犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

文字の大きさ
16 / 36

15 無知だから言えること

しおりを挟む
 ミーグスとの買い物を無事に終えた7日後、膝下丈の紺色のプリンセスラインのドレスに身を包んだ私は、ミーグスと共に問題のパーティー会場にやって来ていた。 
 このパーティーに出席するため、休みの日のバイトは強制的に休むことになった。
 休みの日の前の晩から、私はミーグスの家に泊まることになり、まるでお姫様の様な待遇を受けた。
 幼い頃は私も貴族だったはずなのに、ここまでされた覚えはない。
 パーティー当日は、昼前からもう一度風呂に入られると、ドレスに着替えさせられた。
 そして、化粧や髪の毛のセットなど、ミーグスに着せ替え人形にされた時よりも、私にとっては精神的に辛い状況が続いた。
 屋敷の人には未来の奥様だなんて言われてしまったし、変な誤解をされてしまっていたから、余計に辛かった。
 しかも、違うと言っても微笑むだけで、わかってくれているようには思えなかった。
 準備が終わると、転移の魔法でミーグスの家から辺境伯の屋敷の前までたどり着いたので、移動時間としては一瞬の出来事だった。

 それにしても、転移魔法をミーグスが使えたなんて知らなかった。
 お金持ちだし、外見も良い。
 その上に使える人間が、国内では指の数ほどしかいないと言われている転移魔法を使えるだなんて、完璧すぎて腹が立つ。

「難しい顔をしてどうしたの」
「あなたの家の使用人の人たちのことを考えてたの」

 素直に「あなたのことを考えてました」とは言えないので、その1つ前に考えていた話を口にした。

「どうして?」
「私のことを未来の奥様と勘違いしてたから」
「……そんなこと言ってたの?」
「言ってたわよ。ちゃんと訂正しておいてよね? 別に屋敷の人には私たちの関係が嘘だってことを隠す必要はないでしょう」
「いや、いいんじゃないかな。真実を知ってるのは、君と僕とクラスメイト、それから僕の両親だけなんだから」
「え? あなたのご両親も知ってるの? ……って、そうよね。だから、私の学費と寮費をフレシア様からもらった慰謝料で立て替えてくれたのよね」

 パーティーはまだ始まっておらず、人もまばらなため、私とミーグスは会場の端のほうに置かれたソファーに並んで座って会話を続ける。

「それもあるけど、君は魔法は火の属性だろ?」
「わからないわ。試してみたことがないから」
「たぶん、そうだと思う。調べてみたらいい」

 私が住んでいる国には魔法が存在する。

 魔法には属性というものがあり、魔力が少ない者は基本は無属性と言われている。
 魔力の多い者は攻撃魔法が使えるため、火や水、光や闇などの何らかの属性がある。

 使える属性をどうやって調べるかというと、儀式的をしないとわからない。
 儀式をするにはお金が必要なので、私は調べたことがないのだ。

「お金に余裕が出来れば調べるわ」
「それならいつになるかわからないだろ。しょうがない。一緒に行こうか」
「え?」
「デートついでに調べに行くよ」
「ちょっと、デートって何よ?」
「……嫌なの?」
「えっ!?」

 そんな反応が返ってくるなんて思っていなかったので、驚いて聞き返した時だった。

「ディラン! ミゼライトさん!」

 ピンク色のイブニングドレスに身を包んだフレシア様が前方から私たちのところに駆け寄ってきた。
 そして、私の横に一人分座れるスペースが空いていたので、彼女は何の断りもなくそこに座った。

「今日のミゼライトさんはいつもと違って素敵よ。貧乏臭さがないわ」
「あ、ありがとうございます?」
「褒めてるんだから、素直に受け取ってちょうだい」

 笑顔で言うフレシア様に、私とミーグスは呆れた顔をした。

 何でもかんでも正直に言えば良いって話じゃないでしょうに。

 とにかく用件を聞いてみる。

「あの、フレシア様、何か御用でしょうか?」
「そうよ。ホーリルとの婚約していたことについて聞きたいの」

 フレシア様は私に身を寄せて話を続ける。

「あなたはホーリルの家の状態を知っていて、婚約者になったのよね?」
「なった、というか、決められた感じです」
「それは愛があったから?」
「愛ではありません」

 答えたあとに強い視線を感じて、そちらに目を向けると、ぽかんと口を開けて自分を見ているフェルナンディ卿がいることに気が付いた。

 もう婚約者ではないので、ホーリルではなくフェルナンディ卿と呼ぶことに決めたのだ。
 フェルナンディ卿を手で示しながら、フレシア様に尋ねる。

「あの、彼は良いんですか?」
「ディランから、あなたに近付くなと言われているからしょうがないのよ。ねぇ、ミゼライトさん。どうやって、あなたはご両親にホーリルとの婚約を認めてもらったの?」
「フレシア!」

 女性同士の会話だと思ったのか、黙って聞いていたミーグスだったけど、さすがに声を荒らげて非難する。

「君は本当に何も知らないんだな。もうやめろ」
「ど、どうして怒ってるの?」

 フレシア様はミーグスの表情と口調に怯えながら、私のドレスの袖を掴んだ。

 わざと言っているわけではなさそうね。
 私とフェルナンディ卿の婚約は、私の両親が生きていた時に決まったと思ってるのかしら。

「フレシア様。私とフェルナンディ卿との婚約が決まった時には私の両親はこの世にはいませんでした」
「え? どうしてなの?」
「いいかげんにしろ、フレシア」

 ミーグスはフレシア様に強い口調で言ったあと、私の腕をとって立ち上がる。

「フレシアやフェルナンディ卿の顔を見るのも不愉快だ。行くよ、ビアラ」
「え? あ、うん」

 ミーグスは私の腕を強引に引っぱって歩き出す。
 なぜか私を凝視しているフェルナンディ卿の前を通る際に、ミーグスは彼を睨みつけた。
 けれど、フェルナンディ卿はなぜか私のほうを見ていて、その視線に気付いている様子はなかった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?

みこと。
恋愛
 鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。 「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。 (あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)  現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。  そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。  なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?  この出会いが、クローディアに新しい道を拓く! ※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。

『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」 そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。 さらに王太子は宣言する。 「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。 履行履歴も整えず、契約も軽視し、 新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。 ――ですが。 契約は宣言では動きません。 信用は履歴の上にしか立ちません。 王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、 やがて止まったのは王太子の未来でした。 自ら押した承認印が、 自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。 公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。 救済なし。 やり直しなし。 契約通りに処理しただけですのに―― なぜか王太子が廃嫡されました。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました

Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。 「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」 元婚約者である王子はそう言い放った。 十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。 その沈黙には、理由があった。 その夜、王都を照らす奇跡の光。 枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。 「真の聖女が目覚めた」と——

処理中です...