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4 オブリー公爵家とは?
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「はじめまして、オブリー公爵夫人にお会いできて光栄です。アーティア・レモンズと申します」
「レモンズさん……。美味しそうなお名前ね」
「そうですか? レモンを思い出して酸っぱい気持ちになりそうですが……」
つい、オブリー公爵夫人に言葉を返してしまうと、ボルバー様が私の鼻先に指を突きつけて言う。
「彼女の言うことに文句をつけるなよな」
「文句を言ったつもりはございませんが、人の意見に対して反論するような失礼なことをしてしまい申し訳ございませんでした」
オブリー公爵夫人に頭を下げると、ボルバー様の怒りの声が頭上から聞こえてくる。
「おい! そんなことで許されると思うなよ! 床に額を付けて謝れ!」
「やめてちょうだい。あまり注目を浴びたくないのよ。主人に知られては困るの。レモンズさん、顔を上げてちょうだい」
オブリー公爵夫人に促され、ゆっくりと顔を上げると、店内にいる客の視線が私達に注がれていることに気が付いた。
公爵家なら、さすがの私も覚えているはずなんだけれど、オブリー公爵家なんて聞いたこともない。
私が忘れてしまっているだけかしら?
というか、他のお客さんも私とオブリー公爵夫人が誰かはわかっていないみたいで、私達二人がボルバー様のことで揉めていると思われているようだった。
迷惑すぎるわ!
「あの、オブリー公爵夫人」
「何かしら? とにかく、座って話をしましょう。よろしいですわよね?」
オブリー公爵夫人は妖艶な笑みを浮かべ、紫色のウェーブのかかった長い髪をかきあげた。
「もちろんです。そちらの席へどうぞ」
私の向かい側の席に座るように促すと、オブリー公爵夫人はボルバー様の手を借りて椅子に座った。
ボルバー様は自分で近くにあった椅子を動かして、彼女のすぐ隣に座ると、ゴミでも見るような目で私を見つめる。
「ああ、どうして、俺はこんな女と結婚しなければならないんだ」
「では、断っていただけませんか。出来れば、こちらへの慰謝料付きでお願いいたします」
「何を言ってるんだ!? 馬鹿なのか?」
「それはこちらのセリフですわ。婚約者と会うのに恋人を連れてくる人がいます? 意味がわかりませんわ」
「う、うるさいな! お前から断ればいいだろう!」
「こちらにはそれが出来ない事情があるのです」
ふうと息を吐いてから、オブリー公爵夫人のほうに顔を向ける。
「オブリー公爵夫人にお聞きしたいのですが、オブリー公爵家の領地はどのあたりになるのでしょうか?」
「あら、伝えていなかったわね。私は隣国の公爵夫人なのよ」
「隣国の公爵夫人……」
ボルバー様は正真正銘の馬鹿だわ。
もちろん、同じ国の公爵夫人に手を出すのも良くないけれど、隣国なんて国際問題になったらどうするのよ!?
「ふふ。私の美貌に驚いているみたいね。私は主人より十歳以上も上なのよ」
「そうなんですね」
違うことに驚いていたのだけれど、オブリー公爵夫人の話に合わせておくことにする。
オブリー公爵家がどんな感じなのか聞いておきたかった。
「夫は私をあまり相手にしてくれないの」
「それはどういうことでしょう?」
「仕事がお休みの日に、出かけようと誘ってくれるんだけれど、その日は毎回、ボルバーと約束しているのよ」
「……はあ」
「ボルバーと約束していない日に声を掛けたら、仕事だと言うのよ。おかしいでしょう?」
いや、仕事がお休みの日に誘ってくれているのに断ってるのはあなたでしょう……。
口に出すのをなんとかこらえて質問してみる。
「あの、ボルバー様とオブリー公爵夫人はどのようにして知り合われたのですか?」
「俺が声を掛けたんだ」
ボルバー様が誇らしげに自分を親指で示して続ける。
「俺は勇気のある男だからな。旅先でだって、素敵な女性を見かけたら声を掛ける」
「……そうなんですのね。で、オブリー公爵夫人はその声かけに反応されたのですか? 周りに騎士やメイドもいたのでは?」
ボルバー様を相手にするのが面倒に感じたので、オブリー公爵夫人に尋ねると、彼女は微笑む。
「面白そうな方だと思ったから、私が許可を出したのよ」
「そうなんですのね」
危機感が足りないのでは?
