことが言えますね! 陛下とエマ様は私とリュカの出会いに対して、何も言わずに婚約を認めてくださっています! それなのに、あなたは何のためにそんなことを? 陛下よりも偉い方がこの国にはいらっしゃるんですか!?」

 頭に血が上ってしまった私は、早口でまくし立てて、レイクウッドに詰め寄った。
 すると、レイクウッドは焦った表情になる。

「そんな方はいらっしゃいません。私が……、その、勝手にやったことです」
「そうですか。では、あなたが私とリュカの関係を疑って、どうにかして別れさせようとしているので困っているとエマ様に相談させてもらいます」
「そんな! 別れさせようとしているわけではありません! ただ、私は、リュカに幸せになってもらいたくて」

 レイクウッドが俯いて声を震わせた。

「私が相手では幸せになれないということですか。あなたの考えはよくわかりました」

 吐き捨てるように言ったあと、レイクウッドをそのままにして、私はリュカの部屋に向かった。

 彼がどうしてそこまでするのかわからない。

 レイクウッドは第一王女殿下を狙った事件には加担していないのかしら。
 そうじゃないと、こんなにも私とリュカを別れさせようとする理由がわからない。
 リュカを容疑者にしてしまったら、普通ならリュカとトロット公爵令嬢の婚約は破棄されてしまうはず。
 彼はトロット公爵令嬢とリュカをくっつけたいみたいだから、リュカを罠にはめる理由がわからない。

 あと、裏切り者のメイドはマララで決まりみたいね。
 お金につられて動いたんだわ。
 
 頭の中で色々なことを考えながら、リュカの部屋の近くまで来たところで、部屋から出てきた彼と出くわした。

「リリー!」
「リュカ!」

 リュカの顔を見てホッとした私は、彼の元に走り寄る。

「良かった! 話したいことがあったの」
「どうした、何かあったのか?」
「ええ。色々とあったのよ。少し話したいんだけど、廊下では話せないわ。部屋に入ってもいい?」
「え、いや」
「迷惑かしら?」
「その、迷惑じゃないけど、なんというか」

 私が不思議そうにすると、リュカは大きなため息を吐く。

「まあいいか。リリー、部屋に入りたいだなんて、他の男に言うなよ?」
「言うわけないじゃない」

 きっぱりと答えると、リュカは苦笑してから、私を部屋の中に招き入れてくれた。 
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