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5 第二王子とは?
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「誰だ、お前は!?」
ボルバー様が謎の男性を指差して、言葉を続ける。
「俺が侯爵令息だとわかっていて、そんな口をきいているんだろうな?」
その言葉に対し、フードを被った男性はゆっくりと顔を上げる。
けれど、口や鼻も外套と同じ色の茶色の布で覆い隠しているので目だけしか見えなかった。
吊り目気味ではあるけれど、ぱっちりとした二重の大きな目で、瞳の色は私の国では存在しない紅色だった。
「……綺麗」
思わず、その瞳に見惚れて呟くと、表情を緩めたのか男性の眉間のシワがなくなった。
「どうかされたの?」
オブリー公爵夫人が男性に目を向けると、なぜか彼は素早くフードを目深にかぶったため、表情が一切わからなくなった。
「まあ、薄気味が悪い。この国のカフェにはこんな得体のしれない人間も入れるのね」
オブリー公爵夫人が鼻で笑う。
「他国の公爵夫人も自由に歩ける国ではありますし、武装していなければ、犯罪者以外は入国できますからね」
この国は治安は安定しているし、人の多い繁華街も昼間はスリなどの犯罪じみたことさえも、そう起こらない。
平和ボケしている国と言われてしまったら、それは間違っていないと思う。
「公爵夫人のくせに堂々と浮気している人間に言われたくないな。あなたは自分の立場というものを理解していないんだな」
「公爵夫人だからこそ出来ることがありますのよ?」
「公爵夫人だからといって、何をしても良いと思っているのか?」
口や鼻を覆っていた布を指で緩めて、声が通りやすくしてから彼は尋ねた。
というか、この人、公爵夫人相手に敬語を使っていないんだけど大丈夫なのかしら?
私が思うくらいだから、オブリー公爵夫人もそう考えたようで、冷たい口調で尋ねる。
「あなたこそ公爵夫人に対して、そんな態度を取っても良いと思っているの?」
「取っても良い人間だから大丈夫だ」
「そんなわけないでしょう! 公爵夫人に偉そうな態度を取っても良い人間なんて本当に限られているのよ!?」
「その限られている人間の中に俺がいるんだ」
「そんな人間がこんな田舎みたいなところにいるわけがないでしょう!」
オブリー公爵夫人は立ち上がって叫ぶ。
あなただって、現在、ここにいるじゃないですか。
と、ツッコミたいところではあるけれど、オブリー公爵夫人と謎の男性を交互に見つつ、二人の話を黙って聞いておくことにした。
すると、オブリー公爵夫人を怒らせたことが気に入らないのか、大人しく黙っていたボルバー様までもが何やら文句を言い始める。
「おい、目上の人間に向かって失礼だろ! その薄汚いフードを取れ!」
「取ってもいいけど、後悔するぞ」
「うるさい!」
ボルバー様がテーブルを回り込んで、紅い瞳を持つ男性のところへ向かって歩いていく。
「面倒くさい男だな」
大きなため息を吐いたあと、男性は椅子の背に大きくもたれかかって足を組んだ。
その態度が余計にボルバー様の怒りに火を点けてしまったらしく、近付いた彼が男性のほうに手を伸ばした時だった。
ガタガタという音と共に、紅い瞳の男性の背後と横のテーブルに座っていた人達が一斉に立ち上がった。
それに驚いたボルバー様は男性に伸ばしていた手を引っ込めて、オドオドした様子で周りを見る。
「い、一体、何なんだ?」
「大人しくしていてくれれば怖い思いをせずに済んだのにな」
そう言って紅い瞳の男性はフードを頭の後ろに押しやり、はっきりと顔を見せた。
漆黒の短髪。
前髪は少しだけ長めで目にかかりそうなのは気になるけれど、とても可愛らしい顔をしている美少女だった。
声が低かったから男性と思っていたけれど、そうじゃなかったのね。
そう思った時「ひっ」とオブリー公爵夫人が悲鳴を上げた。
「どうかされましたか?」
オブリー公爵夫人が大きく目を見開き、美少女を凝視しているので聞いてみると、彼女は立っていられなくなったのか、すとんと椅子に座って、何とか言葉を発する。
「あ、あ、あの、紅い瞳は……っ」
「紅い瞳はリシャード国の王家の血をひく方しか存在しないと言われております」
言葉を紡げないオブリー公爵夫人の代わりに、私達の隣のテーブルの席に座っていた女性が答えてくれた。
……王家の血を引く方?
「……ということは、あちらにおられる御方は……」
あまりの驚きに、私まで言葉が紡げないでいると、金色のウェーブのかかった柔らかな面立ちの女性が教えてくれる。
「あちらにおられる御方は、リシャード国の第二王子、セナ様でございます」
「……王子、ですか? 王女ではなく?」
聞き返すと、セナ様が立ち上がって叫ぶ。
「よく女性と間違えられるけど、俺は男だ!」
「も、申し訳ございません!」
慌てて立ち上がって、頭を下げた。
というか、どうして隣国の第二王子がこんなところにいるのよ!?