それに、その様子だと、夫人が知らないだけで騎士やメイドはオブリー公爵に話をしていそうね。
とツッコミたくなる気持ちを抑え、質問を続ける。
「それからのお付き合いなんですのね。オブリー公爵夫人は、ボルバー様のことをどう思ってらっしゃるんです?」
「可愛い恋人よ」
「オブリー公爵閣下はお二人の関係を知らないのですよね?」
「そうよ。だから、言わないでほしいのだけれど?」
となると、オブリー公爵夫人から口止め料をもらっても良いのでは?
そんな悪い考えが頭に浮かんだ時だった。
「そういえば、あなたのお母様のことだけれど」
「……母というのは?」
アホーラ様のことを言っているのだとわかっていながらも聞き返すと、オブリー公爵夫人は醜い笑みを浮かべる。
「男性と駆け落ちして逃げたらしいわね? しかも平民の!」
「そうだ。こいつは最悪な女の娘なんだ。こんな女と婚約だなんてありえねぇ!」
椅子から立ち上がって、ボルバー様は近くにいる客に向かって叫ぶ。
「みんな、聞いてくれ! ここにいる女は母親に捨てられた女なんだ! だから、俺も捨ててやろうと思う!」
訳の分からない話をされて、周りの客は、皆、唖然としていた。
本当に迷惑な男ね。
我慢ができず、言い返そうとした時だった。
「だから俺も捨ててやろうだなんて、よくもそんなことが言えたもんだ。それから、アーティアは捨てられてなんかない」
私の背後から声が聞こえたので振り返ると、こちらに身体を向けて椅子に座っている男性らしき人がいた。
男性らしきというのは、外套のフードで顔を覆い隠している上に俯いているから、顔が見えなかったので声だけで判断した。
というか、今、アーティアって言った?
「レモンズさん……。美味しそうなお名前ね」
「そうですか? レモンを思い出して酸っぱい気持ちになりそうですが……」
つい、オブリー公爵夫人に言葉を返してしまうと、ボルバー様が私の鼻先に指を突きつけて言う。
「彼女の言うことに文句をつけるなよな」
「文句を言ったつもりはございませんが、人の意見に対して反論するような失礼なことをしてしまい申し訳ございませんでした」
オブリー公爵夫人に頭を下げると、ボルバー様の怒りの声が頭上から聞こえてくる。
「おい! そんなことで許されると思うなよ! 床に額を付けて謝れ!」
「やめてちょうだい。あまり注目を浴びたくないのよ。主人に知られては困るの。レモンズさん、顔を上げてちょうだい」
オブリー公爵夫人に促され、ゆっくりと顔を上げると、店内にいる客の視線が私達に注がれていることに気が付いた。
公爵家なら、さすがの私も覚えているはずなんだけれど、オブリー公爵家なんて聞いたこともない。
私が忘れてしまっているだけかしら?
というか、他のお客さんも私とオブリー公爵夫人が誰かはわかっていないみたいで、私達二人がボルバー様のことで揉めていると思われているようだった。
迷惑すぎるわ!
