条件付きにはなりますが、あなたの理想の妻を演じましょう

風見ゆうみ

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7  先代の国王と現国王の王命 ② 

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「父上から聞いてはいたんだけど、エアズ侯爵はかなり甘やかされて育てられていたらしいね」

 十九歳で王弟になった兄、ティールは王城の出入り口で私を出迎え、呑気そうに笑いながら言った。
 ティール兄様はロファー様が国王陛下宛に手紙を送ったことを知っていて、確実に面白がっている様子だ。国王になった兄、ディノスも反応は違えど面白がっていることは確かでしょう。
 そうじゃないと私をわざわざ呼び寄せたりしない。

「兄さんは仕事が落ち着いたら来るって言っていたし、それまでは僕が話を聞くよ」

 ティール兄様は、私が使っていた時のままにしているという私の部屋に連れて行くと、メイドにお茶を淹れさせた。
 最近まではこの部屋を使っていたこともあり、懐かしいというよりかは自分の家に帰って来た感じがする。メイドたちは私と思った以上に早く再会できたことを喜んでくれたし、こちらに残してきた侍女たちとも話ができて嬉しかった。

 このまま、エアズ侯爵邸に帰らないで、ここでゆっくりしていたい気分になるわ。……って、そういうわけにはいかないのよね。

 私が一息ついたところで、ティール兄様はソファにふんぞり返って座ると、笑顔で尋ねる。

「で、何があったの?」
「詳しいお話をする前にお聞きしたいのですが、ティール兄様はロファー様に恋人がいたことをご存知でしたか?」
「……恋人ねぇ。僕は知らなかったな。父上と兄さんは知っていたかもだけど」

 ティール兄様は碧色の瞳に漆黒の髪を持つ美青年だ。髪の一部が長く、その部分を赤いリボンで一つにまとめている。国王になったディノス兄様とは二つ違いだが、雰囲気が似ているので見分けがつきやすいように髪を伸ばしているらしい。
 影武者になる時は髪を切って対応しているけれど、最近はディノス兄様が城から出ることはなくなったので、髪はどんどん伸びている気がする。

 ティール兄様は幼い頃からディノス兄様のスペアとして育てられてきた。普通ならそんな境遇の自分を嫌になってディノス兄様のことをを嫌いになりそうなものだけど、ティール兄様はそうではなかった。
 こんなものだと諦めているというか、たまたま弟として生まれてきたからであって、別にディノス兄様が悪いわけではなく、自分がこんな境遇なのだと納得しているようだった。
 
 そういえば、気になっていたことがあったんだったわ。忘れないうちに聞いておこう。

「ティール兄様、話は変わりますけれど、先代の王妃陛下はどうしていらっしゃるのです?」
「使用人をいじめていることがわかって、兄さんが追い出した」
「追い出した!?」
「そう。母上って自分よりも若い女性が嫌いだろ? フェリがいなくなって当たる相手がいなくなったんだ。だから、メイドや侍女に当たりまくった。兄さんは注意をしたけれど、母上はまだいじめを続けると答えたから、それなら当たる相手がいない場所に案内するって言って、隠居地に追いやったんだ。そのタイミングでフェリが使用人をいじめているという連絡がきたんだからすごいよね」

 ティール兄様は笑って言ったあと「で、本当にいじめたの?」と聞いてきた。

 明らかに私がそんなことをするわけがないとわかっている様子だ。

「いじめているつもりはありません。ですが、ちょっと面倒なことになっているので、ディノス兄様がいらっしゃったら、全てお話しします」

 そう答えた時、ちょうど良いタイミングでディノス兄様が部屋に入ってきたのだった。
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