※ 感想の受付を開始しますが、少しバタバタしておりますので、返信ができない可能性がありますことをご了承くださいませ。
ボルバー様が謎の男性を指差して、言葉を続ける。
「俺が侯爵令息だとわかっていて、そんな口をきいているんだろうな?」
その言葉に対し、フードを被った男性はゆっくりと顔を上げる。
けれど、口や鼻も外套と同じ色の茶色の布で覆い隠しているので目だけしか見えなかった。
吊り目気味ではあるけれど、ぱっちりとした二重の大きな目で、瞳の色は私の国では存在しない紅色だった。
「……綺麗」
思わず、その瞳に見惚れて呟くと、表情を緩めたのか男性の眉間のシワがなくなった。
「どうかされたの?」
オブリー公爵夫人が男性に目を向けると、なぜか彼は素早くフードを目深にかぶったため、表情が一切わからなくなった。
「まあ、薄気味が悪い。この国のカフェにはこんな得体のしれない人間も入れるのね」
オブリー公爵夫人が鼻で笑う。
「他国の公爵夫人も自由に歩ける国ではありますし、武装していなければ、犯罪者以外は入国できますからね」
この国は治安は安定しているし、人の多い繁華街も昼間はスリなどの犯罪じみたことさえも、そう起こらない。
平和ボケしている国と言われてしまったら、それは間違っていないと思う。
「公爵夫人のくせに堂々と浮気している人間に言われたくないな。あなたは自分の立場というものを理解していないんだな」
「公爵夫人だからこそ出来ることがありますのよ?」
「公爵夫人だからといって、何をしても良いと思っているのか?」
口や鼻を覆っていた布を指で緩めて、声が通りやすくしてから彼は尋ねた。
というか、この人、公爵夫人相手に敬語を使っていないんだけど大丈夫なのかしら?
私が思うくらいだから、オブリー公爵夫人もそう考えたようで、冷たい口調で尋ねる。
「あなたこそ公爵夫人に対して、そんな態度を取っても良いと思っているの?」
「取っても良い人間だから大丈夫だ」
「そんなわけないでしょう! 公爵夫人に偉そうな態度を取っても良い人間なんて本当に限られているのよ!?」
「その限られている人間の中に俺がいるんだ」
「そんな人間がこんな田舎みたいなところにいるわけがないでしょう!」
オブリー公爵夫人は立ち上がって叫ぶ。
あなただって、現在、ここにいるじゃないですか。
と、ツッコミたいところではあるけれど、オブリー公爵夫人と謎の男性を交互に見つつ、二人の話を黙って聞いておくことにした。
すると、オブリー公爵夫人を怒らせたことが気に入らないのか、大人しく黙っていたボルバー様までもが何やら文句を言い始める。
「おい、目上の人間に向かって失礼だろ! その薄汚いフードを取れ!」
「取ってもいいけど、後悔するぞ」
「うるさい!」
ボルバー様がテーブルを回り込んで、紅い瞳を持つ男性のところへ向かって歩いていく。
「面倒くさい男だな」
大きなため息を吐いたあと、男性は椅子の背に大きくもたれかかって足を組んだ。
その態度が余計にボルバー様の怒りに火を点けてしまったらしく、近付いた彼が男性のほうに手を伸ばした時だった。
ガタガタという音と共に、紅い瞳の男性の背後と横のテーブルに座っていた人達が一斉に立ち上がった。
それに驚いたボルバー様は男性に伸ばしていた手を引っ込めて、オドオドした様子で周りを見る。
「い、一体、何なんだ?」
「大人しくしていてくれれば怖い思いをせずに済んだのにな」
そう言って紅い瞳の男性はフードを頭の後ろに押しやり、はっきりと顔を見せた。
漆黒の短髪。
前髪は少しだけ長めで目にかかりそうなのは気になるけれど、とても可愛らしい顔をしている美少女だった。
声が低かったから男性と思っていたけれど、そうじゃなかったのね。
そう思った時「ひっ」とオブリー公爵夫人が悲鳴を上げた。
「どうかされましたか?」
オブリー公爵夫人が大きく目を見開き、美少女を凝視しているので聞いてみると、彼女は立っていられなくなったのか、すとんと椅子に座って、何とか言葉を発する。
「あ、あ、あの、紅い瞳は……っ」
「紅い瞳はリシャード国の王家の血をひく方しか存在しないと言われております」
言葉を紡げないオブリー公爵夫人の代わりに、私達の隣のテーブルの席に座っていた女性が答えてくれた。
……王家の血を引く方?
「……ということは、あちらにおられる御方は……」
あまりの驚きに、私まで言葉が紡げないでいると、金色のウェーブのかかった柔らかな面立ちの女性が教えてくれる。
「あちらにおられる御方は、リシャード国の第二王子、セナ様でございます」
「……王子、ですか? 王女ではなく?」
聞き返すと、セナ様が立ち上がって叫ぶ。
「よく女性と間違えられるけど、俺は男だ!」
「も、申し訳ございません!」
慌てて立ち上がって、頭を下げた。
というか、どうして隣国の第二王子がこんなところにいるのよ!?
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