「あの、オブリー公爵夫人」
「何かしら? とにかく、座って話をしましょう。よろしいですわよね?」
オブリー公爵夫人は妖艶な笑みを浮かべ、紫色のウェーブのかかった長い髪をかきあげた。
「もちろんです。そちらの席へどうぞ」
私の向かい側の席に座るように促すと、オブリー公爵夫人はボルバー様の手を借りて椅子に座った。
ボルバー様は自分で近くにあった椅子を動かして、彼女のすぐ隣に座ると、ゴミでも見るような目で私を見つめる。
「ああ、どうして、俺はこんな女と結婚しなければならないんだ」
「では、断っていただけませんか。出来れば、こちらへの慰謝料付きでお願いいたします」
「何を言ってるんだ!? 馬鹿なのか?」
「それはこちらのセリフですわ。婚約者と会うのに恋人を連れてくる人がいます? 意味がわかりませんわ」
「う、うるさいな! お前から断ればいいだろう!」
「こちらにはそれが出来ない事情があるのです」
ふうと息を吐いてから、オブリー公爵夫人のほうに顔を向ける。
「オブリー公爵夫人にお聞きしたいのですが、オブリー公爵家の領地はどのあたりになるのでしょうか?」
「あら、伝えていなかったわね。私は隣国の公爵夫人なのよ」
「隣国の公爵夫人……」
ボルバー様は正真正銘の馬鹿だわ。
もちろん、同じ国の公爵夫人に手を出すのも良くないけれど、隣国なんて国際問題になったらどうするのよ!?
「ふふ。私の美貌に驚いているみたいね。私は主人より十歳以上も上なのよ」
「そうなんですね」
違うことに驚いていたのだけれど、オブリー公爵夫人の話に合わせておくことにする。
オブリー公爵家がどんな感じなのか聞いておきたかった。
「夫は私をあまり相手にしてくれないの」
「それはどういうことでしょう?」
「仕事がお休みの日に、出かけようと誘ってくれるんだけれど、その日は毎回、ボルバーと約束しているのよ」
「……はあ」
「ボルバーと約束していない日に声を掛けたら、仕事だと言うのよ。おかしいでしょう?」
いや、仕事がお休みの日に誘ってくれているのに断ってるのはあなたでしょう……。
口に出すのをなんとかこらえて質問してみる。
「あの、ボルバー様とオブリー公爵夫人はどのようにして知り合われたのですか?」
「俺が声を掛けたんだ」
ボルバー様が誇らしげに自分を親指で示して続ける。
「俺は勇気のある男だからな。旅先でだって、素敵な女性を見かけたら声を掛ける」
「……そうなんですのね。で、オブリー公爵夫人はその声かけに反応されたのですか? 周りに騎士やメイドもいたのでは?」
ボルバー様を相手にするのが面倒に感じたので、オブリー公爵夫人に尋ねると、彼女は微笑む。
「面白そうな方だと思ったから、私が許可を出したのよ」
「そうなんですのね」
危機感が足りないのでは?
それに、その様子だと、夫人が知らないだけで騎士やメイドはオブリー公爵に話をしていそうね。
とツッコミたくなる気持ちを抑え、質問を続ける。
「それからのお付き合いなんですのね。オブリー公爵夫人は、ボルバー様のことをどう思ってらっしゃるんです?」
「可愛い恋人よ」
「オブリー公爵閣下はお二人の関係を知らないのですよね?」
「そうよ。だから、言わないでほしいのだけれど?」
となると、オブリー公爵夫人から口止め料をもらっても良いのでは?
そんな悪い考えが頭に浮かんだ時だった。
「そういえば、あなたのお母様のことだけれど」
「……母というのは?」
アホーラ様のことを言っているのだとわかっていながらも聞き返すと、オブリー公爵夫人は醜い笑みを浮かべる。
「男性と駆け落ちして逃げたらしいわね? しかも平民の!」
「そうだ。こいつは最悪な女の娘なんだ。こんな女と婚約だなんてありえねぇ!」
椅子から立ち上がって、ボルバー様は近くにいる客に向かって叫ぶ。
「みんな、聞いてくれ! ここにいる女は母親に捨てられた女なんだ! だから、俺も捨ててやろうと思う!」
訳の分からない話をされて、周りの客は、皆、唖然としていた。
本当に迷惑な男ね。
我慢ができず、言い返そうとした時だった。
「だから俺も捨ててやろうだなんて、よくもそんなことが言えたもんだ。それから、アーティアは捨てられてなんかない」
私の背後から声が聞こえたので振り返ると、こちらに身体を向けて椅子に座っている男性らしき人がいた。
男性らしきというのは、外套のフードで顔を覆い隠している上に俯いているから、顔が見えなかったので声だけで判断した。
というか、今、アーティアって言った?
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